第27話 マリーの異変
いつの間にか、わたしはアスタロト様のそばに立っていた。
わたしは、血だらけのむごたらしい
顔面に肌色は見えない。
激しい血しぶきに真っ赤に染まっている。
そこにピンクの細かい粒々がついている。
その粒は、乳房の肉片だった。
それが顔に点々と付着しているのだ。
わたしの体をたすけ起こそうと躍起になっているアスタロト様をただ瞳に写していた。
……一体、なにが起こったの?
アスタロト様のことばには、正直いって驚いた。
『悪魔に転身させていなかった』
わたしは、悪魔になっていると信じて疑っていなかった。
悪魔初心者といえども、その能力の一端を使えるようになっていたから。
悪魔になっていると疑いすらしなかった。
どうしてわたしを悪魔にしてくださらなかったのか?
わたしの心は、暗闇に支配されていた。
なにも、考えられない。
「マリー目を覚ませ!戻ってきてくれ!!」
アスタロト様は、懸命にわたしの体の傷に『治癒の力』を使われている。
でも、わたしはこの場で生き返れると、思えなかった。
アスタロト様の青ざめた美貌と、いつになく余裕のない必死さに、わたしは嫌な予感を感じた。
メッタ刺しにされた傷は、みるみる治癒してゆく。
このままいけば蘇生できる!?
たが、傷はいえても、わたしの蘇生は果たせなかった。
「アスタロト様!マリー様!」
ヤギハシさんが駆けつけてきた。
ーヤギハシさん!わたし、ここにいるわ!!ー
わたしの横を走り抜けていくヤギハシさん。
テレパシーもとどいていない?
「これはいったい!?」
「オイジュスに隙をつかれた。……ヤツに騙されたのだ!我がついていながら……いまは、治療が先決だ」
「アスタロト様……傷はもう見て取れませんが……なんだかマリー様のご様子が、生気が感じられませんが、まさか……」
ーえっ?もしかして、ダメなのわたし……ー
でも、それなら、また、タイムリープすればいいじゃない!
一筋の光明にすがろうとしたその矢先に、
アスタロト様の黒い髪がサラサラとかすかに揺れた。
「えっ!?どうしてですか?」
「今までの
わたしは、タイムリープできるのだからと高を
わたしのあまい計画は、ガラガラと音を立てて崩れていく。
「人間の肉体や精神に限界があるのに魂にだけ限界がないと考えること自体おかしいのだ。遺産殺人によって、ありとあらゆる方法で殺され続けて、そのたびに
「アスタロト様、それはどうゆうことですか!?はっきり仰ってください!!」
ヤギハシさんの軽妙さは影を潜めていた。
アスタロト様の傍らにひざまづき、肩口をつよくつかんでいる。
いつになく、真剣な激しい問いにアスタロト様はうつむいたままだ。
「マリーは、もうタイムリープできない。生き返ることはない……」
衝撃の事実に、ヤギハシさんだけでなく、わたし自身も驚き、声も出ない。
タイムリープができない!?
「タイムリープは、魂自体をすり減らす行為なのだ。それを、いくども繰り返せば、魂は摩耗しつくし、いずれは……魂は、消滅する」
「そっ、そんな!?……」
あのヤギハシさんが、
わたし、生き返れないの?
……わたしの魂が、消滅する?
それって、わたしが死んだってこと。
わたしは、アスタロト様のそばにいるのに。
こうして立っているのよ!?
意識だって、ちゃんとあるのに!?
どうして!?
わたしは、幽霊になってしまったの?
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