第16話 寝具はしばらくは真綿のものでいこうとするか

 さて、家具はともかく家電の値段が思っていたより、だいぶ高かったのはいささか誤算だったが、会社寮への引っ越しのための買い物は大体終わったと思う。


 あとは布団などの寝具を一式買っておけばいいかな?


「じゃあ、最後に寝具店によって行くこととにしましょう」


 俺がそういうとみんなはうなずいた。


「確かにベッドを買わなかったのだから、寝るためには布団などは必要だな」


 上杉さんがそういい、寝具店へ向かう。


 到着した先は江戸時代、天保元年(1830年)に京都で生まれた「IWADA」の新宿ショールーム。


 日本の寝具製造会社としては、最も歴史の古い企業の中のひとつで、当然高級布団も扱っている。


 何しろ江戸時代だと木綿はまだまだ高級素材だったので、木綿をたっぷり使った布団は金持ちしか買えない代物だったんだよな。


 で、まあ、布団素材といってもいろいろ種類がある。


 まず大きく分類すると、天然繊維と化学繊維だな。


 天然繊維は、古くから敷布団の中材として使われている木綿、羊の毛のウールやラクダの毛のキャメル、真綿こと絹を使ったものなどがある。


 木綿は保温性や吸湿性に優れているものの、湿度を放出しにくい素材のため、乾燥機にかけたり日干しするなどのお手入れが必要になり、なおかつ濡れると固まりやすいので洗濯は基本的にできない。


 もっとも古くから使われている素材だけに打ち直しという方法はあるが、この場合綿100%の布団は打ち直しができるが、ポリエステルが混ざっているとできないことがほとんどで、打ち直し自体では洗濯はできないので別にクリーニングに出す必要もある。


 ウールやキャメルは保温性や吸湿性に優れ、しかも放湿性も高いが、濡れたまま乾燥させると縮んでしまい悲惨なことになる。


 化学繊維はポリエステルとウレタンがある。


 ポリエステルは軽量で取扱いしやすく、水洗いや乾燥機での乾燥も問題ないが、静電気が発生しやすいため、空気中の埃を寄せつけやすく、においや汚れなども吸着しやすいため、それらがダニのエサとなりやすい。


 ウレタンは繊維のホコリが出にくく、断熱性も高いが、吸湿性や吸水性は他の素材に比べると劣る。


 結局、どの素材を選んでも一長一短はあるので、季節に応じて布団の素材を変えるのが一番いいか?


 で、春から梅雨前の間は……真綿の布団がいいかもな


 真綿、いわゆるシルクは素材が希少なため高価だが、寝心地、保温性は、春から初夏、それと秋口にちょうどよく、吸湿性・放湿性に優れているため、ちょっと暑かったり寒かったりしても問題なく、肌ムレを防ぐことができる。


 また、比較的軽くてやわらかく自然に身体にフィットし、静電気が起こりにくいので、ホコリやチリを寄せつけず、消臭効果もあるので清潔で衛生的となかなかいいことずくめだ。


 問題は虫に食われる可能性があることと、洗濯や乾燥などが難しいので、手入れに手間がかかるということ、そして何よりも高いってことだが。


「素材が真綿だと掛布団と敷布団のセットのお値段も数百万円かぁ

 さすがの超高級布団だな」


 俺がそういうと浅井さんが首を傾げた。


「綿のお布団でそんなに高いものがあるのですか?」


「ああ、真綿は蚕の繭をつかったものだから絹と素材は同じだからね。

 その代わり寝心地も最高らしいけど」


 俺がそういうと浅井さんは表情を輝かせて言った。


「じゃ、じゃあ、私も同じ物を買うことにします」


 芦名さんと佐竹さんも同意見のようだ。


「シルク布団なんて本当にお姫様になった気分だよね」


「まあ、俺達には似合わないかもしれないけどさ」


「まあ、寝具は大切だしね。

 あと品質の高い真綿なら、こまめに陰干しして湿気を抜いて、丁寧に手入れすれば20年くらい使えるらしいしそんな悪くはないと思うよ。

 シーツや掛け布団のカバーは洗いやすい、木綿かポリエステルがいいと思うけど」


 俺がそういうと三人はフムフムとうなずいた。


「なるほど、そうなのですね」


「そんなことまでよく知ってるよね」


「まあ、俺たちとは育ちが違うしな」


 そういう三人の言葉には上杉さんも苦笑している。


「高校卒業したばかりで真綿の布団を選ぶ奴はそういないぞ?

 まあ、前田は普通じゃないから驚きはしないがな」


「えええ、それはひどくないですか?」


「だが事実だろう?」


「うーむ、まあその通りではあるんですけどね」


 というわけで掛布団と敷布団に加えて真綿の枕に木綿の布団カバーやシーツを買ったら、一セットで250万円程になった。


 まあ、実際問題としてこれから住むことになるマンションは気密性も高いし、エアコンやガスストーブなどで冷暖房も完備されているし、窓も二重のカーテンをするからアルミサッシからの放熱吸熱などがあってもそこまでひどいことにはならないだろう。


 実際は周囲にビルもないので風通しも良くムシムシしたりはしないだろうし、日当たりが良ければ冬も温かく過ごせるとは思うが。


「まあ、家具・家電・寝具を一式揃えたら、あとは実際に住んでみてこまごまとした雑貨などで足りないものは、その都度東急ハンドの新宿店にでも言って買いそろえればいいだろうし、今日の買い物はこんなものかな」


 俺がそういうと上杉さんはうなずいた。


「実際に一人暮らしの生活を始めないと何が足りないのかはわからないことも多いしな。

 それでいいと思うぞ」


「ところで上杉さんは本当に何も買わなくてよかったんですか?」


 俺がそう聞くと上杉さんは苦笑しつついった。


「ああ、私は今も一人暮らしだし、教師になった後で、コツコツと買ってきた家具や家電もあるからな」


「なるほど、それもそうですね」


 自分の稼いだ金で買った家具とかならそう簡単には捨てられないよな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る