第10話 バロール襲来

 天井からちりが筋を引いて落ちてくる。駆け込んできた兵士にニクスが声を飛ばした。


「何事か!」


「バロールが現れました!」


「何だと。魔眼の巨獣バロールがついに現れたか! 城門は!」


「城門は既に破られました。バロールはこの王都に侵入してきております」


 剣を握って立ち上がったドレイクが兵士に尋ねた。


「数は」


「バロールは一体、他にも酔いどれドワーフと激悪エルフが数十体、王都内に侵入したもようです!」


 ドレイクはアウドムラ国王に一礼する。


「陛下、ご無礼をお許しください。私は戦士です。民のために戦わせてください!」


 アウドムラ国王は強く頷いた。


「良かろう。行くがよい、アルラウネの勇敢な戦士よ。きっと神の御加護ごかごがあるであろう」


 再度一礼して立ち去ろうとしたドレイクは、動こうとしないニクスに声を掛けた。


「ニクス、何をしているのだ。バロールは私一人では倒せない。君の協力が必要だ。君と二人でなければ、あの巨獣は倒せないぞ!」


 ニクスは顔をらした。


「アルラウネの者となど共に戦えはせぬ! 行きたければ、おまえ一人で行くがいい!」


「君が行かなければ、兵士たちの士気も上がらないぞ! それに、バロールを放っておいていいのか! 多くの民が死んでしまうぞ。君は誇り高きアウドムラの戦士だろ。民を守りたくはないのか! 行こう、共に戦おう!」


「……くう……敵国の奴と……」


「ニクス!」


「うおおおお!」


 掛け声と共に、階段の上からアウドムラ国王が降りてきた。彼はマントを振り外すと、皺枯しわがれた腕で剣を抜き、叫んだ。


「ワシも戦うぞ! 若い衆よ、余について参れ! イチ、ニッ、サンッ、ダアァァア!」


 金の兜を被った、タンクトップ一枚のアウドムラ国王は、ヨタヨタと走りながら外へと出ていった。


 ドレイクがニクスに怒鳴る。


「ニクス! 君はその筋肉を何のためにきたえてきたんだ! 筋肉は会議室で使うんじゃない、現場で使うためにあるんだ! ニクス!」


 ドレイクの言葉に、ニクスは一瞬だけハッとした表情を見せた後、ドレイクの目を見て頷いた。


「分かった。私が間違えていた。この筋肉は民のためだ。その為に何度も恥ずかしいコンクールに出場してきたのだ。よし、行こう、ドレイク。バロールを倒そう! 君の力を貸してくれ! 共に戦おう!」


 ドレイクとニクスは視線を合わせて強く頷き合うと、共に剣を抜き、猛然として外へと駆けていった。


 それを見ていたヨードがニヤリと片笑んでからフードを払い、麻の服をはぎ取るように破り捨てた。


 ふんどし一枚の姿となった彼は、鋼鉄製のボディーに内臓された様々な武器を四方に飛び出させた。右腕から飛び出したチェーンソーの刃を回しながら、彼は再び片笑んだ。


「ようやく本当の姿で戦う時が来たようだ。ふふふ」


 脇腹から出た銃身から火花を吹きながら、彼も外へと走っていった。


 王の間では、残った兵士が独り茫然ぼうぜんとしていた。


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