第17話 書店で、俺は板挟みにあってるんだが…

 東浩乃あずま/ひろのは先ほど入店していた店屋を後に彼女と歩いていた。


 桐野由羽きりの/ゆうは楽しそうにしており、未だに浩乃の腕に抱き着いたまま。


 由羽と一緒にいると、やはり、他人からの視線が気になってしまう。


 美少女と一緒に居られるのがいい。

 けど、他人からの注目されるのは、少々嫌だったりする。


 そんな複雑な心境でありつつも、浩乃は彼女と一緒に居られる時間を幸せに感じていた。


「今度は、浩乃君が行きたい場所でもいいからね」


 隣にいる彼女はそう言ってきた。


「どこでも?」

「うん。私、浩乃君の事、もっと知りたいし」

「じゃあ、どこにしようかな……」


 浩乃は彼女に着いていくことばかりで、自分が行きたい場所のことについては、そこまで定めていなかった。


 浩乃は咄嗟に思いついた場所を指定しようとする。


 ここら辺であれば、近くにデパートがあり、その中に、本屋があったはずだ。

 そこに行こうと思う。


 浩乃は、その場所へ導くことにした。






「浩乃君って、本が好きなの?」


 デパートの書店内に二人は足を踏み込んでいた。


「まあ、そうだね」

「どんな本を読むの?」


 由羽は浩乃のことを知りたがっているようで、まじまじと聞いてくる。


「漫画とか、そういうのだよ」

「漫画……ジャンルとかは?」

「基本的に、なんでも読むけど、日常系とかが多いかな」


 浩乃はそう言っておいた。


「由羽さんは、どういうのが好き?」

「私はあまり漫画とかは読まない派だけど」

「そうなの? 意外だね」

「そう?」

「うん。漫画って、皆読むものだと思っていたから」


 漫画は簡単に読みやすい媒体である。

 ゆえに、誰もが一度は触れたことがあるものだと思っていた。


 全員が漫画を普段から読んでいるというわけではないらしい。


「でも、お勧めの作品があったから見てみたいかも」


 由羽は積極的だった。


 でも、彼女によさげな漫画といったらなんだろうと思う。


 お勧めしたい作品は色々あるが、自分が普段から読んでいる作品を見せた方がいいと思い。ひとまず、書店の漫画コーナーへと連れていくのだった。




「色々な漫画があるのね」

「そうだよ。これとかどうかな? 読みやすいと思うし」

「どんなの?」


 浩乃は一旦、抱き着かれていた腕から距離を取り、本棚の前にある一冊の漫画を手にした。


「これは……日常系の漫画?」


 浩乃は彼女に、その一冊の漫画を渡す。

 彼女は珍しそうな瞳で、まじまじと見ていたのだ。


「そうだよ。結構話のテンポがよくて、すらすら読めると思うよ」


 浩乃は的確に説明してあげた。

 最初から複雑に説明しても、複雑になるだけである。


「読みやすいかも」


 彼女はページを簡易的にめくり、すらすらと読んでいた。


「そうでしょ」

「うん、ありがと」


 由羽から笑顔を向けられたのだ。


「他には……」


 浩乃は他にいい作品はないかと、辺りの本棚を確認していた。


「ちょっと待ってて。別のエリアに行ってくるから」


 浩乃は本棚の前で立ち読みしている彼女に話し、少しの間だけ立ち去ることにした。


 別のエリアに向かい、辺りの本棚を見、そんな中、一冊の漫画を見つけたのである。


「これかな……」


 浩乃が、そこの本棚に手を伸ばした時、ふと誰かと手が重なったのだ。


 すいませんと言おうと、チラッと隣を確認すると、そこには見覚えのある女の子の姿があった。




「……朱莉⁉」

「浩乃先輩? どうして、ここに?」


 二人は意外なところで出会ってしまった。


 まさか、ここで後輩の多岐川朱莉たきがわ/あかりと遭遇することになるとは……。


 浩乃が色々と考え込んでいると由羽がやってくる。


 都合が悪い環境な上。朱莉と関わっているところを目撃されたらと思うと、猶更、脳内で頭を抱えたくなるものだ。




