第17話 ホムコンソフトの勢いもだいぶ落ちてきているようだ

 さて、新居に引っ越すための、家具・家電・寝具などの買い物は大体終わった。


 あとは服とか生活雑貨、調理道具などが必要だなと思ったら必要最低限を買い足していけばいいだろう。


 それとマンションにISDNの電話回線を引いたら、プッシュホンを買って、モデムと電話線をパソコンに接続するようにして、ネット環境も整えたい。


 みんなといつでも連絡を取れるように、携帯電話も買おうかと思ったが、現状ではいわゆるショルダーフォンしかないから、たぶんまだ早いんだろうな。


 みんなが携帯電話を持つのもそんなに遠くないはずなんだが。


 というわけで俺は聞いてみることにした。


「ちなみに浅井さんや芦名さんと佐竹さんはポケベルって持ってる?」


 俺がそう三人に聞くと彼女たちは首を傾げた。


「ポケベル?

 ですか」


「当然というか僕たちは持ってないよ」


「俺も持ってないが名前は聞いたことがあるような気はするな」


 そして俺は上杉さんにも聞いてみる。


「上杉さんもポケベルっは持ってないですか?」


「なぜ私の場合は持ってないことが前提なのかとも思うが、持っていないぞ」


「じゃあ、戻ったら北条さんに相談して会社の経費でポケベルを持てるようにしようか。

 今までは学校が一緒だったから、連絡を取るにもそこまで困らなかったけど、これからはばらばらだし、出先でも連絡が取れたほうがよくなるだろうしね」


 俺がそういうと浅井さんが思い出したように言った。


「あ、そういえばポケベルって智左ちゃんは持ってたような気がします。

 小っちゃくて四角い音の出る奴ですよね」


 俺は浅井さんの言葉にうなずく。


「たぶんそれだね。

 ポケベルはその名前の通り基本的には電話の着信ベルだけを小型の携帯端末に送るもので、通話とかはできないんだ。

 歴史自体は結構古くて昭和43年(1968年)には電電公社が、東京23区でサービスを開始してたりするね。

  もっともそころのポケベルは、一般の電話からポケベルへ一方向に呼び出し信号を送るだけで、着信したらポケベルにベル音が鳴るだけで、受信者は、それを聞いて、近くの公衆電話から送信者へ電話をかけなおすというものなんで、利用者は外出の多い営業部員や経営者、医療関係者に限られていたらしいけど」


 俺は一息ついてから説明を続ける。


「そこらへんが大きく変わったのは昭和60年(1985年)の通信自由化でポケベル市場に他社が参入して、各地域に新規参入しサービスを開始したのとともに、送信者が10文字程度の数字列を送りポケベルに表示できるようになったんだね。

 これで利便性は結構上がったんだよ。

 もとは音が出るだけだから、もしも複数の電話からの着信があると、どこから来たか確認するのが大変だったけど、複数の電話から通知が来る場合でも電話番号を入れて数字を送れば、それに折り返し伝える先が分かるからね」


 俺がそういうと浅井さんはうなずいて言った。


「なるほど、そうだったのですね」


「最近の女子高生の間では朝に0840っておくって”おはよう”0833で”おやすみ”0906で”遅れる”1052167で”どこにいいるの”みたいな暗号みたいなやり取りも流行ってるみたいだね」


 浅井さんが小首をかしげた後言った。


「そういえば智左ちゃんがポケベルを見てお仕事かあっていってました」


「お仕事だと04510って入ってたんだろうね」


 これはその後、カナや漢字まで使えるようになっていくのだが、90年代後半にPHSやガラケーのメール機能が普及するとポケベルは衰退していく。


 だけど、10年くらいは携帯電話とかより便利な可能性が高いんだよな。


 現状の携帯電話はまだまだショルダーフォンでバッテリーが重くて2.5Kgぐらいの総重量があってでかくて持ちづらい割に長い間は使えない代物だったりする。


 俺の説明に上杉さんがうなずいた。


「まあ、確かに離れ離れでも連絡が取れるように、各自にポケベルを持たせた方がいいかもしれないな」


 そして浅井さんもうなずいた。


「そうですね」


「じゃあ、北条さんには俺が伝えておくよ」


 まあ、最終的な手配は北条さんから仕事を振られて、芦名さんか佐竹さんがやることになるかもだけど。


 あとは作業用のデスクや椅子は人間工学を考えたものを手配してもらいたいし、東京四洋のホビーパソコンやワークステーションも店頭で買おうとするよりは会社経由のほうが、たぶん確実に手に入るだろう。


