第2話

 きょうの朝、私は7時25分に家を出ると、いつも通り高校へ通学するために駅へ向かいました。はい、朝の話です。この話はそこから説明しないと分かってはもらえないので。駅は、そうです。箕山口みのやまぐち駅です。最寄もより駅ですから。初詣はつもうでで有名な石泉いしずみ神社に近い駅ですが、私は毎日、行きも帰りもその駅を使っています。


 それで、いつものように改札を抜けてホームに入って、電車の4両目がまるしるしのところまで行きました。4両目です。そこが電車を降りる駒坂こまさか駅の改札に一番近くなるからです。いえ、まだ電車は来ていません。箕山口駅のホームに辿り着いて、そこで見つけたんです。ベンチにあの人が、ヘビオが座っていたんです。


 その男の人はヘビオって、私が勝手に名づけて心の中で呼んでいました。だってヘビみたいに顔色が悪くてのっぺりしているし、髪もずっと濡れているようにベタッとしているし、スーツも黒くて陰気な感じがしていたので。それにいつも雨の日にだけ見かけるので、気持ち悪い人だなと思っていました。


 いいえ、全然知らない人です。雨の日に見かけるのも、私が晴れやくもりの日よりも一本早い電車に乗ろうと駅に着くからです。ヘビオはホームでいつも私と同じ4両目のドアが開く位置にいて、壁際かべぎわのベンチに座っています。それで私が乗る電車よりも先に到着するのに乗って行きます。だから私がホームに着くと入れ替わるように席を立ち去ります。その時の立ち上がりかたも不気味ぶきみで、こう、首を伸ばして口を突き出すようにしてから腰を上げます。だから印象に残っているんです。


 きょうの朝もそうしてヘビオはベンチから立ち上がったのですが、その時私は、彼の足下に何か落ちたことに気づきました。初めはハンカチかパスケースかと思ったのですが、よく見たら黒い二つ折りの財布でした。それもヘビの皮……いえ、ワニ革みたいにひび割れた格子こうし模様もようが入った物でした。


 私はベンチの前でその財布を拾いました。雨で湿っているせいか、手に貼り付くみたいにベタベタとしていたのを覚えています。拾わなきゃ良かったと思いましたが、考えるより先に体が動いていました。でもその時にはもうヘビオの乗った電車はドアを閉めて発車していました。


 だから私は、その財布を自分のかばんの中にしまいました。

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