思いつかない男

山野エル

思いつかない男

「孤島のしゃぼん玉」……?

 また奇矯なテーマだ。まったく、あの人の考えることはよく分からん。受付期間は……明日?

 書かなきゃいけない短編も、カクヨムコンに出したい長編も、毎日更新している作品の書き溜めも作りたいんだが、こんなお題を見たら好奇心が疼いてしまう。

 まあ、いいだろう。俺は寝ている間でもネタを考えられるんだ。ちょっと寝て、パッと思いついて、サッと書いて、自分のやるべきことに向かえばいい。


 . 。 ⚪︎ ◯


 目覚めた瞬間、しまった、と思うことがある。まさに今がそうだ。

 寝ながら考えるはずだったのに……空っぽのまま起きてしまったじゃないか。

 寝ぼけ眼でTwitterを見る。


≪お題企画に参加してくださった白木犀さんの作品です🙋

🐆

幻想世界、赤色のシャボン玉 - カクヨム≫

≪ お題企画に参加してくださった佐楽さんの作品です🙋

🐆

シャボン・コトダマ - カクヨム≫

≪ お題企画に参加してくださった月見 夕さんの作品です🙋

🐆

水中浮遊 - カクヨム≫


 もう集まってやがる……。

 しかし、こいつら、いつ寝てるんだ……?

 やけに焦りが出てくる。考えようとしても、雑念ばかりが頭の中を渦巻く。

 ダメだ……。


 俺の中に黒い考えが芽生える。

 俺も同じテーマで自主企画を立てりゃあいい。そこで集まった作品から良さそうなものを見繕って、こっちで出しゃいい。

 俺は早速カクヨムに自主企画を出した。


≪変わったお題で募集! 腕自慢、集まって〜!!≫


 よし、俺は不貞寝をする。


 . 。 ⚪︎ ◯


 目覚めた瞬間、しまった、と思うことがある。まさに今がそうだ。

 もう昼過ぎじゃないか。

 急いでカクヨムを確認する。

 来てる来てる。馬鹿どもが餌に釣られてやって来た。


≪らいまる:しゃぼん玉検閲官

──しゃぼん玉検閲官が孤島で発見したしゃぼん玉の正体とは?≫

≪高科めのん:泡沫うたかたの恋

──あのさ、おれ、君のことが……。孤島で出会った少年とのひと夏の思い出≫

≪宇野来太@カクヨムコン8参加中:シャボン・アイランド

──なんだ、ここは?!≫


 三つか……。恋愛ものは俺の範疇じゃない。

『しゃぼん玉検閲官』でいこう。

 そう決めた俺のTwitterアカウントに通知が来る。みかんとかいうアカウントからのリプだ。


≪この企画、クロノヒョウさんと内容同じですよね?≫


 すでにいくつかの反応があるようだ。暇な奴もいるもんだ。俺はリプを返した。


≪偶然被ったんですよ。パクリじゃない≫

≪このお題で被りじゃないはないでしょう。クロノヒョウさんに謝罪すべきです。さもないとカクヨム運営に報告します≫


 反応の速さといい、こいつは暇人だ。


≪あーあー、聞こえなーい🤪≫


 俺はそう煽り返して、『しゃぼん玉検閲官』をコピーして、自分の自主企画を削除した。


 . 。 ⚪︎ ◯


≪これは盗作ですよね? タイトルも内容も全部私の作品と同じです≫


 無事に作品を投稿して数日後のことだ。

 誰かがチクったらしい。らいまるから作品のURLがTwitterのDMで送られてくる。


≪偶然ですよ≫

≪謝罪と作品の削除がない場合、法的手段に出ます≫

≪広い宇宙、偶然ってのは重なることもあるんですねえ〜≫

≪ちょっと何言ってるか分かんないんですけど≫


 . 。 ⚪︎ ◯


 何ヶ月かした頃、裁判所から通知が届いた。中を見ると、著作権侵害の民事裁判で裁判所に出頭命令……らいまるだ。

 いや、ここまでやるか、普通?!

 どんだけ暇なんだよ、こいつ。


 . 。 ⚪︎ ◯


 俺だって裁判所に来いと言われれば、行かざるを得ない。金が惜しく、弁護士は雇わなかった。民事では弁護士なしで裁判に臨めるらしい。アイディアメモに書き足しておいた。

 あれよあれよと裁判が進む中で、どうやら俺はかなり不利な状況に立たされていることが分かってきた。


 判決の時、裁判官が厳かに言った。

「山野エルを孤島に島流しとする」

「はい? いつの時代だよバカヤロー」

「君はそこで反省しなさい」

 裁判官は厳しい表情と口調でそう言った。お前は先生かよ。

「いや、これ民事裁判でしょ? おかしいだろ、こんなの!」

 裁判官は耳を塞いだ。

「あーあー、聞こえなーい🤪」


 . 。 ⚪︎ ◯


 青い空、白い砂浜、寄せては返す波の音。

 遠くで揺れるヤシの木だけが、この島のシンボルだ。こんな絵に描いたような島が存在するとは……。

 島流しにされて、どうすりゃいいんだ? 和歌でも詠めってか? たたるぞこら。

 砂浜には色々なゴミが流れ着く。まるで俺みたいじゃないか。SDGsはどうなってんだ。

 白い砂浜の上に鮮やかな黄緑色のボトルが落ちていた。しゃぼん液の入ったボトルだ。そいつを拾い上げ、ボトルに付いていたストローを抜く。


 フッとひと息。

 何も知らないしゃぼん玉が青い空に旅立って行く。

 俺はため息をついた。


 何も思いつかねえな……。

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