最終51話 最終章 一つの物語の終わり そして……12 

「クルト君。本当に強くなったね。僕も負けてならないな。そう遠くない未来、もう一度、勝負しよう。ところで握手をしてくれないか?」

 ハンスさんの手は鍛えられた戦士ファイターの手だった。ただ、昔ほど、ごつくは感じなかった。僕の手もごつい戦士ファイターの手になったということだろうか。


「では、私はデリアちゃんと握手をしよう」

 ナターリエさんはデリアと握手する。僕もデリアも本当にいい先輩に恵まれた。


「それにしてもねえ」

 ナターリエさんは複雑な表情を見せた。どうしたんだろう。

「デリアちゃんはクルト君が首を斬られたことで絶望して、後追い自殺をしたことにしたんだよ」


「え? そういうことにしたんですか?」

 デリアは驚いている。僕も知らなかったことだが、デリアも知らなかったようだ。


「それで、クルト君の偽首を埋葬する予定の場所の隣にデリアちゃんのお墓も作ったんだよ。そうしたら町の人たちが『あんないい子たちが死んじゃうなんて』って言って泣いて……」


「……」

 そんなことがあったのか。


「だから、二人とも立派になって帰って来るんだよ。町の人たちにまで悲しい思いをさせたんだからね」


「「はい」」

 僕とデリアは一緒に頭を下げた。 


「「クルトさんっ」」

 カール君とヨハン君だ。今回は後輩の彼らにも随分と迷惑をかけたのに、明るく接してくれている。

「もうクルトさんにスピアを教えてもらえませんが、ハンスさんがソードを教えてくれるそうです。また一緒のパーティーを組みたいです。よろしくお願いします」

 二人はぺこりと頭を下げる。こっちが頭を下げたいくらいだ。


 いろいろな人と話したな。もう話していない人はいくらもいないはずだ。別れの時は近いか。


「クルトさん……」


 え?


 ◇◇◇


 まっ、まさかっ、エルンスト? 「クルトさん」って、僕のことは「おまえ」って呼ぶんじゃないの?


「僕はクルトさんがいた部屋に入らせてもらうことになりました」


「そ、そう」


「僕もクルトさんみたいな強い冒険者になります。いつかきっとまた会いましょう」

 エルンストはぺこりと頭を下げた。当惑している僕をよそに、何故かエルンストの後ろに立つカトリナがドヤ顔。デリアは何か笑っているし、うーん。


「カタリナちゃん」

 最後のカトリナにはデリアの方から声をかけた。

「前にも言ったけど、エルンストをよろしくね。手間がかかる子だけど、守ってあげて」


「それは違うよっ! 姉さんっ!」

 エルンストが慌てて前に出て、デリアに言う。

「僕が守ってもらうんじゃないっ! 僕がカトリナ姉さんを守るんだっ!」


 デリアはしばしあっけに取られていたが、微笑を浮かべた。

「うん。エルンストもカトリナちゃんを守ってね」


「うん」

 エルンストは大きく頷く。


「クルト君。デリアちゃん」

 最後はカトリナだ。

「二人が帰ってくる頃には私はもうロスハイムにいなくて、カロッテ村に戻っていると思う。そっちにも訪ねてきてね」


 そうか。そうだったね。時はうつろう。たとえ今回の僕のしでかしがなかったとしても、いつまでも全てが同じというわけにはいかない。僕らも変わらなければならなくなる。


「そっ、そっ、それでねっ」

 エルンストがまた出てくる。

「その時は僕もカロッテ村に行きたいんだ。だっ、だから、ファーレンハイト商会の当主はデリア姉さんに譲りたいっ!」


 デリアはまたもあっけに取られていたが、すぐにまた笑顔になった。

「ありがとう。カトリナちゃん。エルンスト。私たちの旅立ちに何よりのはなむけをもらったよ」


 ◇◇◇


 僕たちは大きな城門ではなく、普段は門番だけが通る小さな通用口から外へ出た。


 大きな城門を開け閉めするとどうしても大きな音が出る。好意で理由も聞かず、見て見ぬふりをしてくれた門番の人たちに迷惑はかけられない。


 僕とデリアはロスハイムの外に出てから、ロスハイムの中にいる見送ってくれた人たちに頭を下げた。


 ロスハイムの中にいる人たちも僕たちに頭を下げてくれた。


 そして、静かに音をたてず、通用口の扉は閉められた。


 ◇◇◇


 月明かりの全くない晩だった。


 この方が僕たちには都合がいい。


 八年前の僕だったら、危なくてこの道は歩けなかっただろう。


 でも、今は違う。僕もデリアも夜目が利く。これくらいの暗闇は何ともない。


 ロスハイムがギリギリ見えるところで、僕とデリアはどちらかが言うともなく、後ろを振り返り、頭を下げた。


 ありがとうロスハイム。

 

 さようならロスハイム。


 ◇◇◇


 今夜は暗闇だし、ちょっと目端の利く野盗には僕たちの戦闘力が分かるのだろう。襲撃は全くない。


 デリアが口を開いた。

「クルト君。これからどこに行きましょうか? 何をしましょうか?」


 僕は小さく頷いた。

「やってみたいことがあるんだ。そのためにどこに行こうか迷っているんだよ」


 デリアは笑顔になった。

「クルト君のやってみたいことを聞かせて下さい。私には行ってみたいところがあるんです。そうだっ! じっくりこれからのことをお話しませんか? あの思い出の廃屋で」


 僕はもう一度頷いた。

「そうだね」




 最終章 ENDE


 ロスハイムストーリー ENDE

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ロスハイムストーリー 水渕成分 @seibun-minafuchi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