第24話 王太子との戦い その1


 許せない。


お金のためだけに、なんの罪もないお父様たちを投獄するなんて。


お母様や妹たちにとって、さぞやショックだろう。


ー我に愚弟ぐていがいる。ヤツに手をまわしてもらう。家族のことは心配するなー


ー弟?弟君おとうとぎみがいらっしゃるんですか?ー


ーああ、だから、心配するな。オイジュス王太子ヤツのペースにるな。落ち着くんだー


アスタロト様の力強い励ましに、わたしは、落ち着きを取り戻した。


オイジュスは、まともな人間ではない。


奴の言うことにイチイチ真に受けてはいけない。


フーっと大きく息を吐いた。


ちらりとアスタロト様を見上げた。


目があい、もう大丈夫ですとアイコンタクトで伝えた。


「オイジュス、そんなにわたしを殺したいの?」


「当たり前だろう!」


「なら、あなたにチャンスをあげるわ」


「チャンス?」


「そう。しかも、正々堂々と胸を張って、あなたの大事な大事な宗主国に、あなたの株が上がるようなステキな報告になるわよ」


「なんだよ、それは!?」


と決闘するのよ」


「決闘だと!?」


ー正気か?マリーー


アスタロト様の肩におかれた手に力がこもった。


わたしは、その手にそっと手を重ねた。


わたしは、至って冷静で、大丈夫だと伝えたかった。


ーわかったー


アスタロト様には、テレパシーがなくてもちゃんと伝わっている。


「ええ、そうよ。は、人間のころよりなんでも出来るようになったわ」


「へぇー、でも、女と決闘したとあっては王太子の名がすたる」


オイジュスにすたるほどの名があっただろうか?いや、ない。


わたしとアスタロト様とヤギハシは、思わず顔を見合わせてしまった。


王太子あいつ意外とユーモラスな男ですね、アスタロト様ー


ー口が過ぎるぞ、ヤギハシー


ーアスタロト様、ヤギハシさんの言う通りですー


ヤギハシさんは、ほらねっという顔をしていた。


けれど、オイジュスの一言ひとことで、あいつの功名心こうみょうしんを刺激するこの作戦は、成功すると確信をえられた。


「あら、いいの?こんな絶好の機会をみすみす見逃しても?」


と勝負なんかできるわけないだろう?」


「だから、じゃないのわたしは、なの。悪魔を退治したとあれば、宗主国のお偉方の覚えがよくなるんじゃないのかしら?しかも、わたしを殺す口実にもなるし、一石二鳥の絶好のチャンスよ」


ーわかりやすすぎないか?マリー。我なら引っ掛からんぞー


ー大丈夫ですわ。オイジュスは、アスタロト様のように思考力のあるタイプではありませんー


「ふぅーん。なにかかくしてないか?」


ーマリー様の言う通りですね。ちょっと興味持ってますよー


ヤギハシさんのブラックな思念が伝わってきた。


かくすって?」


「悪魔の凄い必殺技を使えるとか?」


「そんなわけないでしょう?悪魔になってまだ、日が浅いのよ?そんな凄い技、使えるわけないじゃない」


ーマリーー 


ーマリー様ー


アスタロト様とヤギハシさんが、ハモった。


ー嘘は言ってませんよ。初歩の初歩だってヤギハシさん仰ってたじゃないですか?ー


ー『地獄の業火』は大技だろうー


ーああ~、アスタロト様、それなら心配には及びません。マリー様ができるのは、『地獄のともしびちょっとの風で消えてしまうよバージョン』ですからー


ーコック長からは、重宝ちょうほうがられましたわよ。かまどの火付けにちょうどいいって。マッチ代が浮くって評判よかったんですよー


だから、決してをついていない。


「正式な決闘だと馬上で槍を用いてとなるけど、ぼくは、優しいから、特別にハンディをあげるよ」


「へぇーありがとう。どんなハンディ?」


ーマリー様、棒読みですよー


「一対一の剣をもちいた決闘なんてどう?」


ーここまでくるとある意味スゴイ、見下げた男だなー


アスタロト様はあきれ顔だった。


「わかったわ」


ー勝算はあるのか?ー


「元ぼくの新妻なんだ。それくらいのハンディは当然さぁ。馬上で戦うより、簡単だろ?でも、殺されても文句はいうよなよ」


あまりのオイジュスの物言いに、わたしたち三人はあきれかえっていた。


「わかっているわ」


ーマリー様、士気が下がってますよ~ー


ーヤギハシ!お前も緊張感を持て!マリーは、ひとりでヤツと闘うんだぞー


ーはぁ~。心配しすぎですよアスタロト様。相手は、オイジュスですよ。緊張感をもてって方がムリですよ。それに、いざとなったらー


いざとなったら?


