第16話 俺は、彼女と一緒に…

 東浩乃あずま/ひろのは店内にいる。


 辺りを見渡せば、スマホのカメラ機能を使い、テーブル上に並べられている商品を撮影している人らが多い。

 そんな印象である。


 大方、撮影したものは、SNSとかに使うのだろう。


 というか、そういうこともそうだが、桐野由羽きりの/ゆうの裏の顔を知る事。

 それも今重要なことであり、しかし、彼女の裏となる姿を露わにすることなんてなかったのだ。


 そもそも、あの女の子の嘘なんじゃないかと思う。


 そんな気がしてならなかったのだ。


「ねえ、浩乃君、ちょうど来たみたいだよ」


 同じテーブルに、向き合うように座っている彼女から問いかけられた。


 気が付けば、店内の女性スタッフがやってきていたのだ。

 そして、注文した品が、テーブル上に並べられる。


 チョコバナナ風なパフェが、浩乃と由羽の前に、それぞれ置かれた。


 それに加え、由羽のところには、ブルーベリー風味のケーキがセットになっていたのだ。


「では、ご注文は以上でしょうか?」


 女性スタッフは笑顔で対応してくれる。


「大丈夫です。ありがとうございます」


 由羽は優しい口調で返答していたのだ。


 そんな彼女の態度を見ると、さすがに裏の顔があるようには思えなかった。


 やはり、あれは嘘かもしれない。






 テーブル上に置かれたパフェやケーキは、写真映えしそうな見た目をしている。

 とにかく色合いに拘りがあるように思えた。


「ねえ、浩乃君は写真を撮る?」

「俺は、別にそういうのはする予定はなかったけど」

「でも、記念に、ね」

「じゃあ……まあ、一応、撮ろうかな」


 浩乃は彼女に流されるがまま、制服のポケットからスマホを取り出す。


 テーブルに置かれた自分のパフェを前に、一旦、スマホのカメラシャッターを押す。


 浩乃のスマホには、バナナチョコパフェが映し出された。


 でも、これを撮影してどうなるのかな……。


 保存しようかどうかで迷う。


 自分が好きなモノを撮影する。

 それはわかるのだが、浩乃は特にSNSを頻繁に活用する人ではなかった。


 だから、あまり、撮影したところでなのだ。


 そんな中。

 対面上の席に座っている彼女は楽し気に撮影していた。


 他人にそういったモノをSNSに投稿するのが目的なのだろう。


「ね、浩乃君、見てみてよ。結構、いい感じに撮れてるでしょ?」

「う、うん」


 由羽からスマホ画面に映し出された、パフェやケーキの写真を見せられる。

 が、単純な返答しかできなかった。


「浩乃君も撮れた感じ?」

「一応はね、でも、上手ではないけど」

「そう? でも、見せてよ」


 彼女から迫られる。


 浩乃はしぶしぶとスマホの一時保存の画面を見せることにした。


「ちゃんと撮れてるじゃん」

「そうかな」

「うん、最初にしては結構いいかも」


 由羽から評価されたのだ。


 内心、嬉しくなった。


 悪い気はしない。


 多分、SNSには投稿する予定はないけど、この写真は保存したままにしようと思った。




「じゃ、食べよ。少しお腹が減ってきたし」


 由羽は軽く笑顔を見せてくれた。


 そんな彼女の表情に、ドキッとする。


 やはり、彼女が悪いことを企んでいるとか、ありえない。


 しかしながら、そのことについては由羽には直接問いただすことはしなかった。


 余計な一言を口にして、関係性が悪くなるなら何も言わない方がいい。

 そう思ったからだ。


 二人は共に、テーブルに置かれた、パフェを食べる。


「浩乃君はどう? 私一人で注文していたブルーベリー風味のケーキ。食べる?」


 パフェを咀嚼していると、由羽がケーキの端っこをフォークで切り取り、それを浩乃に見せてきたのだ。


「いいの?」

「うん、やっぱ、一人で食べるのも、あまり好きじゃないし。同じ味を共有したいから」


 由羽のからの想いが、肌に伝わってくるようだった。


 浩乃はそれを受け入れるように頷き、由羽から直接食べさせてもらうことにしたのだ。


「美味しい?」

「うん」


 浩乃は迷うことなく頷いた。


 ブルーベリー風味のケーキとは、どんな感じかと思っていたが、じわじわと口内に広がっていく果実の味。

 咀嚼すればするほどに、味わい深くなっていくようだ。


 付き合っている人がいるからこそ、美味しいと感じるのだろうか?


 同じものを共有できていることに、幸せを身に染みて感じるようになった。






「美味しかったね」

「そうだね」


 浩乃も満たされた感じになり、気分良く頷く。


「そうだ。この店内に、撮影できるエリアがあるんでしょ?」

「うん」


 先ほど、女性スタッフから、そんな説明があったことを、浩乃は思い返す。


「そこに行ってみない? まだ時間はある?」

「一応はね」


 店内の窓から見える景色を見れば、まだ明るい時間帯であった。


 薄暗い時間帯ではなく、帰宅するのには少々早いと思ったのだ。


 二人は店内の撮影エリアへと向かう。


 現地に到着すると、数人ほど集まっていたのだ。




「撮影をご希望ですか?」

「はい」

「では、あともう少しで空きができますので。少々待ちくださいね」


 女性スタッフは、笑顔で対応してくれていた。


 撮影エリアには、しっかりとした機材がすべて用意されてあったのだ。


 カメラマンもしっかりと雇っているらしい。


「では、撮影終わりましたので」

「ありがとうございます」


 撮影してもらった派手な感じの女性は、カメラマンの人に、お礼を言うと立ち去っていた。


「では、次の方」


 呼び出される。


 順番的に、浩乃と由羽だった。


 二人は撮影エリアに靴を脱いで足を踏み入れる。


「では、どういう風に撮影致しますか?」


 カメラマン風の男性から問われる。


「どうする?」

「えっと、こういうの、俺、慣れていなくて」

「じゃあ、普通に撮ってもらう?」


 二人は、その場でやり取りしてしまう。

 こういうのは順番もあることから、事前に決めておけばよかったと思う。


 先ほどの派手めな女性は、SNS映えしそうなモノをもっての撮影だったのだ。


 であれば、自分らもSNSを意識した感じに撮影してもらった方がいいのだろうか?


「どうしようかな……」


 由羽は呟き、自分らの他に待っている人がいると考え、今回は普通な感じでと簡易的に、カメラマンの男性には話していた。


「では、普通の撮影でということでね。では、好きなポーズをとってもいいからね」


 男性のカメラマンから気さくな感じに言われ、一緒に撮影してもらうことになる。


 撮影は一瞬で終わったのだ。






「ありがとうございました。またのご来店お待ちしております」


 と、背後から女性スタッフの声が聞こえる。


 二人は料金を支払うと、店内から立ち去っていた。


「今からは何をする? もう少し付き合ってほしいんだけど」


 由羽からのアプローチがあった。


 浩乃は、制服の上から由羽の体の起伏を感じながら、彼女に腕を掴まれたまま、別の場所へと向かって行くことになったのだ。

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