第24話 今からでは牛肉やオレンジの輸入自由化は防げないだろうからどうするかだな

 さて、俺は北条さんや上杉さんを呼んで、テレビで牛肉やオレンジの輸入自由化についての問題提起をしてほしい旨を話し、ついでに馬券の購入を上杉さんにお願いした。


 そこで北条さんが聞いてきた。


「しかし、今からテレビで問題提起して間に合いますの?」


 俺は苦笑しつつ答える。


「うん、今からテレビで問題提起しても牛肉やオレンジの輸入自由化を止めること自体はできないだろうと思ってる。

 どっちかといえば国民、特に牛を扱ってる畜産農家なんかへのアピールだよ」


 北条さんは首をかしげて言った。


「牛を扱ってる畜産農家へのアピールですか」


 俺は苦笑して言葉を続ける。


「そう、実際昨年12月のガット総会で、政府は農産物12品目の自由化を求める対日勧告案を引き伸ばして、実質的に拒否しながら、今年2月のガット理事会で一転して自由化を受諾したからね」


 俺がそういうと北条さんは首を傾げた。


「農産物12品目ですか?」


 俺はうなずく。


「農産物12品目の内容は練乳なんかのクリーム調整品、 プロセスチーズ、 小豆・インゲン豆・そら豆なんかの雑豆、でんぷん及び水溶性食物繊維のイヌリン、 落花生、ハム・ベーコン・ソーセージ・コーンビーフ・ローストビーフ・シーズンドビーフなんかの牛肉調整品、 ブドウ糖なんかの非蔗糖製品及びシロップ、フルーツピューレ及びフルーツペースト、缶詰パイナップルなんかのパイナップル調整品、ブドウやリンゴなんかの非柑橘果汁ジュースおよびトマトジュース、トマトケチャップやトマトソース、その他調整食料品だね。

 これだけなら日本の農家への影響は少なそうに見えるけど、千葉は落花生の産地として有名だし千葉には影響があるかもしれない。

 そして東京都中央卸売市場で扱われる牛肉について、千葉県がもっとも多く、豚の場合も千葉県が一番多かったりするんだ。

 千葉は養鶏も盛んだしね。

 千葉県は意外と畜産が盛んだから、牛肉の自由化はかなり影響がでかいと思うんだよね」


 俺がそういうと上杉さんが聞いてきた。


「しかし、牛肉の輸入自由化は避けられんのだろう?

 ならば、どうするのだ?」


 俺はうなずいて答える。


「ええ、なんで俺たちができる範囲で国産牛肉の消費を確保できるようにしたいんですよ。

 具体的にはまず俺たちが買収した企業の工場の社員食堂や独身寮の夕食などに使う牛肉を直接契約した農場から仕入れて調理して出すこと。

 後は俺たちが持っているオーベルジュやホテル・旅館なんかの夕食に使う牛肉も直接契約した農場の牛肉に置き換えることである程度は確保できるかなと」


 俺がそういうと上杉さんはなるほどとうなずいた。


「なるほど、日三自動車の工場だけでも数万人は働いているからな。

 そこを直接契約した農家の牛肉にするだけでも多少は違うだろう」


 そして俺は続ける。


「なので上杉さんには牛肉のランク付けを行ってほしいんです。

 オーベルシュなどに出すために、少々割高でも上等なブランド牛肉として出していいものと、工場の社員食堂などで出す割安で普通の牛肉に」


 俺がそういうと上杉さんはうなずいた。


「なるほど、それも道理だな」


 そして俺は言葉を続ける。


「で、間に農協や市場、問屋とかが入ると余計な人件費がかかるし、セリで値段も上げられて高くつくようになるから、生産された肉畜は、農場から直接食肉センターに出してもらって、屠畜解体したものを直接買い付けるようにしてほしいと思う。

 できれば食肉センターを買いとれれば一番いいんだけど」


 俺がそういうと北条さんはうなずいた。


「最終的になるべく安くできるようにするのは賛成ですわ」


 こくりとうなずいて俺は言葉を続ける。


「それと可能なら牛丼のチェーン店を買い取ってそこの肉も同じようにできればいいと思うんだけどね。

 全国展開してるような大手じゃ無くて、首都圏でいくつかの店舗を持ってるくらいの小規模なチェーン店のほうが買い取りやすいと思う。

 あとは現状完全に飽和状態にあるファミレスチェーンも買い取れるといいかな。

 それに今のファミレスはメニューに和洋中の料理を広く含むものが多いんだけど、それだけに差別化が図れてないんだよね。

 だから、ビーフステーキ専門ファミリーレストランやビーフハンバーグ専門ファミリーレストラン・しゃぶしゃぶ専門ファミリ-レストランといった牛肉をメインにしたメニュー構成のものにして今日はこれが食べたいって決め打ちしていった方がいいと思う」


