第20話 テト&リスがポケットサンシャインのキラータイトルになりつつあるらしい

 さて、今までかなりの数のあれこれとゲームと関係ない他業種を買収しては傘下に収めてはいるが、俺たちの本業はあくまでもゲームの製作で、ここが崩れてしまっては元も子もない。


 そして前の未来を見てきた俺の結論としては、ゲームソフトをたくさん売りたければ、サードパーティの多いゲームハードが必要だし、ゲームハードを売りたければ、サードパーティの数の多さによる販売されるゲームソフトの種類が多くないとダメなんだよな。


 実際、陣天堂のゲームソフトもホムコンやスーパーホムコンの時代はめちゃめちゃ売れていたが、その後は不遇な時代がしばらく続いた。


 これはプレイポートにサードパーティが流れてしまったのが主な原因で、スーパーホムコンの後継機種のジンテンドウ64にも”ウエルカムアニマルフォレスト”が出てきたりと、評判のよいソフトはあったが、結局ハードもソフトもそこまで数は出なかった。


 やはりハードの売り上げ台数が、プレイポートに比べて半分程度と少なかったのが大きいよな。


 だからこそサンシャインはPCジェネレーターに先行して発売し、CD-ROMを最初から搭載して本体を売っても利益が出ない価格で売りだす代わりに、アーケードゲームやパソコンゲームの人気作品を、ほぼ忠実に移植できるようにしたし、ソフト開発が難しくならないようにコントローラーもあまり特殊にはしなかった。


 その結果として、サンシャインのスタートダッシュは成功して、次世代機として後発のPCジェネレーターを大きく引き離しているし、アーケードゲームやパソコンゲームの人気作品を、ほぼ忠実に移植できる環境ではない、ホムコンのゲームソフトの販売本数も陰りが見えてきている。


 とはいえサンシャインにはまだ、キラーソフトといえるほど話題になっているソフトがまだないのが心配ではあるんだけどな。


 キラーソフトというのは特定のコンシューマの据え置きゲーム機や携帯ゲーム機が普及する、要するに売れることに貢献したソフトウェア。


 例えばホムコンの場合は、なんといってもスーパーマリオンブラザーズだ。


 なにしろギネスブックに「世界一売れたゲーム」として登録され、欧米を中心とした世界的なレベルでホムコンの売上を増やすことに貢献したのは間違いがない。


 まあ、実際の世界レベルの売り上げではテト&リスの方が上だった気もするが、現状ではテト&リスがどのくらい売れているのかは、誰も把握してない気はする。


 なんでそんなことになってるのかといえば、テト&リスの販売権利を持ってるのが誰、あるいはどこなのか現時点でははっきりとわかってないからだ。


 もともとテト&リスの製作者は、ソ連の公共の研究所で音声録音ソフトなどの開発に携わっていたらしいが、ソ連のプログラマーたちは仕事の時間が終わった後に、個人的な理由で仕事の時間外にコンピューターを使用していた。


 で、彼らが何をやっていたかといえば、コンピューターゲームの開発で、欧米のコンピューターゲームをソ連製のコンピュータで再現しようとしていたらしい。


 その結果昭和61年(1986年)に出来上がったのが、テト&リスだが、当時のソ連ではソフトウェア販売を行う人はほとんどおらず、ソ連のデータセンター内で作られたテトリスは、法的にはソ連の知的財産として登録されてしまった。


 しかし、違法コピーでテト&リスが西側諸国にも広まってしまい、その人気に目を付けたハンガリーのソフトウェア企業のオーナーがテトリスのライセンスを手に入れようとし、開発者からライセンスの譲渡のYesの回答を手に入れた。


