第2話 人生のパートナー!

 ー ヴァニティーユニオン結婚式場 当日 ー


 「皆さま長らくお持たせしました。新郎新婦の登場です。

拍手でお迎えください」


とうとう始まった結婚式。司会は千乃さん。俺達とやり取りしてた人だ。

ケーキ入刀は本番だったものの無事だった。

最近はケーキを食べさせあうファーストバイトなんて儀式もあって驚いた。

・・・・まあ俺の知り合いはほとんどいなくてエキストラだけどさ。


あれよあれよと式が進む。予定では2時間30分だけど次々イベントが進む。

持っててよかった腕時計。そろそろ退場のタイミングか。


なんか思っていたのと違う。


 「なあ、ライスシャワーって米粒のはずだろ?なんか小袋に入ってるけど?」

 「掃除とか大変なのよ。見た目はいいけどね♪」


やけに詳しいな。そういえばラテが最近スマホ使っていたがこういう調べものか。


小袋を本気で投げつけてきた悪ガキはいたものの式自体は順調。

後は車で退場シーンだけだ。

ガラガラと大きな音を立てて走る車。


 「はーい!カットォ!お疲れさまでした!!!引き続きパーティ会場で!」


その声を合図に次々と場内に戻る観客たち。ほとんどが仕込みかよ!!


 「じゃ、私達も参りましょう。ああ、そのままで。入口まで動かしますから」


運転手さんも慣れているのか。ここのスタッフ練度高いな。



 ー ヴァニティーユニオン結婚式場 パーティの間 ー


パーティ会場っていうかお祭りの屋台に見える。

いや出店しているお店は超一流なんだけど、店のロゴマークの主張が激しい。

マグロの解体ショーをしてる結婚寿司。

チョコフォンデュが目を引く結婚製菓。

一流シェフが作る料理の数々。


そしてカメラは回っておりカンペの指示に従う。

ここで現れたのは司会の千乃さん。トレイから俺達にワイングラスを差し出す。


 「楽しんでもらえてますか?」

 「最高の結婚式です!」

 「そうですか。お2人に楽しんでいただけたなら何より」

 「あの、化粧室はどちらに?」

 「でしたらご案内いたします。詩絵夢様もこのタイミングで。

何せ宣伝すべき対象は多いものでして」

 「まあこの規模ですからね」


20以上はあるだろうか。結婚式よりも商品紹介の時間がはるかに長い。

うまいもん食べられるから文句は言えないが。


 ー お手洗い 入口 ー


 「随分長いですね。ラテ」

 「流石に失礼ですよ。詩絵夢様」

 「っと、すいません」

 「退屈しのぎにこんな話はどうです?営業の本質について」

 「千乃さんの仕事への有り方ですか?私も営業職ですから気になります」


 「そうですか。世の中には”いい商品”と”悪い商品”があります。

営業マンは悪い商品をよく見せるため奮闘をします。

売れなければ給料がもらえませんから」

 「いい商品を宣伝すればいいんじゃないですか?」

 「いい商品は何もしなくても売れますよね?だから広告打ってお終い。

ですが他の商品は違います。

他社より劣っている商品を売り込むのは数をこなさなければなりません」

 「うちは接待とかでカバーしてるかな」

 「それも1つの道。私たちの考え方は・・・と広巣様が参られましたね」

 「ゴテゴテが終わったら続き聞かせてもらえませんか?」

 「ええ、私としても19時までには終わらせたいので」


何で営業が現場に出ているのかは置いておいてノルマをこなす。


 ー ヴァニティー結婚式場控室 18時30分 ー


 「これにて全過程を終了。皆様お疲れ様でした!」


司会の千乃さんが叫びパーティは終了、俺達は控室に向かう。

扉を閉めて椅子に座るよう誘導された。

千乃さんは湯沸かし器でお茶を作り俺達のテーブルに渡す。

自販機あるけどお金もったいないしな。


 「正直驚きましたよ、詩絵夢様には。

なんせ地獄のようなスケジュールを短時間でこなしましたから」

 「千乃さんのプラン建てが上手だからですよ」

 「約束通り話の続きを。私たちの考え方はこうです。

数多くの商品を紹介する場を自分たちで作ること」

 「それが動画サイトとの提携ですか?

