【ショートショート】いつの間にか参加させられていたデスゲーム、シャボン玉で殺されそうなんですが【2,000字以内】
石矢天
いつの間にか参加させられていたデスゲーム、シャボン玉で殺されそうなんですが
「ぎゃあああ! 死ぬ、死ぬ、死ぬ、死んじゃう!」
私はいま全力で走っている。
なぜなら、走らないと死んでしまうから。
ある日、目が覚めたら見知らぬ場所にいた。
わけもわからず目をこすっていると、スピーカーからアナウンスが流れてきた。
アナウンスの内容を要約すると『ここは周りに島ひとつ無い無人島で、私はデスゲームに強制参加させられる』らしい。
なぜそんなことになったのか全く覚えがない。
勝ち残ったら莫大な賞金がもらえるそうだ……けど、どう考えても命の方が大事だと思う。
横を見ればリュックがひとつ。
しかし中には食料も無ければ武器も無い。
こんなものが何の役に立つというのだろうか。
あの男と出会ったのは、ぶつぶつ文句を言いながら島を探索していたときだった。
黒ずくめのライダースーツを着た長身の男は、手にオモチャの銃のようなものを持っていた。子供用のカラフルなウォーターガン、あんな感じの銃だ。
偶発的な遭遇にライダースーツの男も驚いていたが、すぐにオモチャの銃を構えてきた。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って。待ってください! 争うのは、よくないです。あなたもそんなオモチャみたいな銃でなにができるんですか!?」
私は近くにあった必死で男を止める。
オモチャの銃はさておき、この体格差では普通に襲われても負けてしまう。
しかし男は一瞬の迷いもなく吐き捨てるように言った。
「くだらん。この銃でなにができるのか、はその目で確かめてみればいい」
銃の引き金に掛かっている、男の人差し指がピクリと動いた。
その瞬間、私はイヤな予感がして後ろに飛びしさり、近くにあった木の陰に隠れた。
「……シャボン玉?」
そう。銃口から飛び出してきたのは虹色のシャボン玉だった。
場に似つかわしくない綺麗なシャボン玉。
そのシャボン玉を見た瞬間、私の脳に警報が鳴った。
すぐに木の陰から飛び出して、男に背を向けて走る。
「ふん。いい勘してるじゃないか」
男のつぶやきが聞こえたような気がするが、逃げることに夢中でそれどころではない。数秒後、背中の方で爆発音が聞こえた。
ものすごく大きい音、というわけではないが爆発であることはハッキリとわかるくらいの音だった。
続いてなにか大きなものが倒れる音がした。
ちらりと後ろを振り向くと、さっきまで私が隠れていた木が倒れていた。
根は土に張ったまま、幹の真ん中あたりから崩れ落ちている。
幹の真ん中が吹き飛んでいた。
男がこちらへ走ってきているのが見える。
さきほどのシャボン銃を構えているが、射程外だからか撃ってはこない。
なぜシャボン玉が爆発するのか、なんて考えるだけムダだ。
事実、目の前で爆発しているのだから仕方がない。
私には逃げる以外の選択肢はなかった。
と、そういうわけで、私は走っている。
どこへ向かっているのか、自分でもよくわからない。
とにかく走って、走って、走り抜けた。
そして、私は追い詰められた。
だって仕方がないじゃないか。
地理なんかサッパリわからないし、男と女じゃそもそも体力に差があるんだから。
逃げ切れるわけがなかった。
「どういうつもりだ?」
私を崖に追い詰めた男が無表情でつぶやく。
「もう、これしかないんだもの」
着ていたシャツを脱いでキャミソール姿になった私が答えた。
崖は先端に向かって少しだけ上り傾斜がついているから、距離もあって男が小さく見える。
「俺に色仕掛けは通用しない」
男は再び私に銃口を向けた。
イヤな汗が背中に流れ、脱いだシャツを持った右手に力が入る。
「本当に? だったら撃ってみなさいよ」
「撃つさ」
男の指が引き金を引いた。
一回、二回、三回、四回。
放たれた虹色のシャボン玉。
「あああああああ!!」
私は力の限りシャツを振った。
汗を吸って重たくなったシャツは、大きく空気を捕まえて、小さな風を起こした。
微風とはいえ、あおられたシャボンは軌道を変える。
そのまま男の方へシャボンが返って――いくほど、現実は甘くない。
その前に地面に落ちたシャボンが爆発を起こした。
脆い崖が衝撃に耐えられるはずもなく、私と男を巻き込んで崩れ落ちたのは当然の結末だった。
そう。当然の結末だ。当然のことであれば準備ができる。
シャボンが爆発する寸前、私は左手に持っていたリュックを背負った。
男が落ちていく。
崖下までは百メートルくらいあるだろうか。
それを私はゆっくりと下降しながら眺めている。
大きく開いたパラシュートの傘の下で。
【了】
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【ショートショート】いつの間にか参加させられていたデスゲーム、シャボン玉で殺されそうなんですが【2,000字以内】 石矢天 @Ten_Ishiya
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