11.闇深少女の心

「やだ! やめてやめてやめて死にたくな……」

「……っふ!」



 大きな口のついた植物型の魔獣、が相対していた魔法少女を蔓で捕まえ、大きな口開いて今にも捕食しようかといったすんでのところで、俺は鎌を上段から振り下ろして蔓を切断し、魔法少女を救出する。

 そしてすぐに魔法の詠唱へと取り掛かる。



「【闇黒よ 切り刻めダークカッター】」

「※※※〜〜〜!?!?」



 数秒後、詠唱が完了したことで幾つものやみの刃が形成され、イースターウッドへと襲い掛かる。反撃する前に大量の刃による追撃を受けたイースターウッドは、何も出来ずに全てその身に受け、まるでこの世のものとは思えない奇妙な悲鳴をあげる。

 以前見た疾風の魔法少女カエデの魔法を参考に、アレンジを加えたこの魔法は、威力もそこそこあるのだが、それ以上に速射性にすぐれていて、今回のように間を置かずに攻撃したいとかにはこれ以上ない魔法なんだよね。しかも、俺自身魔力の量が他の魔法少女と比べても段違いに多いからこれくらいの詠唱でもかなり強力な魔法になるし。



 最後のひと押しを加えるべく敵が多くの刃を受けている間に詠唱を終え、満身創痍となっているイースターウッドへと最後の魔法を発動した。



「魔装【闇の神鎌アダマス・ハルパー】」



 つい最近、俺の中に居る闇の精霊と対話しながらようやく実用的に使えるようになってきた新しい技で、武器に魔法を纏わせることで通常の魔法の威力に加えて更に膂力を加えることでかなりの高威力を叩き出せる技術、魔装を発動すると……離れた位置から、イースターウッドの居る方向へ向けて鎌を横に一閃する。

 瞬間、巨大な斬撃が発生し、恐らく俺でも見てから避けることは出来ないだろうほどの恐ろしい速さでターゲットへと向かっていく。

 結果、イースターウッドの身体は綺麗に上下へと分かたれることとなった。 



「す、凄い……B2級の魔獣を、一撃で……」



 何やらさっき助けた魔法少女が俺の魔法を見て感嘆している様子。こっそり褒めるのやめなよ。照れるじゃないか。

 魔獣が完全に消滅したのを確認すると、次に立ち上がることなく座り込んでいる魔法少女に近寄る。

 相手が魔法少女とはいえ、救助者へのアフターケアは必要だろう。ましてや、さっきまで自分の体以上もの魔獣に捕食されそうになったんだから、下手したら心が折れていてもおかしくない。

 まあ、思ったよりかは大分マシそうではあるかな? それに、状況が状況だからフラッシュバックとかも……ないと思いたい。



「怪我、大丈夫?」

「あ、はい。助けていただいてありがとうございます。です が、その……こ、腰が抜けて立てなくて」




 なるほど、なんで逃げなかったんだろうと思っていたら、ただ逃げられなかっただけらしい。魔法少女なら空を飛べよ、って思うかもしれないけど、実は空を飛べる魔法少女ってほとんど居ないんだよな。

 俺が今まで見た中でも空を飛べる魔法少女は1人しか居なかったし、俺だってブラックホールの理論を応用して擬似的な引力や斥力させて後は魔力の量でゴリ押してるだけだし。



 恐怖で腰が抜けるのは仕方がないだろう。というか、俺でも絶対ビビってる。俺だったら痛いのは慣れてるし噛み砕かれてもだろうけど、流石に俺が受けてきた拷問まがいな改造よりも遥かに痛いのは間違いない。肉体的には死ななくても、結局精神的な面で死んでたかもね。



「あの……もしかして、死神の魔法少女、さん? で良かったですか?」

「……そうですが」



 なんか前にも聞いたことのある魔法少女名だなぁ、なんてちょっと気が遠くなる。

 めちゃくちゃ魔法少女っぽくないし、これ一般人が聞いたから普通に悪役の魔法少女だと思われんかね……いや、確かに魔法少女じゃないし、魔法少女陣営とははっきりぶつかる立場でないにしても味方でもないけどさ。



 俺のことはひとまず置いておこう。

 モタモタしてると、間違いなく別の魔法少女も来ちゃうからね。


 

「それで、魔法少女は続けられそうですか?」

「それ、は……」



 俺が単刀直入に問いかけると、彼女は一瞬面食らったように驚いた表情を見せると、すぐに歯切れの悪い様子で思い悩んだように俯く。

 分かってはいたが、やはりというかなんというか、彼女はもう戦わない方がいいだろう。元はただの普通の女の子だったんだ。あんな目にあって、トラウマにならないはずがない。

 ここ数ヶ月、俺は何度もこうやって魔法少女のアシストに回っていたけど、彼女のような目で、引退していった子を何度も見てきた。

 それでもまだ悩んでしまうのは、彼女の正義感の強さから故か。でも、トラウマを抱えたまま戦うのは死に直結しやすい。



「貴女はもう、戦わない方がいいと思います」

「え……で、でも」

「お願いです。もう戦わないでください。私の手を煩わせないでください」



 だから俺は、もう戦わせない方向で背中を押そう。いくら曇り顔が見たいと言っても、死んで欲しいわけじゃない。もどかしさと悩ましさを抱えて、それでも何度も壁にぶつかったまま、結局無事に寿命を終えて死んで欲しい。

 俺はもう、



「死神ちゃん……」



 ……いや、その、ね? この雰囲気で、物憂げな顔でその呼び方はやめてくれないかな? シュールすぎてちょっと俺吹き出しそうになったんだけど?

 この空気感を壊さないように崩れまい、と堪えつつ、物悲しそうな表情を浮かべる彼女に向けて、最後に残酷な言葉を言い放つ。



「言っては悪いですが、貴女の代わりはいくらでも居ます。むしろ、貴女のように傷を抱えたまま戦われると足でまといです。それなら、居ない方がいい」



 これは、半分は俺の本音でもある。例え実力者であっても、いつ立場が崩れて護るべき存在と化してしまう魔法少女と共闘するのは、士気の問題でも辛いところがある。間違いなく、パフォーマンスは低下したままの戦闘になる。

 ただ、代わりがいくらでも居るっていうのは嘘だ。さっき倒したあの魔獣は、正直言うと相当強い格の魔獣のはず。

 むしろ、彼女と同じくらいの強さまで魔法少女を育成するなら、そこそこの才能と結構な年数が必要になる。口には出せないが、彼女が抜けるのは非常に痛手になると思われる。

 それでも……魔法少女は常に死がはらむ活動で、実際相当数の魔法少女が死んでるし、俺だって何度も見てきた。



「よく考えてから、今後を考えるように。それでは」



 やめやめ。なんで俺が曇らされないといけないんだよ。俺は曇り顔がみたいだけなのに。もう無駄なことは考えなくていいや。

 俺はそう言って、魔力に足がつかないよう【影移動(シャドウワープ)】の魔法は使わずに、空を飛んで急ぎその場を離れる。

 ……最後に、「ありがとう」なんて聴こえたような気がしたが、恐らく気のせいだろう。

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闇深少女になったから曇らせたい 香月燈火 @Aoi_hibi_Mikami

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