第448話『1時間ずっとちゅーするだけ』


 お昼休み、学校の階段の踊り場。

 俺はそこでマイとイリェーナに壁際まで追い込まれていた。


「イロハちゃん……教えてあげるぅ~!」


「ワタシたちがどれだけイロハサマを想っているノカ」


 彼女たちの顔がだんだんと近づいてくる。

 俺は必死に制止の言葉を紡ごうとしたが……。


「ちょっ、ふたりともダメっ……んんんぅ~~~~っ!?」


 その言葉はキスで口を塞がれて、封じられてしまう。

 ちゅっ……ちゅ、ちゅっ……と水音混じりのリップ音が響く。


「ん……ちゅっ……ぷはっ!? ……ふたりとも、待っ……んんっ!?」


「イロハちゃんぅ~、大好きぃ~。好き、好きぃ~……んぅ~、ちゅう~っ!」


「イロハサマ、かわいいデス……ちゅっ、ンっ……ちゅるっ、ちゅっ……!」


 絶対に学校でさせちゃいけない音が廊下に反響していた。

 俺は交互にふたりからキスされるせいで、息継ぎもままならない。


「ぷはっ……こ、らっ……やめっ……ばかっ……ちゅっ、んんんぅ~っ!?」


 なんとか抵抗を試みるが、ふたりに肩と手を押さえつけられてしまう。

 さらに彼女たちは俺の口内にまで進軍をはじめた。


 舌で強引に唇を割られる。

 「んーっ!」と口を結んで抵抗しようとしたが、あっという間に開門させられて……。


「んっ……はぁ~、イロハちゃんのべろ……とってもおいしいよぉ~、んちゅぅ~!」


「イロハサマ……もっとしマショウ、愛しテマス……! ちゅるっ……!」


 酸欠と気持ちよさとで頭がボーっとしてくる。

 こ、このままじゃ本当にマズい!?


 彼女たちにキスされるといつも・・・こうなってしまう。

 俺は残った理性を総動員して、息継ぎの合間に必死に言葉を紡ぐ。


「ぷはっ……ふたりとも、ごめん……わらひが、悪はった、からっ……んんぅ~、ぷはっ……はぁ、はぁっ……でも、ここは神聖なまなび舎れ……んちゅっ!? 勉強っ、すりゅ場所らからっ……!」


「でもイロハちゃんぅ~、言葉とは逆に自分からも舌を絡めてきてるクセにぃ~。んちゅぅ~!」


「っ!? そ、そんなことしてないも……、ん……ちゅっ……!」


「それにイロハサマ、手だってこんなに『離したくない』ってぎゅーってしてきてマスヨ。ちゅるっ……!」


「えっ、あっ……こ、これは!? ち、ちがくてっ……んちゅぅっ!?」


 いったいいつの間にだろう? 押さえつけられていたはずの俺の手が彼女たちと恋人繋ぎしていた。

 でもこれは俺の意思じゃない! 仕方ないんだ!


 その、キスの気持ちよさに耐えようとしたらついぎゅっと握ってしまうというかっ。

 あとはパブロフの犬的な条件反射でっ。


 なのに、これじゃあ俺がもっとしてほしがってるみたいじゃないか!

 学校という特別な空間での行為に、余計に興奮しているとか……そんなのはない! 断じてない!


 だから……。

 でも……。


「マイ、イリェーナちゃんっ……、ちゅっ……好き……大好き……わたしもっと――はぅえっ!?!?!?」


 俺は彼女たちにねだるように甘えた声を出しかけて、その途中で変な声が出た。

 一瞬で目が覚めた。


 さっきまでのジトっとした汗ではなく、ダラダラと冷や汗が流れだす。

 慌てて、マイとイリェーナを今度こそ本気で止めようとする。


「ちょ、ちょっと待って! ふたりともストップ! あぅっ――!?」


「イロハちゃんぅ~、わかったよぉ~……もっと、あげるぅ~」


「イロハサマ、もっとワタシと一緒になりマショウ……!」


「んんんぅ~~~~!?」


 俺のひと言で完全にスイッチが入ってしまったらしい。

 ふたりは先ほどよりも激しく俺を攻めはじめ……!?


 待って待って待って!? ちがう! そうじゃなぁあああいっ!?

 ほんと、今はマズくって!? お願いだから止まってくれ! だって……。



 ――さっきから、そこでほかの生徒が俺たちを見てるんだよぉおおおっ!?



 俺の視線はマイとイリェーナの肩越しに、そこに立つ人物へと向けられていた。

 それはふたりと同じクラス……一番最初、俺に突っかかってきた不良女子だった。


「……」


 不良女子は「な、なにやってんだコイツら!?」という表情のまま固まっていた。

 めっちゃ目が合ってる! 気まずいどころの話じゃない! 居心地が悪いどころじゃない!


 壁のほうを――俺のほうを向いているマイとイリェーナからは見えていないらしく、気づかない。

 俺は必死にそのことを伝えようとするのだが、キスはいつまでも途切れず……。


「ら、らめぇ~~~~っ!?」


 やがて、キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴り響いた。

 ようやくキスから解放されて、俺はヘナヘナとその場に崩れ落ちた。


 結局、お昼ご飯は食べそこねてしまった。

 でも、すでにお腹いっぱい……って、そんなこと言ってる場合じゃない!


「いやあの! これはちがくて……って、もういない!?」


 すでに不良女子の姿は見えなくなっていた。

 マイとイリェーナは満足げな様子で俺を抱きしめていて、怒りは収まったようだが……。


「急いで弁明に……って、ヤバい!? わたし、このあともうひとクラス授業あるんだった!?」


 俺は急いで授業の準備をして、教室へ向かった。

 さっき鳴ったのは予鈴だったから授業にはギリギリで間に合ったが……結局、それ以後に不良女子と話すタイミングが見つからず……。


   *  *  *


「――そうして、今に至るというわけ」


 それだけじゃない。

 教室に入ったら生徒のみんなからすごい変な目で見られた。


 見た目、自分たちよりもずっと小さい子どもが来たから、というのもあるが……それだけじゃなかった。

 なんというか、その……。


 俺の様子が、口の端からよだれが垂れてるし、目がとろんとして頬が上気してるし、汗だくだし。

 服も乱れていて……”事後”だというのがバレバレな恰好で。


「あぁもうっ、思い出しただけで……うがぁあああっ!?」


>>えっっっど……!?

>>イロハちゃんがめちゃくちゃえっちになってる(米)

>>ちょっと待って、ガチで鼻血出た(宇)


>>これは確実に同人誌のネタにされる(韓)

>>だれか、今すぐに手書き動画を作成するんだ!(独)

>>大丈夫かこれ、R18指定になったりしない!?(仏)


 そんなのこっちが知りたいわぁあああっ!?

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言語チート転生〜幼女VTuberは世界を救う〜 可愛ケイ💕🔡@VTuber兼小説家 @kawaiiiiiii_kei

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