第15話 次は家電をそろえよう

 さて、家具屋のショールームで購入した、家具の支払いは俺の財布に入っているブラックカードで全額支払うことにする。


 去年はプラチナムカードだったが、クレジットカード会社からの切り替えのおすすめが届いていたので切り替えたのだ。


 年会費も上がってるはずだが、利便性も上がってるはずなんだよな。


「あ、支払いは一括で、このカードでお願いします。

 あとはお送料も全部まとめて一緒でお願いします」


 俺はマエストロUCカードのワールド・カード、通称ブラックカードを売り場で財布から出して会計の人に渡した。


 小切手でも手間はそんなに変わらないが、アメリカではクレジットカードでの支払いが一般的で、ワールド・カードは現時点での最高ランクのカードだ。


 一度の買い物での利用限度額は前に持っていたプラチナムカードで300万円程度、ブラックカードでは1000万円程度。


 まあ、後にはワールドエリートカード、限度額無制限のパラジウムカードも出てきたりするが。


 結局の所、こうしたほうが現金を大量に持ち歩くよりずっと安全だしな。


「これは……まさか、ワールド・カードですか?」


「ええ、なので、みんなの分くらいなら支払えると思うのですよ」


「あ、は、はい、ではこちらで清算いたしますね」


 インプリンタのポケットにクレジットカードをあわせてローラーをスライドし、カード情報を転写し、カード番号などとともに個人情報をカード会社に伝えることでクレジットカード決済を行って、三枚の伝票のうちのカード会員用のものを受け取る。


 ある意味現金の方が手間はかからないのだけど何百万百もの現金を持ち歩いていられないしな。


 この辺りは信用照会端末とブロードバンド通信が普及するとだいぶ便利になるけど、ダイアルアップ通信でのデータ通信方式だと結局2・3分ほどは時間がかかる。


 その間の家具の配送先などを記入しておく。


 こういった手動の電話決済は、売り場の上限を超えた額の決済では信用照会センターに電話を掛けて信用情報を取得し、伝えられた承認番号を手書きのボールペンで記入するのだ。


 そして清算手続きを済ませている間に俺は上杉さんに聞いてみた。


「上杉さんは家具を買わないんですか?」


 上杉さんは苦笑していった。


「ああ、お前さんは実家暮らしだから、今使っている家具を置いていけるだろうし、女子三人組はそもそも個人的な家具を持ってなかったようだから、当然購入が必要だろう。

 だがな、私は今住んでるアパートを出ないといけないからな。

 当然、家電や家具、生活雑貨などを置き去りにはできんし、買ってそんなに時間もたってもいないから捨てるのももったいな。

 だから引っ越し業者に頼んで全部持ってくるさ。

 まあ、部屋の大きさはさほど変わらないしちょうどいいが」


「今の部屋の間取りって1LDKなんですか?」


「いや、1DKだな。

 トイレバス洗面が一緒のユニットバスなんで脱衣所がないし、キッチンダイニングも広くはないから今よりは広いがね。

 まあ、実際に住んでみてないと不便なものがあれば、おいおい買いそろえていくつもりだよ」


「なるほど、今現在住んでいて必要なものは最低限あり、それを全部持ち出すか捨てないといけないなら急いで買う必要もないですしね。

 ちなみに家賃はいくらくらいだったんですか?」


「月6万だな。

 月収が税込み40万円ぐらいで、手取り額は約30万円ほどだから結構痛かったが」


「あれ住宅手当とかなかったんですが?」


 俺がそういうと上杉さんは苦笑していった。


「昔は出ていたようだが、馬鹿な若い男性教師が女生徒を自分のアパートに連れ込んで問題になったことで独身者には住宅手当は出なくなったそうだ」


 その言葉には俺も苦笑せざるを得ない。


「とんだとばっちりですね」


「まったくだ。

 女は美容や化粧にも金がかかるし、保険や貯金、車のローンやガソリン代も考えると結構きつかったな。

 まあ、お前らのゲーム制作部の顧問になったり、担当した生徒から東大合格者が出たり、車のガソリン代や車検費用を部活動の部費として落とせたりしたから、おかげで特別手当も出て、この3年はだいぶ楽だったが」


