第447話『校内でウワサの百合カップル』
>>学校でキス!?(宇)
>>なんでそんな状況になったしwww(米)
>>kwsk
「わたしだって不可抗力だったんだよ!? あれは……」
と、俺は学校でのできごとを思い出しながら語った――。
* * *
その日、俺は何度目かの授業を無事に終えた。
最初はかなり緊張したが、今はもう慣れたものだ。
ほかのクラスにも俺のことを知ってくれていた人がわりといたのも、やりやすかった要因のひとつだろう。
かといって「お前の正体は――」なんてことも言わずにいてくれているし。
「みんないい子たちだよなー。どのクラスに行っても毎回『小さい』ってからかわれはするけど」
なんてことを呟きながら廊下を歩く。
さっきの授業はちょうど4時限目だったので、次はお昼休み。
約束してるわけではないが一緒にお昼ご飯を食べたい……じゃなくて、そうしないとマイたちが怒るから!
俺は合流すべく彼女たちの教室を目指して――。
「イロハちゃんぅ~!」「イロハサマ~!」
「ど、どうしたのふたりとも!?」
教室の前まで辿りついたところで、マイとイリェーナがいきなり飛び出してきた。
ふたりはぎゃー、ぎゃーと叫んでなにやら訴えてくるが要領を得ない。
「ここじゃ迷惑だから」
と俺は彼女らを階段の踊り場まで誘導した。
ここならよさそうだ。ほとんど人も通らないみたいだし。
「で、どうしたの?」
「イロハちゃんぅ~! みんなに説明してぇ~!」
「そうデス、お願いシマス! もう限界デス! 誤解されて困ってるんデス!」
「えっと……説明? 誤解? ってなにが?」
というか同時にしゃべらないでくれ。
言語チート能力があるから、べつにそれでもわかるけど……。
ちなみに最高で同時にいくつまで声を聞き分けられるかは知らない。
試したことがないから。
「じつは、マイとイリェーナちゃんが――」
「じつは、ワタシとマイサンが――」
「「――付き合ってるって思われちゃったんだよぉ~(デスヨ)!」」
「……え? わたしと、じゃなくて?」
「そうだよぉ~! イロハちゃんとじゃなくて、マイと――」「――ワタシがデス!」
「???」
ふたりが付き合ってる、ってなんでそんな勘違いが?
首を傾げていると、マイとイリェーナは自身の左手を突き出した。
「原因は……”コレ”だよぉ~!」「なのデス!」
「……あ~」
ふたりは我が家で開催したパーティーにて俺からプロポーズ? されたことを明かした。
それに結婚配信もしたし。
それで、もう隠す必要がなくなったから、と普段から指輪をつけて過ごすようになった。
……まではよかった。
ふたりは、それはもう幸せオーラ全開で周囲に自分の指輪を見せびらかしたらしい。
そう――
「……なにやってんだか」
「こんなはずじゃぁ~!?」「ウウウ~~~~っ!」
そりゃそうなるでしょ。
普通、薬指に同じ指輪をしているふたりがいたら、それは付き合っているか結婚しているかだと思う。
まさか、”3人目”が存在するなんて想像もしないだろう。
今回の場合は5人目までいるのだけれど。
「ただでさえ、以前から『イリェーナさんってマイちゃんと付き合ってるの?』とか聞かれることが多かっタノニ、最近は本気でそう思っている人が増えスギテ……もう勘弁してほしいデス!」
「ぎゃぁ~っ!? 思い出させないでぇ~!?」
……ふたりとも仲いいもんねー。
小学校のころから、俺が知らない間にイリェーナのVTuberデビューのためにいろいろ協力してたり。
お互いの家にも頻繁に通ってたり。
ふたりが学校でどんな風に過ごしてるかとか、俺はほとんど知らないのに。
……むぅ。
「あれ? もしかしてイロハちゃんなにか機嫌悪いぃ~?」
「デスネ。イロハサマ、どうかされまシタカ?」
「えっ!? あっ、や……いやっ!? なんでもないよっ!?」
指摘されて、自分が仏頂面になっていたことに気づく。
もしかして今、俺……いやいや! ない! 絶対にちがうからっ!?
「それよりも! そんなに誤解って広まってるの?」
「うぅ~ん。中学時代、イロハちゃんと同じクラスだった人たちはイロハちゃんの正体も知ってるし、みんなあの結婚配信も見てくれてたから事情をわかってくれる人もいるけどぉ~……」
「高等部から編入してきた人たちはミナサン、そのことを知らないノデ」
「そっかぁー」
「ムキぃ~っ! マイが結婚したのはイリェーナちゃんじゃなくてイロハちゃんなのにぃ~!」
言って、自分のスマートフォンのホーム画面を見せてくる。
そこに映っているのはウェディングドレス姿の俺とマイだった。
といってもあくまで『翻訳少女』と、姉ヶ崎モネをすこし幼くしたようなデザインの少女だけど。
結婚配信のあとたくさんファンアートが投稿されてたもんなー。
ちなみに俺は、もちろん推しであるあんぐおーぐとあー姉ぇとイリェーナの画像はすべて保存した。
『いいね』もちゃんとしてある。
最近、エッキスの『いいね』は他人に見えなくなってしまったが……。
投稿した本人にはちゃんと通知がいく! だから、しっかりと『いいね』して応援するんだぞ!
「ちなみにマイサンよりもワタシのほうが結婚ファンアートの数が多かったですケドネ」
「なぁ~っ!? そ、それは仕方ないでしょぉ~っ! マイは配信に出てなかったんだからぁ~っ!」
出てないのに、あれだけファンアートを書かれていたらもはや準レギュラーみたいなもんだけどな。
にしても、最近は推しの家族や友人が配信に登場することも多くなったなぁ。
リアル姉とか、リアル母とか……エイプリルフールに本当にVTuberデビューしてしまうこともあったり。
そういうの……大好きだ! いいぞ、もっとやれ!
「はぁ~、もうどうしたらいいんだろぉ~」
「困りマシタ」
「……うーん」
ふたりは心底から悩んでいる様子だったが、俺はべつの感想を抱いていた。
えーっと、それ……。
「――べつにどっちでもよくない?」
だって、ふたりが俺のことをすごく大好きだって気持ちはちゃんと伝わっているから。
俺は理解してるから。
だから、自分たちがわかっていれば周囲の言葉なんて気にしなくてもいい。
そういう思いからの発言だったのだが……。
「イロハちゃんは全然わかってないよぉ~! マイはこんなにもイロハちゃんを好きなのにぃ~っ!」
「イロハサマ、ヒドいデス! ワタシたちの愛が届いていなかったのデスカ!?」
「あっ、いや! そういう意味じゃなくて……って、ひゃんっ!?」
俺はマイとイリェーナに詰め寄られ、壁際に追い込まれていた。
ドン! と彼女たちが壁に手を突き、背の低い――俺の顔に影が落ちた。
「え、えーっと? ふたりとも?」
どうやら、ネガティブになっていたふたりにはべつの意味に聞こえてしまったらしい。
な、なんだかイヤな予感が。こういう勘にかぎってよく当たるんだよな――。
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