第29話 アスタロトの告白


 エリスとオイジュスをつつんでいるのは、ふつうの炎ではない。


黒い炎は、空たかく火柱を上げている。


オイジュス王太子とエリス王女の姉弟きょうだいは、アスタロト様によって、人体発火をし、すぐに燃え尽き、灰になった。


けれど、黒い炎は燃えさかりつづけている。


消える様子は感じられない。


「これが『地獄の業火』だ。我の怒りの感情に呼応こおうしているのだ」


それって、それほどの怒りを感じているということ?


どうしてですか、アスタロト様!?


声が届かないことがこんなにも、もどかしいと思ったことはなかった!


「マリー、お前の姿は目には見えない。かすかに、居場所が感じられる程度だ」


わたしには、これまで同様に、アスタロト様の姿はっきり見えている。


だから、アスタロト様の言葉を聞いたヤギハシさんが、痛ましげな表情を浮かべているのも見えている。


わたしのことが見えなくても、アスタロト様には、わたしの存在がわかるのなら、わたしは、嬉しい。


「マリーは、霊魂だけの存在になっのだ」


霊魂?


それは、やっぱり幽霊ということかしら?


幽霊なら、ずっとアスタロト様のそばにいられる!


地縛霊って聞いたことあるし。


アスタロト様は悪魔だから、幽霊に取りつかれても大丈夫でしょうから。


アスタロト様から見えなくても、感じられなくても、わたしは全然かまわない!


そばにいられるなら。


「テレパシーもつうじない。すまない。結局、死なせてしまった。守ってやりたかったのに、そう、約束をしたのに……」


えっ?


約束って?


なんのこと?


アスタロト様のそばに行こうとしたが、何かにはばまれた。


透明な壁が立ちはだかっている。


「もうすぐ、天より迎えの使者がくる。マリーなら、多少、悪魔とかかわったとしても、神も問題視しないだろう。お前ならきっと……」


天からの使者って、まさか……!?


天に召されるということですか!?


それは、ダメです!!


アスタロト様のそばにいられなくなってしまう!!


「マリーお前は、素晴らしい人間だ。利他的な優しい性格も好ましく思っていた。辛いときでも、ユーモアで乗り切る強さ、……いや、楽天的なその性格も愛おしかった。たまに、心配になるくらいノホホンとしているところはあったが、人間にここまで、つよく惹かれることはなかった。だから……生まれて初めて不安になった。マリーは、悪魔になって後悔しないのか?悪魔になることが、マリー、君の幸せになるのか?悪魔が不安になるようでは、世も末だ。でも、どうしようもなかった。わたしは、マリー・へスぺリデスを愛しているのだから」



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