金
劇烈な三面記事を、写真版にして引き伸ばしたような小説を、のべつに五、六冊読んだら、まったく
空谷子は小さな
「金は魔物だね」
空谷子の警句としてははなはだ陳腐だと思ったから、そうさね、と言ったぎり相手にならずにいた。空谷子は火鉢の灰の中に大きな丸を
「これがなんにでも変化する。
「下らんな。知れきってるじゃないか」
「いや、知れきっていない。この丸がね」とまた大きな丸を描いた。
「この丸が善人にもなれば悪人にもなる。極楽へも行く、地獄へも行く。あまり融通が
「どうして」
「どうしても
「そうして、どうするんだ」
「どうするって。赤い金は赤い区域内だけで通用するようにする。白い金は白い区域内だけで使うことにする。もし領分外へ出ると、
もし空谷子が初対面の人で、初対面の
「金はある部分から見ると、労力の記号だろう。ところがその労力が決して同種類のものじゃないから、同じ金で代表さして、
自分は色分け説に賛成した。それからしばらくして、空谷子に尋ねてみた。
「器械的の労力で道徳的の労力を買収するのも悪かろうが、買収されるほうも好かあないんだろう」
「そうさな。今のような善知善能の金を見ると、神も人間に降参するんだから仕方がないかな。現代の神は野蛮だからな」
自分は空谷子と、こんな金にならない話をして帰った。
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