第31話 調理や屋上の手入れなどに必要なものを買い込むために上野のかっぱ橋道具街へ出かけたよ

 さて、浅井さんや斉藤さんが食事を作ってくれたおかげで助かったが、確かに自炊に必要なものを俺はまだぜんぜん買っていなかった。


 生まれ戻った後は炊事などの家事全般はお母さんにまかせっきりだったし、”前”はスーパーの出来合いの惣菜や弁当などで簡単に済ませてしまうことも多かったしなぁ。


 とりあえず必要そうなものや置いておけば生活感が出そうなものを浅井さんや斉藤さんと一緒に金物屋や雑貨屋に買出しにいこう。


 しかし、なにも無いところから全部買いそろえるなら必要なものをすべて買えるところにいきたいよな。


 というわけで俺は上杉さん、浅井さん、斉藤さんを呼んで上野のかっぱ橋道具街に行くことにした。


「上野のかっぱ橋道具街に調理器具などの買出しにいくから車を出してくれ?

 相変わらず唐突だな。

 で、私は4人乗りのバンをレンタカーで借りてくればいいのか?」


 上杉さんにそう聞かれたので俺はうなずく。


「引越しするわけではないので二トントラックとかは多分必要ないと思うんですよね。

 でもまあそこそこ買い込むつもりなので電車で持って帰るのは大変だと思うし、積載量の多いバンがいいかなと」


 俺がそういうと上杉さんは少し考えた後言った。


「まあ、リムジンは長さとかの割には荷物は載せられんからな。

 食器棚のようなかさばるものを買うので無いなら確かにバンでこと足りるだろう。

 まあいい、ではバンを借りてきて車止めにとめるからおりを見て適当に降りてきて乗ってくれ」


 この時代は携帯電話で気軽に連絡するということができないのが不便だな。


 いっそトランシーバーでも買って上杉さんや北条さんには持っていてもらおうか。


 まあそれはともかく上杉さんの言葉に俺はうなずく。


「わかりました」


 そんなやり取りを斉藤さんはあきれた様子で見てから言う。


「本当に唐突ね。

 でも、必要なものをすべて買おうとするなら荷物を載せられる車があったほうが確かに便利かもしれないわね。

 鍋やフライパンは金属だから当然だけど、陶器やガラスも意外と重たいものだし」


 そして浅井さんが言う。


「できれば自家製の味噌を作れたりする容器や、ぬかづけ用のぬかどこ容器などもほしいと思っていましたし、ちょうどよかったです」


 というわけでちょっとたってから俺たちは下へ降りていった。


 なお北条さんは本社社員の採用面接やら俺の頼んでる買収案件などの処理やらではんぱでなく忙しくて、買いだしどころではないようなので呼んでいない。


 上野あるいは浅草かっぱ橋道具街は大正時代に誕生し、調理器具や食器など飲食業向けの問屋街として発展してきた場所だ。


 鍋や包丁などの調理用の金物だけでなく、洋食器や和食器、中華食器、箸や各種カトラリー、コーヒー、紅茶、中国茶などのポットなどの専門器具の問屋などもあったりするらしい。


 小売店ではなく問屋なので日常使いの食器や便利な調理器具などがお得な安い値段で買えるだけでなく、飲食店でしか使わないようなものも当然扱っている。


 ラーメン屋や学校給食で見るような巨大な寸胴鍋とかだな。


 とはいえ問屋街なので土日、祝日はお休みのお店も多く、夕方5時頃には閉店するお店も多いので平日が休みの間に行っておかないとな。


 適当に時間をつぶしてから車止めに降りていくとしばらくして、シルバーのバンが入ってきた。


「待たせたな。

 さあ、乗ってくれ」


 俺は助手席のドアを開けて乗り込む。


「はい、じゃあお願いしますね」


 なんで浅井さんと斉藤さんは後部座席だな。


 新宿から高速に乗り神田橋で降りて後は下道を行く。


「上杉さんはさすがですね。

 新宿から上野へ高速を使って直接行こうとすると遠回りになるから途中で降りちゃったほうが早いんですよね」


 上杉さんはふっと笑って言う。


「まあ、そういうことでも知らなければ運転手などやってられんからな」


 下道をしばらく走ってかっぱ橋道具街に到着。


 場所的にはNR上野駅の東側だが東部浅草線の浅草駅の西側といったほうが距離的に近いといえば近い。


 とはいえ東部浅草線は接続が微妙で、使い勝手も正直微妙なのでNR上野駅が目印になるんだけどな。


「ここがかっぱ橋道具街か」


 浅草の浅草寺や華やしきもすぐそばで、後には外国人向け観光地にもなるが、今はまだ問屋が集まった場所でさほど人通りが多いわけではない。


「まずは入り口にあるニイニ洋食器店に行ってみるか」


 俺が建物を指差して言うと浅井さんが驚いたように言う。


「問屋さんにしてはずいぶん大きな建物ですね。

 小さな百貨店位はありますよね」


「洋食器店といっても実際は和洋中の食器やカトラリーに加えて、全国各地にあるホテルやレストラン、洋食店なんかはもちろんファミレスやラーメン屋なんかも含めたあらゆる外食産業で使用するテーブルウェア、調理機器、厨房用什器備品があるらしい。

