第36話 最後の審判 


 知らない男の声がした。


次の瞬間、真っ暗闇になった。


わたし、どうしたんだろう?


後ろから、誰かに突然、腕をつかみ引っ張られる。


「えっ!?なになになに?」


「我らが父の御前みまえだ」


ムキムキの天使に広場みたいなところに引っ張り出された。


そこは、真っ白な雲が立ち込めているような場所だ。


頭上に誰かいる。


それが、神様だと不思議とわかってしまった。


でも、顔は、白い雲にはばまれて、見ることはできない。


アスタロト様がおっしゃっていたに、連れてこられてしまったのだ。


あんな、唐突にアスタロト様との今生こんじょうの別れ方をしてしまった……。


「おまえ、変わってんな!」


このひとだ!


さっきの声の主は、わたしを引っ張ってきた人物だ。


おそらくは、天使?


「よしなさい」


「けれど、われらが父よ」


「いいのです。マリー、顔を上げてごらん」


わたしはありったけの自分の中の不良成分を総動員して、とやらを睨みつけてやった。


眩しっ!


顔よくみえないし。


「そう、面白い顔をっするな、アスタロトがみたら、千年の恋も冷めるぞ」


はっ!


睨んだ効果がなかった!


そのうえ、ブサイクだったってこと?


「そうそう、にこやかに。いつものように」


「いつもって?」


「アスタロトのところにいたときに始終しまりのない顔、いや、ニコニコしていたろ?」


「楽しかったからです!!」


元気いっぱい、この場にそぐわない回答をしていく。


神様に嫌われなくちゃ。


アスタロト様のところへ一刻も早く戻してもらえるように、悪魔適正アピールをしていく。


「楽しい!!バカか!お前!!」


アンタじゃない!!


神様に言ってんの!


「コレコレやめなさい。いいのです。そうか楽しいか?」


「はい。毎日毎日、楽しかったです」


どうよ。


呆れたでしょう?


「ほう?どんなところがだ?」


「美味しご飯を三食食べれて」


しっしまった!


つい本音が。


「馬鹿ッか!?」


この天使は、口が悪すぎる。


感情が直結してしまっているせいか、我知らず睨みつけていた。


「いいでしょ!別に!あなたもわたしの立場になってみればわかるわよ!」


「どういうことだよ」


「メニューはいつもゴブリンシェフが、わたしに何が食べたいかをまず聞いてくれるの」


「そうか、そうか」


意外と、神様、物分かりいいじゃないですか。


わたしは、なんだかすっかり気をよくした。


「それで、大好きなパスタをお願いし続けたの」


「お願い?」


あらっ!?


天使も興味ある?


意外と食いしん坊さんね。


「そう、五食つづけてパスタにしてくれたの!!」


「五食?続けてって……」


どうどう?


天使よ、羨ましいでしょ、わたしのこと?


いいわょ。


うちのゴブリンシェフの腕を思う存分、自慢してあげるわ!


「あら?簡単よ。初日の三食と二日目の昼までの計五食よ!メニューはね……」


「朝から、パスタはちと、こたえるなぁ」


「あら!?神様、意外と平気ですよ。うちのゴブリンシェフは、腕がいいから。レパートリー無限大です!!」


「そうかそうか、食べ物だけか?楽しかったのは?」


「いいえ!どこみてたんですか?神様は!ええっ!?神様、そんなわけないでしょう!?」


「ああ、すまんね」


「あやまることないっす!この女がイカレテルんです」


「なによ!」


「あまえ、ほんっと生意気だな」


「人間のくせにっていったら、差別ですよ~」


「馬鹿かっ!」


「ふたりとも、よしなさい。マリー、他にはなにかあったか教えてくれんか?」


「悪魔の力の鍛錬も楽しかったです」


どうどうどうよ~。


こう聞けば、神様だって、おお~と思われるでしょう~。


ホントのことだし。


「マリーよ」


「はい」


「いくらなんでも、神様の前で嘘はいかんよ」


「嘘じゃありません!」


「そうか?」


「はい、神に誓って!!」


「一応、この場は、『最後の審判』なんだが、大丈夫か?」


「はい、神に誓って!!大丈夫です。あれは、それはそれは……」


「それはそれは?」


でした!!」


「だから、馬鹿かっ!おまえは!!が何であれ、楽しいわけあるか!」


「何よ、いいでしょ別に、わたしの主観よ。天使あなたに指図される、いわれはないわよ」


「なんだと!」


「あなただって、大概たいがいよ?」


「何がだ!?」


「そんなイカツイ、ムキムキなのに天使の羽つけてって?」


「なんだよ!」


「アンバランス!」


「いいだろよ~、天使なんだから!」


あっ!赤くなってる!


「あらあらあら~?恥ずかしいの?もしかして?」


「まぁまぁよしなさい、ふたりとも」


「だって!!」


「鍛錬は、楽しかったか?」


「はい。人間の時にはできなかったことが、いろいろできるようになって楽しかったんです」


「例えば?」


「種を見ただけで、何色のどんな花の種かわかるの。すごいでしょう?」


「何の役にたつんだそれが!?」


「あら!?天使様にはわからないの?」


「何がだ?」


「花壇をデザインするときに役にたつわ」


「くだらなっ!」


「植物の相互作用がわかるようになったわ。そうすると農薬を使わなくても害虫を寄せ付けない組み合わせもわかるわ。例えば、バラのそばにニンニクを植えると、バラに虫がつきづらいとか。いい種もみかの判断もつくわ」


どうよ!


見たか!


天使め、悪魔の力の凄さを!!!


「……」


ぐぅの根も出ないか?


ダメ押しでもっと見せつけましょう!


悪魔の力を!!


「ズームができるから、遠くの人や天候を読みやすい。それから……」


「もういいよ、マリー」


「神様?」


「アスタロトは、悪魔だ。お前がさっき言っていたように、もとは天使だった」


「知ってます。本で、アスタロト様の蔵書で読みました」


「悪魔になった経緯いきさつは、詳しくは話さんが、簡単にえば、だ」


「意見の相違?」


「あちらにはあちらの、こちらにはこちらの意見がある。それを人間たちが、いろいろとわかりやすいよう、受け入れやすいように曲解きょっかいした末に相容あいいれない存在として描いたのだ。光があれば、闇がある。神と悪魔は、表裏一体。だが、似ているようで違うものだ。わかるかな?」


「なっ、なんとなく」


「小難しいことは、まぁよい。さて、マリー。お前は、これからどうしたい?」


、アスタロト様のお嫁さんになたいです!」


「ほほう」


「おまえ~」


「イイじゃない。なんでダメ?」


「だから、頭がおかしいのか!?」


「そうよ。ええ、そうかもしれないわ!夫の王太子に騙されて、殺され続けたの。あの手この手で、信じていた人たちに」


「……すまん」


なっなによ急に、素直じゃない。


「悪魔だけど、が、わたしを助けてくれた」


「それはそれは、いいことじゃないか」


「悪魔なんだぞ、相手は!ワケがあるに決まっている!」


「いいの!理由なんかわたしには関係ない!助けてくれた。心配してくれた。不安な時、怖かった時そばで、楽しい時間にかえてくれた。死ぬとき、そばにいてくれた。それだけでわたしは安心できた。また、会いたいとおもえたの!!」


「もういいよ、マリー。辛かったな。よくがんばってきたな、偉かったな」


「ううん。神様、わかってくれたんですね?じゃぁ、わたしを悪魔にして、アスタロト様の花嫁にしてください!!」


「わかった、マリーよ。最後の審判だ」



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