愛憎を食む。
しろイロ.
プロローグ
室内に広がる紅茶の香りと、彼女の柔らかな表情見ていると心が安らぐ。メイドと主人が向かい合って茶を嗜むなんて、普通ではあり得ないことだけれど、それでも私は彼女とこうしている時間が好きだった。
だって、彼女は特別だから。
「お嬢様、私の顔に何かついていますか?」
困ったように笑う彼女の周りは、一瞬で花が咲いたように色づいた気がした。
この感情が特別だというのに気がついたのは、もうずっと前のことだ。彼女も同じならと、何度願った事だろう。
お嬢様は変わっている。いくら小さい頃からの御側付きとはいえ、こうやって身分の違うものを対等に扱ってくれる主人は極稀だろう。
私の主人はこの国でも群を抜いて美しくあられる。長い黒髪が風で揺れるたび、その美しさに魅入ってしまう。
まるで絵画に描かれる貴婦人のように「美しいです。」そう口に出しかけたが、なんだかおこがましくなってしまってやめた。だのに、
「どうしたの?何か言いたそうにしていたけれど。」
まるで聖母のような笑みを向けられると、この上ない多幸感に包まれる。お嬢様は気づかれていないでしょうが、この笑みは私にだけしか向けられない。私だけのもの。…なんて、うぬぼれても良いのでしょうか。
「いえ、…ただお綺麗だなと思っただけで。」
自分の顔が熱くなっているのがわかる、少し恥ずかしい。けど、褒められて照れるお嬢様をみれるのなら悪くないと思ってしまう。
この感情は、似つかわしくない。私を信頼してくださっているお嬢様を、まるで裏切っているようで。たまに自己嫌悪で押しつぶされそうになることがある。
それでも、やはりお嬢様が私の唯一なのです。
愛憎を食む。 しろイロ. @Siroirodesu
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