「まあ、それなら何よりです」


「まあ私立の学校は評価第一主義で、教師の募集も多いがやめていく人間もも多い。

 私立の高校の教師は、公務員じゃないんでしょうがないが、その割には残業があっても残業代は出ない。

 また、生徒や保護者に対してのアンケートや生徒の成績で、評価が決まる。

 普通は部活の顧問でも手当はないのが普通だし、車だしをしても、ガソリン代など当然でないのが普通だ」


「私立学校の先生は大変なんですね」


「まあ、それが辞めた理由の一つでもあるな。

 さて清算も終わったようだし次は家電を買いに行くぞ」


 上杉さんの言葉に俺はうなずいた。


「家電もないと困りますしね」


「では西口に移動するか」


「はい」


 というわけで俺たちは東口から西口へ移動した。


 新宿東口は家具を扱っている家具屋が多いが、西口には家電量販店が多く西口電気街と呼ばれている。


 特に駅前のニホンバシカメラとデッカイカメラはかなりでかい。


 まあ、秋葉原の西口電気街よりずっと店舗自体は少ないけどな。


 今の時代では郊外の幹線道路にロードサイド店舗を開く家電量販店mンはまだなく住宅街では家電メーカーの直販店が小さい店舗に自社製品のテレビを所狭しと並べていたりする。


 ニホンバシカメラは西新宿に昭和42年(1967年)に設立され、当初はカメラや写真用品を主力商品としていた。


 昭和50年(1975年)に新宿西口本店がオープンすると家電量販店として白物家電や生活家電を扱うようになり、最近はパソコンなども売り出しているらしい。


「ではまず何から見る?」


 上杉さんが聞いてくるので俺は答えた。


「まずは冷蔵庫・洗濯機・エアコン・電子レンジ・炊飯器などの白物家電から見ましょう。

 最悪テレビがなくても困りませんが、これらはないと困りますからね」


「まあ、そうだな」


 現在の家電の華といえばテレビなんだが、冷蔵庫や洗濯機がないとかなりきついからな。


「さて、冷蔵庫の置いてあるフロアだが、お前たちはどのくらいの大きさにするんだ?」


 上杉さんが聞いてくるので俺は悩んだ。


 その間に浅井さんは答える。


「私は600リットルくらいあるおっきな冷蔵庫がいいです」


 芦名さんと佐竹さんも同意見のようだ。


「僕たちも冷蔵庫は大きいのが欲しいな」


「そうすれば色々入れておけるしな」


 まあ、この三人は自炊でしっかりいろいろ作りそうだしな。


「俺は400リットルくらいでいいかなと思ってますが……」


 俺がそういうと上杉さんは言った。


「実際のところそのクラスだと高さは変わらんし、幅が10センチくらい違うだけだし大き目を買っておいたらどうだ?

 食糧庫ももあるくらいだから、冷蔵庫が入らないということもなかろう」


「それは確かにそうですね。

 入り口のドアや廊下の幅も広いので、搬入できないという問題もないと思いますし」


 このころには冷蔵庫はマルチドア化して、冷蔵庫と冷凍庫以外の野菜室、製氷機、チルド室などを備えたり、脱臭や急速冷凍などの付加機能がついてきて機能は十分上がってるが、本来600リットルといえば子供のいる家族向けの大きさなんだよな。


 まあ400リットルでも、一人暮らしには少し大きいかもなのだが、幅的には10センチぐらいしか変わらなかったりもするし、それなら600リットルのほうがいいかも?


 600リットル冷蔵庫は一台30万円なり。


 もっとも400リットルでも20万はするからなぁ。


「次は洗濯機かな?

 どうせならこれはでかいのを買って毛布や薄手の布団も洗えるといいんだけど。

 ついでにでかいガス乾燥機を載せて、乾燥が楽にできるといいんだけどな」


 俺がそういうと上杉さんが言った。


「それならこれはどうだ?」


 それはドラム式の洗濯乾燥機だった。


「え、家庭用乾燥機一体型のドラム式洗濯機?

