第六夜
運慶が護国寺の山門で
山門の前五、六間のところには、大きな赤松があって、その幹が斜めに山門の
ところが見ているものは、みんな自分と同じく、明治の人間である。そのうちでも車夫がいちばん多い。
「大きなもんだなあ」と言っている。
「人間を
そうかと思うと、「へえ仁王だね。今でも仁王を彫るのかね。へえそうかね。
「どうも強そうですね。なんだってえますぜ。昔から
運慶は見物人の評判には委細
運慶は頭に小さい
しかし運慶のほうでは不思議とも
「さすがは運慶だな。眼中に我々なしだ。天下の英雄はただ仁王と我とあるのみという態度だ。
自分はこの言葉を
「あの鑿と槌の使い方を見たまえ、大自在の妙境に達している」と言った。
運慶は今太い
「よくああ無造作に鑿を使って、思うような
「なに、あれは眉や鼻を鑿で作るんじゃない。あのとおりの眉や鼻が木の中に埋まっているのを、鑿と槌の力で掘り出すまでだ。まるで土の中から石を掘り出すようなものだから決して間違うはずはない」と言った。
自分はこの時はじめて彫刻とはそんなものかと思いだした。はたしてそうなら誰にでもできることだとおもいだした。それで急に自分も仁王が彫ってみたくなったから見物をやめてさっそく
道具箱から鑿と
自分はいちばん大きいのを選んで、勢いよく彫りはじめてみたが、不幸にして、仁王は見当たらなかった。その次のにも運悪く掘り当てることができなかった。三番目のにも仁王はいなかった。自分は積んである薪を片っ端から彫ってみたが、どれもこれも仁王を
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