なに?


「ああ、エリスも来ればよかったのに。エリスお姉さまは、お前が大嫌いなんだ。だから、君がぼくに無様に負けて死ぬところを見たら、喜ぶよきっと!!」


「あら、知ってるわ、そんなこと」


「!?」


「頭がよくて、お金に不自由しないわたしのことが、エリスは、大嫌いなんでしょう?」


「へぇー。君は知ってて、エリスお姉さまの神経を逆なでしてたのかい?ずいぶん性格が悪いんだねマリー。エリスお姉さまが言ってたとおりだ!」


ーアイツ、我がヤルー


ーだめですよ、アスタロト様。もぉ、マリー様のことになるとすぐこれだー


ーどういうことですか?ー


ーうるさい!ヤギハシ!ー


「じゃぁ、早速さっそくだけど、気が変わらないうちに始めようか」


わたしとオイジュスは、決闘の場にのぞんだ。


ーあせるな、マリー。わたしのアドバイスどおりに動けるか?ー


ーはい、アスタロト様ー


そうだ。


わたしには、アスタロト様がついている。


アスタロト様に任せれば、大丈夫だ。


剣を、胸の前で構える。


お互いの剣を交差させ、太刀たちをあわせる。


もう一度、胸の前で構えて、開始の合図を待った。


教会の鐘の音が、鳴り響く。


決闘の開始の合図だ!


ー視覚に集中しろ、そうすれば、太刀筋たちすじはたやすく見抜ける。剣を下から上に大きく払うように動かすんだー


アスタロト様の言うとおりだった。


オイジュスの動きは、まるでスローモーションのようによく見えた。


おお、これがアスタロト様が、よく仰っていた悪魔のの真の使い方!!


そしてわたしの体は、自然にアスタロト様の言葉通りに動いた。


オイジュスの剣を簡単にすくいあげた。


オイジュスの剣は、その手を離れちゅうを舞った。


気が付くと、わたしはオイジュスを見おろしていた。


剣をオイジュスの喉に突きたてんばかりに構えていた。


ーそう、それでいい、マリー。だが、油断するなー


「たすけてくれ、マリー。後生ごしょうだよ」


「へスぺリデス家のみんなをよくも」


わたしは、剣を構えなおし、切っ先がきらめいた。


「マリー落ち着け、みんな無事なんだから!投獄されているだけなんだよ!!」


「危害は加えていないのね!」


「もちろんさぁ、落ち着けよ。当主のお父様がいなければ、へスぺリデス家の全財産のありかや隠し場所もわからなくなっちゃうだろう?」


「ああそう。お金のためなのね。」


やっぱり、殺す!


「まてまてまてよ~、大丈夫だって、無事さぁ~。そんなに怒るなよ。悪魔の君に勝てるわけないさ」


ーへスぺリデス家当主は、たやすく屈したりしないだろう。上手く立ち回っているはずだ。弟にもう向かわせているー


アスタロト様の言葉には一理ある。


ならば、次の要求だわ。


「騎士たちに武装解除を命令して」


「えっ!?」


「さぁ早く!それからあなたを宗主国との人質としてー」


「それはどうかな?」


聞き覚えのある声、いつかの殺し屋だ!!


取り囲む兵士たちの間から、わたし目掛けて剣が投げ込まれた。


刺されたと思った瞬間、わたしはアスタロト様のかたわらにいた。


「卑怯だぞ!悪魔の力を使うなんて」


「言ってて恥ずかしくないか、お前!?」


「マリー大丈夫か?」


「はい、大丈夫です」


「くっそうこうなったら、お前たちに数の恐ろしさを教えてやる!!」


「大体、悪役はああいうこと言いがちなんすよね~」


「ヤギハシ、茶化すな」


「いつぞやのやられ役ヴィランビジネスのバイトのとき、あのセリフのまんま言いましたもん」


「ああ、あの時か?ヤギハシ、棒読み過ぎてイマイチ不評だったぞ」


「ええっ!?それは、失礼いたしました、以後気をつけます」


「うるさい!うるさい!うるさいぞ!!お前ら、ええい、かかれー」


オイジュスの掛け声は、やっぱり緊張感に欠けて、しまりがなかった。


「でも受け立つわ、卑怯者!!」


わたしの言葉にオイジュスは、顔を真っ赤にっして怒っていた。



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