悲しみの傘

@koriyama_takuto

1. 老人

 公園にいたその老人はタバコを蒸しながら僕へ問う。

「お前は何のために生きるのか。何を求めて死んでいくのか。」


 もうあれから五年経つみたいだ。その老人は2年前に死んでいった。話によると老衰らしい。まあ80を余裕で超えていると話していたから、自然の摂理なのかもしれない。

 僕の心であの問がこだまする。「なぜ、人は生きるのか、死ぬのか。」ぼやいてみるが、少しも答えは出てこない。解らないのだ。あまりにも抽象的すぎて、体が対えるのを拒否している。しかしこの問は人生をかけた問であるとも思った。とりあえず僕はタバコを蒸して咥える。どうしても答えが欲しかった。

 とりあえず僕は「人生」についての本や動画を見尽くすことにした。哲学書から児童向けの動画まで、ありとあらゆるものを漁った。しかし、そこで語られているのは「生きる意味など存在しない」だの、「幸せのために生きる」だの、とてもじゃないがまとめきれない。やめにした。

 次に僕は自分の知名度を上げて著名な哲学者や芸能人と対談してみることにした。生で他人の意見を聞くのは大事なことだ。しかしそこで相手は決まってこんな事を言った。

「人生の意味なんて人それぞれなのだからこんなことしてないでもっと楽しいことをしたらどうなんだい」


 気づいたら僕もすっかり老人になってしまった。老人の問を追い求めたら自分が老人になっていただなんて、なんとも皮肉だと思う。問いかけてきた老人は今の僕のことを見て嘲笑っているのかもしれないなあ。でも、これが人生なのだとも思う。

 老人と出会った公園に行ってみる。タバコを吸っていたら、遊んでいた子供が近づいてきたので、あの日のあの老人のように問いかけてみることにした。

「お前は何のために生きるのか。何を求めて死んでいくのか。」

すると子供は「じぶんのやりたいことのため!」と言った。

その時、僕の人生はあの問の答えになっているような気がした。

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