 しかし、明確な書類やサインがない状態のままテト&リスの権利はゲーム会社などに売却され、さらに海賊版もコピーされ続けて欧米などに広まってしまった。


 そして西側の市場にテト&リスの市場が広がっていることに気が付いた「ELORG(ソ連外国貿易協会)」というソ連の公的機関が絡んできて話がややこしくなる。


 テト&リスの権利はオリジナル・IBMの移植版・アーケード版・コンシューマー版と非常に細分化されていた。


 その結果、アメリカのゲーム会社からライセンスを受けてアーケード版テト&リスを販売していたサガは、テトリスの次世代ハードのテラドライブ移植版を開発したが、そのライセンスではテラドライブ移植版の許諾は得られないことが判明し、急遽発売中止の憂き目に遭うといった事態も発生した。


 ライジングはテト&リスの販売ライセンス自体は持ってるが、ポケットサンシャインでもサガのようなことになると面倒なのでELORGから最低限アーケード版とコンシューマー版の正式ライセンスを獲得しておこうか。


 というわけでこれも北条さんに投げることにしようか。


「北条さん、現状ポケットサンシャインで一番売れてるソフトのタイトルって、何だろう?」


俺がそう問いかけると北条さんは答えてくれた。


「現状ですと、テト&リスですね。

 モノクロの小さな画面でも、面白さが損なわれておらず、 昭和59年(1984年)風俗営業法の大幅改正によりゲームセンターへ行くのが難しくなった小中学生にかなりの人気なようです」


 北条さんの説明に俺はうなずいた。


テト&リスはゲームボーヤのキラーソフトでもあったからな。


「なるほど、確かにゲームセンターで大学生や社会人がテト&リスにはまってたりしたみたいだけど、小中学生はやれる機会があんまりなかったんだろうな。

 ただ、ソ連のELORGっていう外国との貿易を管理している協会が、ヨーロッパ方面のライセンスを違法だと言い出したみたいなんで、この際ELORGから正式にライセンスをもらってくれないかな」


 北条さんはフウっとため息をついた後うなずいた。


「わかりました。

 海外の組織との交渉でしたら足利さんに話をしておきます」


「うん、お願いね。

 ポケットサンシャインを海外で売るときにもテト&リスは重要な役目を担うと思うから」


 俺がそういうと北条さんは首を傾げた。


「ポケットサンシャインを海外で売るですか?」


 俺はうなずいたと言う。


「うん、ポケットサンシャインはエポックメイキング社の開発したもの製造販売の権利買い取って、壊れにくいように改良したものだから、開発費とかがほとんどかかってないのもあって安く売れるでしょ。

 サンシャインは高いから難しいけど、ポケットサンシャインは安いから海外でも売れると思うんだよな。

 しかも今なら携帯ゲーム機は、うちのほぼ独占販売だし」


 俺がそういうと北条さんは納得したようにうなずいた。


「なるほど、それは確かにいえてますね」


「まあ、サンシャインの海外輸出が難しいのは、ドラクレ型RPGがメインになりそうだからっていうのもあるけどな」


 俺がそういうと斎藤さんが首を傾げた。


「RPGがメインだと輸出が難しくなるの?」


 俺はうなずいて言葉を続ける。


「サンシャインのRPGの軸になりそうなのはヘックスのFFFとうちのファンタジースターだと思うんだけど、たぶんアメリカとかだとあんまり受けないと思うんだよね。

 アメリカのアルテマシリーズが日本だといまいちなように背景世界の認識にだいぶずれがあると思うから」


 俺がそういうと斎藤さんはうなずいた。


「確かにそれはありそうね」


 まあ、コンシューマゲームハードは日本が先々まで輸出できる数少ないものでもあるのはいいことだけどな。


 これは欧米ではゲームはアーケードかパソコンがメインで、コンシューマ市場に参入しようとしてもサードパーティが集まらないのが原因だけどな。


 実際に真っ黒ソフトもクロスボックスで参入しようとして撤退したし。


 まあ、その代わり日本ではオンラインMMORPGやソシャゲで後れを取ることになったので、その辺りは変えていきたいと思うけどな。

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