 ちなみに昭和55年(1980年)には牛丼チェーン店最大手の吉田屋が一度倒産しているが、すでに債務返済はすんでしまってるから、今から買い取るのは難しいだろうしな。


 とは言え店舗数の少ない牛丼チェーン店はいくつかあるし何とかできそうに思う。


 俺がそういうと北条さんはうなずいた。


「首都圏中心に小さく展開している牛丼チェーン店であれば買い取れると思いますわ。

 それとファミリーレストランも明らかに店舗が過剰でしょうし、買い取れそうなところを見繕ってみますわね」


 俺はうなずいて言う。


「牛肉だけじゃなくて乳牛の牛乳や豚肉、鶏卵や鶏肉なんかにも同じようにできればいいと思うけど、それは特に急がなくてもいいかなとは思う。

 ただ、中間業者を減らすことで社員食堂なんかで使う食材の原価を安くできるはずだから、やるに越したことはないとは思うけどね。

 それらもできたら魚介類なんかの海産物や野菜にも適用して最終的にはコメも農家から直接購入できるようになるといいんだけど……現状では難しいかな。

 コメに関しては厳密に流通経路が決まっているからね」


 俺がそういうと北条さんはうなずいた。


「そうですわね。

 日本の場合コメは日本政府が一括して買い上げていますから」


 俺はうなずいてからいう。


「本来終戦直後でコメの流通量が少ないときに買い占めを防ぎ安価なコメをいきわたらせるのが目的だったんだろうけど、結局はコメも闇市で売った方がもうかるからって政府に売らなかった農家も多かったみたいだ。

 逆に現状人件費が上がったせいで、農家が米を作っても買取価格は安いのに、間に業者や政府が入るせいで消費者の口に入るころにはバカ高くなってるんだよな。

 まあ、アメリカの圧力でパン食やパスタ食を広めたいとかもあるのかもしれないけど」


 そして一息ついてから俺は話を戻す。


「多分、関税の引き下げ自体には3年くらいは猶予はあると思う。

 ただ今現在は200%の関税が1991年度70%、1992年度60%、1993年度50%とかになると思う。

 だから3年後には輸入牛肉はがっつり値段が下がるだろう。

 そして輸入枠の拡大は今年から始まるだろうから、今年も油断はできない。

 けど本当にやばくなるのは3年後からだと思うし輸入枠が拡大したところで輸入牛肉がいきなり安くなったりしたら目も当てられないことになるだろうね。

 なんでそれまでに可能な限りは国産牛肉を安く食べられる人間が増えるようにはしておきたいな」


 そこで俺はもういちど一息ついてから話を続ける。


「今までの日本は物価や地価が上がり過ぎたから、今後はそう上がらないと思うし、寧ろ少し下がるかもしれない。

 だから今後は賃金を上げることより生活費が多くならないようにしていった方がいいと思う。

 組合とかはベースアップベースアップというだろうけど、人件費が上がり続けて物価が上がっていくことで、結局困るのは自分たちだからな。

 そして地価が上がらなくなった上に、メインフレームの導入で窓口での人海戦術処理が必要なくなった銀行なんかの金融機関を中心に今後は経営や就職が厳しくなっていくと思う。

 なんで首都圏は金融機関を中心に求人が減っていくと思うんだよね。

 そのためにも俺たちは地方に働き口を作っていくべきだと思うんだ」


 実際に”前”は平成3年(1991年)にバブルが崩壊して平成5年(1993年)には就職氷河期といわれる求人倍率が軒並み1を切る状態になった。


 俺の父親が働いていて俺がコネ入社した、北海道拓殖銀行も見事に破綻してその後の人生は相当悲惨だったしな。


 まあ、”前”と違ってプラザ合意がなかったり、リゾ-ト法が成立し無かったりで為替や地価、株価の異常な上昇はないんだけど、それでも土地なんかはもう上がり過ぎといえる価格だからな。


