第446話『幸せのおすそわけ』
『そうですねー。時間も押してきているので次のプログラムに移りまーす』
オヤビンがそう言って、結婚披露宴のプログラムを次へと進めた。
俺はホッとしながら祝電に耳を傾けようとして……。
『では、まずこちらのビデオメッセージからー!』
表示されたのは目元に黒線の入った、見知ったVTuberだった。
かつてコラボしたこともある日本語と韓国語の両方を操る彼女が口を開く。
『いやー、ウチはイロハちゃんならいつか絶対やると思うちょった! じゃけど、まさか未成年のうちに4人も娶るとは……ほんまさすがやわー。実際ウチも当時、攻略されかけて――』
「って、おい!? わたしは犯罪者かなにかか!?」
あきらかにボイスチェンジャーを使われている声でのインタビュー? に思わずツッコむ。
あと、頭を振ったときに黒目線がついてこなくて、ほとんど丸見えなんだけど!?
「ちょっと、みんなからもなにか言ってあげて!」
「……? イロハちゃんとお姉ちゃんはラブラブだから問題ないよ?」
「あるガ!? しかも日本じゃ最近『性行為同意年齢』の引き上げがあっタ。けド、イロハもちょうど誕生日来て16歳になったからセーフ……だよナ? 大丈夫だよナ!?」
「そもそもワタシは同い年なのでなんの問題もありマセン! 自由恋愛デス!」
>>ガチ感出るから慌てるのやめてくれwww
>>微妙に脛にキズあるせいで反論できてなくて草(米)
>>オレの中でイロハちゃんがまだ幼女のイメージあるから不安になるw(宇)
と、しょっぱなで変化球をもらいつつも俺たちはいくつかの祝電を視聴した。
内容は「またコラボしよー」だったりネタ的だったり、いろいろ。
リアルタイムでコメント欄にメッセージをくれる知り合いも多かった。
俺たちはそれらにひと通り反応して……。
『では、そろそろ締めましょうか。最後に――ブーケトスを行います!』
オンラインでブーケトスってどうやるんだ?
と企画時は思っていたのだが、それはあー姉ぇがうまいアイデアを出してくれた。
「じゃあ姉ぇ~、イロハちゃんが今から花束の絵文字をコメントするから、ちょうどその真下にコメントした人がブーケキャッチ成功だよ~!」
配信上で安価を行うときなんかにやる手法と同じだ。
相変わらず、こういうのを考えさせるとあー姉ぇの右に出る者はいない。
ちなみにブーケトスのほかに、新郎が投げるブロッコリートスもあったりするが……。
今回は新婦しかいないので割愛。
「さて、じゃあ……」
そこまで言ったところで一気にコメントの流れが加速した。
と、その中で知り合いが連投しているのが目に留まった。
>>ブーケわてにくれー! どうかわてを結婚させてくれー!
>>このままやと結婚願望が暴走してほかのライバーにまで迷惑かけそうなんや!
>>というかすでに後輩ライバーに絡んだり、ナマモノカップリングで妄想してもうてるんや!
>>うるっせー! 今、一番ブーケが必要なのは村長なんだよぉおおお!
>>こちとらもう三十路過ぎてんだぞ!?
>>てめぇらどうせ、まだ25とかで「ブーケくれ」とか言ってんだろ! 甘えてんじゃねぇえええ!
ライアーズゲームでコラボをした錬丹術師ライバーと、昭和歌謡祭を開催していたVTuberだった。
あまりにも必死すぎるコメント連投に「うわぁ……」とほかの視聴者にドン引きされていた。
もはや恥も外聞も捨てて
まぁ、そういうところも含めて俺は推しているのだけれど。
「えーっと、いきますねー。投げまし……、た!」
>>だれが受け取った!?
>>コメントの更新スピード早すぎて、確認するのもひと苦労だな(米)
>>見つけた!(韓)
>>どこどこ!? だれ!?(宇)
>>この人!(仏)
>>ん……? えっ、アタシか!?
>>正直、アタシまだ高1だから結婚とか早すぎるんだけど、でもイロハのことはガチでリスペクトしてるから、マジでヤバい。うれしい
>>高1!? 若っ……!?
>>次に結婚するのがこの子ということは……オレたちが結婚するのは最低でも何年後だな!(愛)
>>なるほど、それならまだ俺の前に良い人が現れてないのも仕方ないな!(新)
>>視聴者数十万人の婚期が絶望的で草(伊)
>>わ、我々にはイロハちゃんがいるから……(英)
「当たった人、おめでとうございまーす」
「ン? アイツらさっきまで連投してたクセにコメント欄からいなくなってるナ?」
あんぐおーぐのセリフで「あれ?」と俺も首を傾げる。
あれだけ熱心に書き込んでいたのに……と思っていたら。
>>あのふたりならブーケトスの直前にコメントの連投でMyTubeからブロックくらったらしいぞ
>>↑草
>>エッキスで発狂メッセージ連投してるwww(墨)
>>これは結婚できないのも納得
>>でも、ワイらはそんなおまいらのことが大好きだぞ
>>これからも独身であってくれ(豪)
『というわけで、プログラムは以上で終了でーす。最後に私から。イロハちゃん、みんな……本っ当におめでとー! これからもお幸せにねー!』
「オヤビンさん……ありがとうございます!」
牧師役を引き受けてくれたオヤビンに礼を述べ、無事に結婚式&結婚披露宴の配信は終了した。
そうして、ひとまず落ち着いて平穏な日常が――。
* * *
「……やってくると思ってたんだけどなぁ」
>>どうしたん? 姉ヶ崎イロハちゃん?
>>↑いや、あんぐイロハちゃんだから(米)
>>↑↑今こそイローシャという愛称で呼ぶべき……(宇)
「いや、名前は変わらないから!?」
俺はあの配信以降、ファンのみんなからそうやってイジられるようになっていた。
が、それは大した問題じゃない。問題は……。
「わたし、すこしだけ学校で先生として授業をする機会があったんだけど、そこでちょっとトラブルが起きて」
>>イロハちゃん、先生やってたの!?
>>そんな授業、いくら払ってもいいから聞きたいんやが(米)
>>なんと、アーカイブから無料でいろんな講座配信が見れちゃうんだなぁこれが(宇)
コメント欄の冗談に返しつつ、俺はフェイクを入れながら先日あったことを話す。
具体的には……。
「じつは――生徒のひとりに、学校でちゅーしてるところ見られちゃったんだよね……」
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