 メニュー用紙やテーブルマット、爪楊枝や紙ナプキンなんかの消耗品まで、飲食業に関するありとあらゆる商品が揃ってるらしいぜ。

 なんせ明治40年創業の老舗で一番有名な店らしいし」


 俺がそう説明すると斉藤さんがあきれたように言った。


「本当にあなたはそういう変な知識は詳しいわよね。

 秋葉原とか浅草とか上野とかはマニアが集まる場所なのかしら?」


「まあ、それも間違ってはいないな」


 そして店内に入ると業務用としてではなく、日常使いできる食器類もたくさんあり、形や色やサイズもこまごまと違うものがある。


「これはすごいですね。

 うーんどれがいいでしょうか?」


 楽しそうに浅井さんがそういうと斉藤さんも楽しげに食器を眺めて言う。


「ここにあるものだと平皿に小皿、小鉢にグラタン皿とかもあったほうがいいかしら?」


 それに対して浅井さんは少し考えた後言った。


「そうですね、後はサラダ皿とかスープ皿、スープカップとかもあったほうがいいかも?

 さっき言っていた漬物や味噌を作るつぼもあれば買いましょう」


 そんなやり取りをしている二人は俺の部屋の物を買いに来ているはずだが、俺が口を挟む隙がまったく無かった。


 そんなにこまごま取り揃えなくてもご飯茶碗に味噌汁用の茶碗と平皿が2枚もあればたいていは事足りると思うんだが。


 まあそういったら二人にはまったくわかってないわねぇ、と言われるのも明白なので俺は黙って眺めていたけどな。


 包丁も肉用、魚用、野菜用などでこまごまと別々に買っているし、まな板も2枚買っている。


 お玉や菜ばし、フライ返しなども買っているな。


 鍋も浅いものと深いものに加えて行平鍋や圧力鍋も買ってるし、フライパンだけじゃなくて中華鍋や蒸し器も買ってるな。


 まあ、食中毒を防ぐためには包丁やまな板は使い分けたほうがいいらしいが……。


 そこでの買い物が終わったら次は和食器の店で茶碗やお椀、焼き魚用の角皿や豆皿、箸置きなどの陶器や漆器っぽい和食器、ざるなどをたくさん買い込んでいた。


「これ全部、食器棚やキッチン収納に入るのかな?」


 俺が聞くと浅井さんはにっこり笑っていった。


「はい、ぜんぜん余裕です」


「そっか、余裕なのか」


 さらに朝はコーヒーか紅茶ということでコーヒーミルやらサイフォンやらティーポットやらにそれぞれのカップとソーサーにミルクポットやシュガーポットなども買っていた。


 菓子道具店でははかりや計量カップに計量スプーン、各種ケーキやクッキーなどの焼き菓子、パン用の型なども買っているな。


 まあ、この時代は気軽にコンビニでコーヒーなどを100円で買えたり、スイーツを普段から手軽に買えたりはしないんで助かる気もするが。


「やっぱ二トントラックで来たほうがよかったか?」


 俺が聞くと浅井さんはにっこり笑っていった。


「大丈夫です。

 そんなにかさばりはしませんから」


「そうかかさばらないのか」


 とりあえず店で買ったものを車に積み込んではまた別の店で買うということを繰り返していたがどうやら二人が満足する程度には買えたようだ。


 俺にはとんでもない量の調理器具や食器の山がバンの後部スペースにつみあがってる気がするが。


「こんなにもたくさんの魅力的な食器や調理器具があると一回では買いきれませんね」


 浅井さんが楽しそうに言うと斉藤さんも楽しそうに答えた。


「そうね、ぜひまた来たいわね」


 まあ、足りないよりは多すぎるくらいのほうがいいのかも知れないが……。


 女の子がろくに着ないのにクロゼットや箪笥に衣服を大量に詰め込んでる理由もなんかわかった気がするな。


 食器も実際に使うかどうかではなくインテリア的にあると素敵だからなんだろう。


 まあそれはともかく玄関に玄関マットや消臭剤、台所に台所用洗剤やスポンジ、ふきんなどが有るか無いかだけでもだいぶ雰囲気違うんだが、確かにそういったものが何にも無かったら生活感が無いといわれても仕方ないな。


 ちなみに女の子たちは部屋の下見をした時点で必要なものを考えて入居日の前にほとんど買い揃えていたらしい。


 なんか足りなかったらそのつど買い足して行けばよいと思っていた俺とは大違いだな。

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