第100話
六道が声のした方角に意識を向けると、そこから数人の気配を感じ取った。その気配に従い進んでいくと、細長い路地のところに出る。
そこにいたのは四人の男子たち。全員がランドセルを背負っているので小学生だとは思う。
(ん? あの子は……?)
その中に一人だけ見知った顔があった。
その子は、あの【ブルーアステル】のセンターである銀堂雪華の弟。
(確か……冬樹だったか?)
そんな冬樹が、壁に背を押し付けられる形で、目の前に立つ三人に行く手を阻まれていた。
雰囲気から仲良く遊んでいるといった感じではない。何故なら冬樹は、他の三人を睨みつけているからだ。
「あのな銀堂、こっちは頼んでるだけじゃんか」
「そうそう、それに前はちゃんとくれたろ?」
冬樹の前にいる三人の内、二人に対して「嫌だ!」とハッキリ断り呆れさせている。どちらも細身であり冬樹と大差ない体格だ。
しかしそんな二人に挟まれるようにしてふてぶてしそうに立っている男子は、冬樹たちを見下ろせるほどにデカイ。正直にいえば小学生に見えない体格だ。
そんなガタイの良い男子が、それまで閉じていた口を静かに開く。
「おい銀堂、あまり調子に乗るなよ? いいからさっさと出すもんを出せって話をしてんだよ」
まるで一昔前の不良が言うようなセリフだ。
(何だ? 小学生なのにカツアゲか?)
だとするなら本当に世も末だなと思いつつ、もう少し様子を見守ることにした。
「だから持ってないって言ってるだろ! それにたとえ持ってても、もう君たちなんかにあげないよ!」
もう……?
その言葉を聞いて六道は眉をひそめる。
もう、ということは以前は彼らの要求を飲んだということだ。
こういう悪事を働かせるような相手は、たとえ子供とはいえ一度でも要求を飲んでしまうと、それに味を占めて何度も同じことを繰り返すようになる。
だから彼らも一度は上手くいったのだから再三要求を突き付けているということだろう。
「何でだよ、銀堂。俺たちはファンだって言ってんだろ?」
ガタイの良い男子が口にするが、〝ファン〟という言葉に若干困惑してしまう六道。
(ファン? ファンって……追っかけのこと……だよな?)
金を要求しているのに、ファンが関係しているとはどういうことか分からない。
思案していると、冬樹が怒りを露わにして叫び出す。
「僕、知ってるんだよ! 君たちが、あのサイン色紙やグッズとネットで売ってること!」
六道は思わず〝何ですと?〟と目を白黒させてしまったが、子供たちのやり取りはそのまま続く。
「絶対許せない! せっかくお姉ちゃんが、用意してくれたのに!」
「おいおい、どこにそんな証拠があるってんだ? 友達からもらったもんを売るわけねえだろ? なあ、お前ら」
ガタイの良い男子の言葉に、取り巻きのような二人がニヤニヤと笑みを浮かべる。
「じゃあ今すぐ僕があげたものを持ってこれる?」
冬樹の反撃。それは三人にとっては良くない攻撃だったようで、彼らの表情にどこか焦りが見え始める。
(なるほど、読めてきたな。つまりあの三人は、冬樹の姉がアイドルをやってることを知ってて、その口利きでサイン色紙やらグッズやらを融通してもらってたわけだ。そしてそれをネットで売り捌いた)
今の時代、スマホさえあれば子供でも簡単に売買ができるような世の中だ。その中で人気なのが、ネットでのフリーマーケット。
商品数やジャンルも膨大で、欲しいものがすぐに手に入るサイトである。また個人と交渉し値下げなども行えることから、利用者数は今もなお増え続けているとのこと。
恐らくあの三人は、そういうフリマサイトを利用してグッズなどを転売したわけだ。
「おいおい、そんなつれねえこと言うなよ。友達だろ? 俺たちはただ純粋にお前の姉ちゃんたちを応援したいだけだって。だからほら、また用意してくれるよな?」
ガタイの良い男子が、微笑みながら冬樹の肩に手を置く。しかし冬樹はその手を払いのけた。
「だからもう諦めてって言ってるだろ! 僕に構わないでよ!」
強気に反発した冬樹にイラついた様子を見せたガタイの良い男子。
「っ……マジで分かってねえようだな。じゃあ優しくするのは止めだ。用意してくるまで、これから毎日こうやってぶん殴って――」
振り上げられた拳を見て冬樹は怯えて目を閉じるが、その拳が冬樹に襲い掛かることはなかった。
何故なら瞬時に現れた六道が、男子の手首を持って動きを止めていたからである。
「「「っんな!?」」」
三人の悪ガキどもが、一斉に驚愕する。当然冬樹もそうだが、六道の顔を見て別の意味で驚いているようだ。
「弱い者いじめはカッコ悪いぞ、少年たち」
どこかキザなセリフにはなってしまい若干気恥ずかしくなった。
「な、何だよお前! ていうか離せよな!」
そう言いながら必死で拘束から逃れようとガタイの良い男子が力を入れるがビクともしない。それもそのはずだ。いくら小学生にしては力が強いとはいっても、しょせんは子供でしかない。大人……しかも勇者の力を振り払えるわけがないのだ。
しかし六道は「おっと、悪い悪い」とパッと手を離してやった。すると勢いよく尻もちをついてしまう男子。そして同時にこちらを睨みつけてくる。
「おお怖い怖い。ガキの頃からそんな顔ばっかしてると、顔つきがどんどん悪くなっちまうぜ?」
「う、うっせえ! ていうかいきなり何なんだよ! 邪魔してくんなよな!」
周りの二人も「そうだそうだ!」と声を揃えて文句を言ってくる。
「ん~そっか。じゃあとりあえず近くに交番があるし、話はそこでするってのはどうだ? 全員でな」
ニカッと笑みを浮かべながら言うと、三人の男子たちは揃って勢いをなくしていく。さすがに警察の目の前で、今のような行動はできないと理解はしているのだろう。
するとガタイの良い男子が立ち上がり、六道を一瞥したあとに、その視線を冬樹へと向ける。しかし冬樹に対して何かを発するでもなく、そのまま取り巻きを連れて去って行った。
元勇者、今はアイドルのドライバーやってます 十本スイ @to-moto
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