第9話 拝謁

 ドレイクとヨードはアウドムラ国王への謁見えっけんへと通された。広い吹き抜けの部屋の先の階段の上の玉座に老人が座っている。その老人は赤いマントを掛け、黄金の兜を被っていた。下は白いタンクトップ一枚に短パンだ。随分とおおらかに見えた。


 ドレイクとヨードは密かに視線を合わせて笑いをこらえながら片ひざをついて頭を垂れた。


 アウドムラ国王は言った。


「勇敢な戦士よ。おもてを上げよ」


 ドレイクは顔を上げた。国王は続ける。


「戦士よ、名を何と申す」


「デュラハン・アルコン・ドレイクと申します。拝謁はいえつたまわり光栄にございます」


「そうか。で、どこから来た」


 一瞬考えたドレイクであったが、意を決した彼は真実を述べた。


「アルラウネ公国から参りました」


「なんだと! 敵国の人間か! 俺をだましたのか!」


 部屋の隅に立っていたニクスが腰の剣のつかを握った。


 国王が老人とは思えないほどの大きな声を発した。


「控えよ! の前であるぞ!」


 ニクスは頭を垂れると、柄から手を放した。


 アウドムラ国王は続ける。


「よく参った。アルラウネ公の遣使けんしとして来たのか」


御意ぎょい。我があるじより国王様への書状を預かって参りました」


 ドレイクに合図されて、ヨードが頭の上に封書を掲げた。封書にはアルラウネの紋章がかたどられたろうで封がしてある。歩み寄ってきたニクスがそれを受け取ると、階段を上り、アウドムラ国王にその封書を手渡した。国王は受け取った封書の封を切るよう指示する。ニクスが封を切り開封して、中の文書を引き出して開き、それを国王に手渡した。国王は玉座に肩ひじを突いたまま無言でその文書に目を通すと、読み終えた文書をニクスに戻した。


 ドレイクは言う。


「我があるじは、この戦争の終結を望んでおられます。我が国と貴国は互いに力を合わせて発展の道を進むべきだと申しておられます。我が国の農産物と工業技術、貴国の農産物と科学技術、これらを相互に交換し合えば、互いに発展していけるはずであると!」


 アウドムラ国王は少し間を空けてから答えた。


「であるか。どうやらアルラウネ公に先を越されてしまったのお」


「王様……」


 驚いた顔を上げたニクスにアウドムラ国王は言った。


「もうそろそろ潮時しおどきじゃろう。余もそう思っておった。互いに剣をさやに戻す時が来たようじゃな」


「そんな。失礼ながら、我が王よ、それでは、我々はいったい何のために、これまで戦ってきたというのですか」


「理由などない。それがいくさじゃ」


「納得いきませぬ! それでは、これまでに死んだ兵士たちの魂はどうなりますか!」


「浮かばれぬのう。じゃが、今いくさめなければ、彼らの魂は亡霊となって黄泉よみの国を彷徨さまようであろう。我がしもべ、ニクスよ。この国と余に命を捧げた多くの戦士たちの魂のためにも、剣を鞘に戻そうではないか」


「できませぬ! いくら王命でも、こればかりは……」


 その時、大きな地鳴りがして王宮全体がぐらりと揺れた。

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