trio4
ラン先輩がいなくなった後、リン先輩が大きなため息をついた。
呆れているようにも見えたが、どちらかと言えばこの場から姿を消してくれてホッとしている。といった感じだった。
……俺には、気になることがあった。
「あの……もしかして、何か知っているんですか?」
ギクッと、リン先輩とローズ先輩からそんな効果音が聞こえてきそうだった。
二人とも何も言わない。
……何も言わないということは、やっぱり。
「ラン先輩を庇うわけではないですが……何か知っているのなら、教えてあげたほうがいいのでは……?」
「スノー、無駄だよ。一生黙っているつもりだもん、この人」
なぜかソフィア様が口を挟んできた。
「どういうことですか?」
ソフィア様までもが何かを知っているというのか。
「ランランが探しているのは、コレだよ」
そう言って、彼女は一枚の写真を俺たちに見せた。
そこには、幼女が二人映っていた。
一人はソフィア様。
楽しそうにお屋敷の庭を駆け回っている。
もう一人は、そんなソフィア様を見守っている……が、その横顔は何だか物憂げだ。
あちこちに巻かれている包帯が痛々しい……
……あれ?
黒くて長い髪の女の子。
あちこちに巻かれた包帯。
さっき先輩が話していた特徴と一致する!
こ、これって!
「――どこから持ってきたんだ、こんな写真!」
もっとじっくり見ようと思ったところで、リン先輩に取り上げられてしまった。
「おばあちゃんのアルバムから見つけた」
「何のために見つけた!? 大体何だこれは! いつ撮った!?」
「まぁ、懐かしいわねぇ。ソフィア様もリンちゃんも小さくて可愛い」
ローズ先輩が、リン先輩の持つ写真を見て目を細める。
今、ソフィア様もリンちゃんも……って言ったか。
あの写真にリン先輩の姿なんて……
……まさか……
「ソフィア様と一緒に映っている女の子って、リン先輩!?」
ブロッサムも気づいたようで、叫ぶように言った。
先輩は、頭を抱える。
「やっぱりわかるよねー。ランランってば本当おかしいよねー」
なんてことだ。
先輩の昔の姿にも驚きだが、それ以上にラン先輩の鈍さにも驚いた。
わかってはいたが、ここまで酷いとは。
確かに、女性が髪型を変えても気づかないタイプの人ではある。
それが原因で、フラれているのも目撃した。
けど、いくら何でも……
「……ラン先輩って目が悪いのかな……」
「それ、本人に言ってやれ。その細めをもっと開けと」
言えるわけがない!
「……リン先輩はどうしてすぐに言わなかったんですか」
「どうしてと言われても……」
リン先輩は顔をしかめた。
「あいつと出会った翌日に、俺はこの長い髪をバッサリ切った。その状態でやつと顔を再び合わせたが……驚いたことに、やつの中ではこの写真の人物と俺は別人だと認識していた」
……わからない。
なぜそんなことになるのか……俺にはわからない……
「……髪を切っただけですよね?」
「驚くな。髪を切っただけだ」
「……」
俺はもう何も言うことができない。
そんな気力もない。
「何だかランちゃんったら、この黒髪の女の子に本気だったから……私もずっと言えず仕舞いで……」
ローズ先輩までもが大きなため息をついている。
「……すみません……」
「スノーは悪くないのよ!?」
後輩として謝らなければいけないと、つい謝ってしまった。
「似たような女が現れてくれないかな……」
無茶を言い出すリン先輩。
現実逃避というやつか。
「別にいいじゃん。言っちゃえば。このまま黙っているほうが厄介だよ。さっさとカミングアウトしなよ」
「お前……他人事だからって……」
「いや、これは言わないほうがいいのかもしれません……」
だって先輩は、もし運命の人と再会できたならば、結婚を前提に交際を申し込む……と……
「カミングアウトしてしまったら、ラン先輩にとってもリン先輩にとっても……色々面倒じゃないですか……?」
「そうだな……」
俺がそう言うと、ソフィア様以外の全員がため息をついたのだった。
そうじ屋の愉快なお仕事 ホタテ @souji_2012
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