 もう売ってたんだ」


「まあ、洗濯乾燥性能や振動や音大きいという話はあるがな」


「まあ、そうですよね。 だとするとちょっとなしかなぁ……」


 そういえば昭和60年(1985年)に男女雇用機会均等法が施工されたこともあって家事の時間を短縮できる製品が求められるようになり、その結果洗濯乾燥機も販売されるに至ったというわけだ。


「あんまり乾くのが遅いのは問題なのでやっぱりガス乾燥機がいいです」


「布団も乾燥できるような、でかいものだと最悪は業務用を買うしかなさそうだがな。

 あと洗濯機置き場のそばにガス配管のコックはあるのか?」


「ええ、大丈夫です。

 都市ガス用ガスファンヒーターのコックや排気用スリーブなんかもありますしね」


 俺がそういうと上杉さんがうなずいた。


「ふむ、では10キロの縦型全自動洗濯機と8キロのガス乾燥機を買うのがいいだろうな」


「ええ、そうするつもりです」


 ガス乾燥機が20万ほどで工事費用別、全自動洗濯機は10万ほどなので合わせて30万ほど。


「一人で住むのにそんなに大きな洗濯機とかがいるのでしょうか?」


 浅井さんにそう聞かれたので俺は答えた。


「和室の畳に布団を敷くとどうしてもダニがわきやすくなるからね。

 毛布や薄手の布団を洗濯して衣類乾燥機で乾燥すればそういったダニを殺して埃なんかとともに除去できるし、洗濯すれば汗のにおいなんかも抜けるから」


俺がそういうと浅井さんははっとしたような表情になってから言った。


「な、なるほど。

 それは大事ですね。

 じゃあ、私も同じものを買います」


「僕たちも買うことにしたよ」


「俺たちは毛布や布団は外で干しても、洗ったりしなかったけど言われてみれば、たまには洗ったほうがよさそうだしな」


 エアコンは6畳用が30万円くらいでこれも工事費別、リビングダイニングの12畳用は50万円くらいでこれも工事費別とかなり高い。


 この時代にエアコンはまだまだ高かったんだな。


 5年もたてば10万から15万は値段が下がるはずなんだが。


 が、まあ、俺や浅井さんは最上階だし、夏にはエアコンは必要だろうな。


 冬の暖房はガスファンヒーターを使ったほうがよさうだけども。


 今回は上杉さんも含めて、皆同じものを買う。


 まあ1LDKのほうは6畳用エアコンは1つでいいのだけど。


 炊飯器・電子レンジ・電気ポットなんかも買ったがまあこれは大した値段ではない。


 掃除機も一つ買う。


「あとはテレビとビデオデッキかな」


 俺がそういうと上杉さんはうなずいた。


「ふむ、ではテレビ売り場に行くとしよう」


 この時代はテレビも結構高いな。


「21型で20万円か」


 5年もたてば29型で同じくらいに価格になるんだけどな。


 そういった価格の下落が秋葉原などの家電量販店でパソコンなどの取り扱いを増やしていく理由でもあるのだけど。


「まあ、これでいいかな」


 ブラウン管テレビの29型は重さが50キロもあったりするしな。


「ん、シャープナーが100インチまで映せるプロジェクターを出してるのか。

 値段は50万円……ああ、でもこれも欲しいかな」


 ビデオで映画などをでかい画面で見たいときはプロジェクター、ニュースとかを見るだけならテレビでいい気がする。


 俺がそういうと上杉さんは苦笑した。


「まあ、金はあるのだから好きにすればいいと思うぞ。

 映像や音響家電は趣味だしな」


 実際、浅井さんたちはプロジェクターを買うつもりはないようだ。


「さすがにテレビはともかく、プロジェクターは必要ない気がします」


 まあ、そうだよなぁとは思う。


 予定通り録画可能なビデオデッキを10万円ほどで買ったが、そしてここまで来たらLDプレイヤーも欲しいがこちらの価格は40万円……まあここまで来たら誤差みたいなもんだ。


 しかし予想以上に家電の価格が高くて、ちょっとびっくりだったな。

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