第27話 そもそも土地や美術品は投機のために売買するべきではないのだが

 さて、北海道などで原野商法でこまぎれにされた土地をまとめて買い取って、おいしい水のミネラルウォーターの水源地や家畜用飼料の穀物などを栽培する大規模農場として活用したい旨を北条さんに伝え了承してもらった。


「では、私たちはそろそろ自室に戻りますわね」


 北条さんがそういって席を立つと上杉さんも続いた。


「しかし、だいぶやることが増えるな」


 北条さんは苦笑しつつ、うなずいて言う。


「本社を東京に移しましたので、本社で私たちの部下として働いてくれる方々は募集しています。

 現状では同級生の中で見込みがありそうな方にも声をかけていますので、正式に採用になれば少しは楽になるかとは思います。

 とはいえ、最初は庶務や経理事務の処理をしていただいてやる気や適性を見極めていかないといけませんが」


 そして上杉さんも言う。


「私も部下が増えれば楽になるかというと……担当するものがかなり特殊だからな。

 まあ、手伝いたいというやつは多そうではあるが」


 そういう二人に俺は頭を下げる。


「あー、そのあたりは俺が手伝おうとしてもあんまり役に立たないだろうし、すまないけど二人ともよろしくね」


 俺がそういうと北条さんはふふっと笑って言う。


「そんなことはとっくにわかっていますからご心配なく。

 あなたがアイデアを出し、そしてそれを形にするのに必要な作業を得意な人やできる人に投げることでゲームなどを作ってきたわけですからね」


 そして上杉さんも言う。


「まあ、その通りだよ。

 私は私の得意なことで、お前たちに協力するつもりだ」


 そして二人は俺の部屋から退出していった。


 そして俺は考える。


 そもそも原野商法というのは土地が値上がりすることをうたい文句として、価値のない土地を売りつけるものだが、例えば古くは湘南・葉山に軽井沢、比較的最近だと嬬恋や伊豆高原といった場所は実際に何もない原野山林だったところに避暑のための別荘が建つことで土地はかなり値上がりした。


 ならばと栃木や茨城、三重や和歌山などでもリゾート別荘地が開発されたが結局たいして売れなかったか、売れてもバブル崩壊後は廃村のようになっていたはずだ。


 そもそも土地というのは値上がりするのを目的に売り買いするべきではないと思うし、日本の土地の値段は高すぎると思う。


 無論のこと通勤や生活の利便性とかでさまざまな施設がそろっている都市部の駅前などの値段が上がるのは仕方ないところでもあるのだが。


 そして”前”の狂乱バブルの時代では株や土地だけでなくマンションなどの建物に加え、絵画などの美術品に宝石などの宝飾品の値段がどんどん上がっていき、銀行・証券・保険などの金融系や商社、旅行会社などはめちゃくちゃ儲かっていた。


 そのこともあってボーナスで1000万円もらったとかタクシーチケットや出張費や接待費などでの経費が使い放題だったなどの逸話に事欠かず、就職も面接を受けるだけで内定が出ただの、内定が出たら高級料亭やレストラン、海外旅行に連れて行ってもらえただのという話もあったりする。


 プラザ合意からの円高もあって海外旅行をしてブランド品を買いあさるのも流行っていたな。


 そして極めつけがアメリカを中心に世界中の各国の土地や建物などを買いあさったり、美術品を高額で競り落としたことだ。


 歌手の万昌夫は「歌う不動産王、ホテル王」とはやされ、世界各地にホテルやビルなどを所有しており、一時はホノルルの殆どのホテルも持っていたといわれる。


 しかし、バブル崩壊とともに借金が膨れ上がり、それらを全部手放しても二束三文で買いたたかれたうえで負債総額1000億円を超える悲惨な状態になった。


 また、ハワイでは、高級リゾートホテルと並び、開発のシンボルとされたのがゴルフ場で、日本人によるゴルフ場建設ラッシュとなった。


 ハワイ島の溶岩ばかりのところに、西武鉄道のオーナーがゴルフ場、ホテルを大開発し、何百億円もつぎ込んで、夢のようにすばらしいリゾートを建設したが、バブルがはじけた時、激安で米のホテルに売り払うことになった。


 ニューヨークのロックンフェラー・センタービルやエンパイヤステーツビルは当時の日本企業による国外不動産、買い漁りの象徴となった。


 バブル崩壊後、日本企業はこれらの不動産のほとんどを、借金返済のために半値以下で手放した。


 コロンビア映画買収や宝石のテファーニビルなど、土地を担保に大金を借り入れ、海外の企業も買いあさった。


 そして、日本の生命保険会社各社が世界中の大都市のビル、不動産を買いまくって、脅威の存在と言われた。


 昭和62年(1987年)10月19日のブラックマンデーで株式が下落して苦しんでいる諸国を尻目に政治的に安定している上に空前の好景気になった日本は、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の呼び声とともに、日本人1人あたりの所得が米を超えるにいたるや、米国においてさえ、”日本に学べ”という声が出るほど好景気に沸き立った。


 一方で、アメリカの象徴的ビルや企業が日本企業の手に渡ったことで、“日本脅威論”が噴出し、“日本バッシング”が起こった。


 しかし、すぐさまあっさりとバブルがはじけて、証券会社、銀行、保険会社、企業がどんどんつぶれ、個人も破産し、日本中が不良債権で膨れ上がった。


 そしてバブルでボロボロになった日本の主要大企業の株を外資が買い占め外資は配当で儲け、従業員はワーキングプアになっていく。


 自動車では日三が有名だがハンダや豊畑、バイクのスズケなどは外資が株の30%以上を持っていたし、四井や四菱などの商社や不動産部門も外資系になってしまっていた。


 まあ、プラザ合意もなくリゾート法も施行されなかったこともあって、現状の日本は上から下まで借金漬けの財テクバカになっているわけではないので大丈夫だとは思うが、”前”の氷河期世代以降の日本人はその上のバブル世代以上、特に団塊世代より上を皆殺しにしたいと思っても仕方ないと思うぜ。


 自分たちはいい思いをしておいて日本を根本的に壊し、ツケを子供たちに負わせておきながら、反省も何にもしないわけで、実際に2020年頃には特殊詐欺や強盗などで一人暮らしの小金持ち老人が狙われていたしな。


 詐欺や強盗をするのは無論良いことではないのだが。

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