「え? どうして、あなたがここに?」


 ついには見つかってしまった。

 そういう運命なのだろうか。


「別にいいじゃないですか。私、漫画を見るの好きなので、普段から書店とかに立ち寄ったりしてるんです」


 朱莉は漫画好きなのである。


 後輩は、歩み寄ってきた由羽に対し、淡々と自分の意見を口にしていた。


「それで、浩乃先輩は楽しそうですね。桐野先輩とは、どうです?」

「……まあ、それなりには」


 由羽がいる前では、率直なセリフは吐けなかった。


「私も今日、浩乃先輩と一緒に遊びたかったのになぁ」


 後輩からそんなことを言われた。


 朱莉が誘惑してくる。


「今からでもいいので、一緒に行きませんか?」

「い、今から?」

「はい」


 朱莉は笑顔で返答してくる。


「でも、今から私と一緒に漫画を選んでくれるんでしょ?」

「まあ、そうだね」


 隣にやってきた由羽から問い詰められるように言われ、しぶしぶと頷くことになった。


「桐野先輩って、漫画とか詳しいんですか?」

「まあ、そこそこは」


 由羽は嘘をついていた。


「そうなんですか? じゃあ、なんの漫画が好きなんですか?」

「えっとね、この漫画よ」


 由羽は浩乃が先ほど渡したものを見せていた。


「では、その漫画のどこが好きなんですか?」

「それは……全部」

「全部? そんな言い方はずるいですね。もしや、知らないのでは?」


 後輩は鋭い話し方をする。


「知ってるわ」

「じゃあ、それについての質問なら、なんでも答えられますよね?」


 朱莉は今、優勢だった。


「じゃあ、あなたはできるの?」

「はい」


 朱莉は迷うことなくすんなりと答えていた。


 それからというもの、後輩は淡々と、由羽が手にしている漫画に登場するキャラクターについて話していたのだ。


 浩乃よりも意外と詳しかったりする。


「どうです?」

「そうね。す、凄いと思うわ」


 由羽は逆に引いていたのだ。


 なんでもかんでも知っている。

 その漫画に関しては、浩乃が好きな作品ではあるが、浩乃よりも朱莉の方が詳しい気がした。


「浩乃先輩も、その漫画好きですよね?」

「ああ。よく知ってるな」

「私、先輩の後をつけて、色々と知るようにしましたから」

「え……知るように……まさか、ストーカーか?」

「そうじゃないです。むしろ、好きだったら、そこまでするのが基本だと思いますから」


 朱莉はさらりととんでもない発言をしており。

 後輩は余裕を持った態度で、ウインクしていたのだ。




「桐野先輩は、そこまで知らないんですね」

「しょうがないじゃない。そこまで漫画に詳しいとか……そこまでの漫画マニアというわけでもないし。むしろ、漫画については簡単に会話できればいいだけだから」


 由羽は強がった感じに言う。


「桐野先輩って、にわかですね」

「しょうがないでしょ。むしろ、そこまで知っている方がやばいのよ」


 由羽は不満そうに言い返していた。


「でも、それじゃあ、浩乃先輩のことは理解できないと思いますけどね」


 後輩は悪戯っぽくニヤッとしていた。


「浩乃先輩は、にわかよりも、わかっている方が好きですよね?」


 後輩が右腕に抱き着いてくる。


「なに、デレっとしてんの?」

「そうじゃないけど」


 たじたじになってしまう。


 言い訳が難しいのである。


「浩乃先輩、一緒に行きましょうか」


 浩乃はそのまま受け入れざるを得なくなったのだ。


「では、場所を変えて漫画について語りましょ」


 浩乃は後輩から耳元で囁かれ、誘惑される羽目になったのである。

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幼なじみのことが好きではない俺が、学校一の美少女から告白されたら、ハーレムになった件 譲羽唯月 @UitukiSiranui

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