 俺がそういうと北条さんが首を傾げた。


「確かにそうなのでしょうが具体的にはどうするのですか?」


「そうだね。

 具体的には4年後までに以下の施設を建設した工場都市を作り上げたいと思ってる。

 自動車やバイク、自転車なんかの廃車、廃家電などの粗大ごみをシュレッダー加工(破砕)して、主にシュレッダー鉄や銅、アルミなどを分別する廃車・家電リサイクル工場。

解体工事や建築工事から発生する鉄骨や鉄柱、鉄でできている船舶の廃船をシャーリング加工(切断) して鉄ギロチン材を作る工場。

 そこから出た物や空き缶から鉄・銅・アルミなどの金属を精錬する工場。

 それを使って自動車やバイク・自転車あるいはその部品を作る工場。

 破損した建材用窓ガラスを新しく建材用窓ガラスに、空きガラス瓶を新たなガラス瓶に、割れた自動車用ガラスや蛍光管のガラスは建材や冷蔵庫の断熱材のグラスウールに、壊れたブラウン管テレビのブラウン管やパソコン用のCRTモニターのブラウン管ガラスは新たなブラウン管にリサイクルできるのでそのための再生ガラス工場。

 廃プラスチック・廃発泡スチロール・ペットボトルなどを燃料ペレットにする工場。

 粗大ごみの木製家具やおがくずを木質バイオマス燃料ペレットにする工場。

 それらを使った火力発電所。

 生ごみを堆肥にする工場。

 廃段ボールを新しい段ボールに再生する工場。

 古新聞を新たな新聞紙に再生する工場。

 古雑誌は洗剤や靴などに使われる紙の箱に再生する工場。

 牛乳パックやコピー用紙をティッシュやトイレットペーパーに再生する工場。

 古着や古いランドセルなどは児童養護施設に寄付したりして、そのまま再利用したい。


 といったように現状ごみとされている物を可能な限り、埋めたり燃やさないで資源として再生する工場を作る。

 当然そこで働く社員の居住用に社宅や社員寮も作る。

 そして生活に必要な総合スーパーマーケットかショッピングモールあるいはデパート、家電量販店、総合家具店、ホームセンター、大型書店、楽器店、セル&レンタルのビデオ&ゲームショップ、まだ使用可能な衣服や家電、ベビー用品などを買い取ってきれいにした後で売るリサイクルショップ、製鐵所や火力発電所の余熱を使ったスパリゾート&温泉プール施設、それとは別に大きめの公園か小規模な遊園地、ボーリングやカラオケ・ゲームセンターの入ったアミューズメントビル、個室ビデオ店、病院、私立の高校大学とそこへ食材を提供する農場なんかも併設する。

 人が集まってくればクリーニング店や飲食店、居酒屋やスナックなんかの水商売店、風俗店なども集まってくると思うしね」


 俺がそういうと上杉さんが聞いてきた。


「具体的にはどこに作るつもりなんだ?」


 俺はそれにこたえる。


「産業の主軸だった炭鉱が閉鎖されたダメージから抜けていない北海道と福島。

 それから豪雪地帯で工業が発展しずらいとされてきた青森・新潟・福井。

 こういった豪雪地帯の輸送や移動にはロープウェイを設置していくのもいいと思う。

 あとは工業地帯から外れている島根・高知・鹿児島。

 あとは静岡と和歌山かな。

 静岡や和歌山は結構過疎化が進んでるんだよね。

 この辺りは地価も上がってないから土地を安く手に入れられると思うし、結局過疎化は高校や大学なんかの進学先や働く場所がないから起きる気がするんだ」


 それを聞いた北条さんは苦笑していう。


「それはまた壮大な計画ですわね。

 でも実現すればそれらの地域の過疎化を少しでも食い止めることができるかもしれません」


 俺はうなずく。


「それに粗大ごみの埋め立てはもう限界に来てるところも多いからね。

 北海道の工場で北海道全域。

 青森の工場で青森・岩手・秋田・宮城。

 福島の工場で福島・茨城・栃木・千葉・東京。

 新潟の工場で山形・新潟・群馬・長野・富山。

 静岡の工場で神奈川・山梨・静岡・愛知。

 福井の工場で石川・福井・岐阜・滋賀・京都。

 和歌山の工場で三重・奈良・和歌山・大阪・兵庫。

 島根の工場で中国地方全域の島根・岡山・鳥取・広島・山口。

 高知の工場で四国全域の愛媛・徳島・香川・高知。

 鹿児島の工場で九州全域の福岡・佐賀・大分・長崎・熊本・宮崎・鹿児島と沖縄の全域をカバーしたいね。

 この数では粗大ごみなんかの処理が追い付かなそうだったら、粗大ごみの処理工場だけ別の地域に増やしてもいいかなと思う。

 まあ、これはやってみないとわからないけどね」


 俺がそういうと北条さんは苦笑した。


「まあ、それは当然ですわね。

 いずれにせよ計画自体は頭に入れておいてよさげな土地があれば購入しておきますわ」


「うん、お願いね」


 まあ、うまくいく保証はないんだが、おそらく俺が何もしないと結果も前の通りになるような気がするからやれそうなことはやっておこう。

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