蛇神の死返し ―少女魔が差す―

三浦晴海

第1話

 今さら何があったかなんて、話す必要ありますか?


 だって、もうみんな知っていますよね? あれだけ多くの人に見られたんだから。違うなんて言えるはずもありません。言い訳なんてできません。だから私は、逮捕されてここへ連れてこられたんです。


 逮捕じゃなくて保護だって……同じことです。女子高校生だって関係ありませんよね、犯罪者なんですから。いいえ、あの人のことは何も知りません。名前も知りませんでした。だからあんなことになったんです。知り合いだったら私は……いえ、なんでもないです。もういいです。


 内緒ないしょにしていることって……言っていないことは、あります。でもそれは隠しているわけではありません。どうせ信じてもらえないから話していないだけです。ねているんじゃないです。意味ないですから、こんなこと話したって……。


 裁判のことは、はい、少しは分かります。状況を説明して、罪を認めて、刑の重さとかを決めるんですよね。いえ、私の事情を聞いても何も変わりません。嘘だって言われるだけです。嘘をついたらもっと立場が悪くなるんじゃないですか? じゃあ言わないほうがましです。どうせ、私はもう終わりですから。


 だから全部、そちらが知っている通りです。理由なんてありません。魔が差したんです。魔が差したから、やってしまったんです。本当です。他に何もありません。嫌です。言いたくありません。違います。誰もかばっていません。


 そうじゃなくて、怖いんです。話したら、また何かが起きてしまいそうに思えて。違う。警察署だから安全とか、そんなの関係ない。誰かが襲ってくるとかじゃない。


 私が誰かを殺してしまうんです。


 ごめんなさい。はい、大丈夫です。いえ、お水はいりません。でも、とにかくそういうことなんです。いいえ、分かってもらわなくていいです。精神鑑定……ああ、そうですね。受けさせたいなら、そうしてください。


 でも、言っておきますけど、私は正気しょうきですから。正気だから何が起きたかはっきり分かるんです。あれは私のせいじゃないって。信じてもらえるはずもないですが、私がやったことは、私がやったわけじゃないんです。


 そうですか……そこまで聞きたいなら、話します。私が何をして、何が起きたのか全部説明します。


 だけど、約束してください。私の話を疑わないと。これからの話は全て本当のことです。嘘でもなければ心の問題でもありません。みんな私がきょう体験したことです。この身に起きた出来事です。どうか信じてください。


 そして、私を助けてください。


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