 そうすると俺の場合、持っていくものはほとんど無いので、着替えなどをボストンバッグに詰めていけばよさげだな。


「じゃあ、みんなまた」


 俺がそういうと上杉さんはうなずいた。


「ああ、またな」


 そして浅井さんは笑顔で手を振る。


「はい、またです」


 そんなわけで一同は解散して、俺は自宅に戻ってきていた。


 そろそろ昨年から今年の4月までのゲームの発売状況やそれに対しての評価をまとめて、今後のゲーム開発についても変更が必要なら指示が必要だろう。


 まず、ホムコンで昭和62年(1987年)1月に発売されたドラゴンクレスト2悪霊の神々に続いて、今年昭和63年(1988年)2月にドラゴンクレスト3そして伝説へが発売されて大ヒットした。


 ヒットの理由だがドラクレは基本的に時間さえかけたら、誰でもクリア可能であるというのがまず大きい。


 またクリエイターの知名度の高さも大きいな。


 とはいえドラゴンクレスト2は中盤以降のゲームバランスが相当悪く、その原因は開発期間の短さからテストプレイの時間がほとんど取れなかったため、海へ出てからは誰も通しでプレイしていなかったらしい。


 そのためだいぶ戦闘や謎解きの難易度が上がっていたので、途中で放り投げた奴も多かったと聞くな。


 その辺りは3でだいぶ改善されていて、後々までファミコン版から始めたドラクレファンの間では歴代最高傑作の呼び声も高い作品でもる。


 とはいえテレビや水道橋グループの週刊少年ホップを俺が買収したこともあって、社会現象だなんだといわれるほどでは無かったが。


 だがまあドラゴンクレスト3が爆発的に売れたのは事実だ。


 だが、ホムコンソフトで売り上げが100万本を超すソフトは、85年ぐらいまでのソフトのほうが多く全体的にはあまり売れなくなってきている。


 理由はいろいろあるがまず単純に一年間で販売されるゲームタイトルがどんどん増えているからというのはかなり大きい。


 1983年(全9タイトル)

 1984年(全20タイトル)

 1985年(全69タイトル)

 1986年(全86タイトル)

 1987年(全118タイトル)


 こうなると85年までのソフトに比べると87年以降はかなり販売数が増えてるので、単純に買われるソフト数は平均すれば減る。


 なおかつ87年ごろからはサードパーティもだいぶ増えて、クソゲーも混ざるようになってきている。


 おまけにパソコンゲームやアーケードゲームのグラフィックやサウンドの性能が上がり過ぎてホムコンへの移植は相当難しくなってきてるのもある。


 あとはゲームの大作化、大容量化でテストプレイやバグつぶしが十分ではないソフトが増えてきているのもある。


 特に昨年はドラクレ風RPGやゼルド風アクションなどが多く出てきたが、悪名高い”恒星をみるひと”のようにそもそもゲームとして成り立っていないというか普通にやったらクリアできないとか言われるゲームまで出てきたからな。


 この辺りは明らかにテストプレイ不足だったろう。


 もしくはドラクレが売れる理由を制作陣がよくわかっていなかったかもしれないが。


 まあ、ドラクレですら時間が足りずに、テストプレイ不足で難易度調整に失敗したくらいなので、ドラクレタイプのRPG作成経験のないメーカーにはもっと難しいだろう。


 結局人海戦術とテストプレイの時間も含めて発売日を設定しないといけないわけだが、人が増えれば人件費も当然増えるので、今後は大手のゲームメーカーでないとRPGには手を出しづらくなっていくわけだ。


 まあうちはその辺りは問題ないけどな。


 サンシャインについては高精細な画像表示能力やサウンドのクオリティを生かしてのニャムコやカプコなどのアーケード人気ゲームの忠実な移植など、アーケードゲームやパソコンゲームの忠実な移植がメインであり、サードパーティも厳選してるのでそういう問題は起きていない。


 ヘックスのFFF2が今年末くらいに発売予定だが、あんまりバランスが良くなかった気がするからテストプレイをちゃんとするように伝えておくか。


 逆に言えばテストプレイやバクつぶしをきちんとやって、ユーザーが満足して遊べる調整さえしておけば、当面の間RPGの売れ行きは安定しているいから、強みにもなるんだけどな。


 PCジェネレーターに関してはやはりソフトがハデダゾンだけでは厳しいようだな。

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