でもそれだけであれだけのスポンサーが集まるとは思えない」

 「その意見はごもっとも。

しかし”自分達より上位の会社が宣伝する場を設けたら?”話は変わってきます。

もはや国よりも企業が権力を持つ時代。

日本に本社を構えるメリットがないですから海外に移転をした」

 「シンガポールとかの税金が安い国ですね?」

 「企業複合体ヴァニティー。それこそが私たちの目指した世界。

結婚式はあくまで広告。真の目的は参加企業を増やすこと」

 「なんか頭痛くなってきたな。

俺とラテはそんな大それたもんに入れる自信ないぞ?」

 

 「あー実は私もヴァニティーで婚姻届け出してないの」舌ぺろ

 「は?じゃあ全部ウソかよ!!訴えるぞ!全員!!」


その声を聴いて千乃は椅子から立ち上がり俺の周りをうろつき始めた


 「はははは。いけませんねぇ。私たちは1円たりとも貰っていません。

結婚詐欺ではありませんし、何か商品を勧めたわけでもない。

罪には問えませんよ?」

 「クソッ!ラテが勧めたんだよな、この式場。

つまり付き合ってる時からのドッキリかよ!なんて回りくどい!」


 「何も考えなしに全ての情報を教えたわけではありません。

あなたに営業の素質があったればこそ。

たしか詩絵夢様も接待で交渉を有利にしていたとか?」にやり

 「そういうあんたも自販機使わずにお茶沸かしてただろ?

複合企業の営業が泣くぜ?」

 「流石に鋭い着眼点をお持ちだ。

先ほど言ったいい商品と悪い商品です。

自販機は便利なものですが給湯器がある部屋に置くメリットはありません。

もし詩絵夢様が営業ならばどうします?」

 「給湯室に置くのは悪手だ。例えば会社受付を出てすぐの所に置く。

設置理由はお茶汲みの人件費削減及び福利厚生ってとこだな」

 「ええ、正解です」パチパチパチ

 「自販機みたいないい商品でも営業の質が悪いと

こんなところに置かれちまうって言いたいのか」

 「ええ、私が過去に犯した過ちです」

 「は?あんたほどの営業が何故!!」

 「そこは元々会議室でしたから

ペットボトル自販機を置けば楽になるかと思い営業をしました」

 「それだと会議参加人数の10-20本しか売れないぞ?」

 「私の罪を象徴としたモノリスいましめですよ。

無論元居た会社の失態ですので」

 「自販機をぬいぐるみ感覚で飾る人初めて見た!!!」


 「時間もありませんね、一世一代のビジネスチャンス。

さて詩絵夢様どうしますか?営業スキルを活かし世界に羽ばたくか、

それとも今すぐ帰るかです」

 「はぁ~。あんたが上司なら着いていくよ」

 「交渉成立。まあ広巣さんが逐一情報を教えてくれましたから。

今の給料に満足していないことも把握済みです」

 「こえええええええええええええええええええええ」


 「早速部下が出来ましたので、結婚相手の話題でもしましょうか?

広巣さんは私の妻ですのでダメですよ?」

 「じゃあ俺の営業スキルで破局させてやらぁ!」

 「はははは。やんちゃな部下ができたものです。

ようこそヴァニティーへ」

 「しばらく結婚はこりごりだな」


男女の結婚ペアは破局したが、

仕事上のパートナーは見つけれたな。

結婚詐欺も今回に限りいい結果となった。



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2053年の無料結婚式!!! 漢字かけぬ @testo

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