目玉焼きを作るお話

水嶋 穂太郎

第1話 俺の妹は意地汚い。

「えー、おにいちゃん目玉焼きも作れないのー? 今どき料理もできない男子なんてモテないでしょー?」


 妹が煽ってくるので、仕方なく俺は乗ってやることにした。

 目玉焼きを作るのなんていつ以来だろう。

 まあモテないのは事実だが、黙っておく。

 要は目玉焼きが作れることを証明すればいいのだ。

 俺は台所に移動し、ガスコンロの前に待機した。妹も続いてやってくる。


「まずタブレットを用意します」

「うん?」

「次に動画検索をします。『目玉焼き』『調理』です」

「おにいちゃん……」

「しっかり調理手順を確認しましょう」

「カンニングじゃん!」


 失敬な。

 成功の保障がない調理にいきなり挑むやつなどあってたまるか。

 さて、確認したところで、調理しよう。


「では調理に入ります」

「カンニングだけどね?」

「聞こえません。では、フライパンに食用油を垂らして、まんべんなく表面に行き渡らせます」

「それでそれで?」

「火をつけてフライパンを熱しながら、生たまごを落とします」

「音しないけど平気なの?」

「平気です。しばらく待ちます……ジュウジュウと油の跳ねる音が聞こえてきましたね」

「うん、このまま焼くんでしょ。ふふん、ふつーね!」

「違います。半熟になったたまごを囲むように水をかけて蓋をします」

「おにいちゃん! 水と油を混ぜたら駄目って小学生でもしってるよ!」

「あわてないでください。これでたまごの裏面が浮いて、蓋もしたことで蒸らす効果が得られます」

「それほんとに合ってるの……?」

「…………」

「ちょっとおにいちゃん返事してよ! 真顔なの怖いよ!」


 やはりこの妹は失敬だ。

 調理中は真面目になるのは当然だろう?

 ちなみに、水を入れるやり方は母さんから教わったので、動画には載っていない。

 動画通りにするのも考えたが、そのままだとちょっとつまらないとも思えてしまったので。

 調理にも遊び心は必要なはず。


「パチパチと弾けるいい音がしてきましたね」

「当然でしょおにいちゃん! ねえ火を止めよう? わたしが悪かったよー謝るよーうわーん!」

「なぜ泣く妹よ、この音こそイイできである証だぞ」

「絶対うそだ! いやだ、死にたくないいい! 火事で死んじゃうううう!」

「はい、たまごの表面が白くなってからしばらく経ったのでいいでしょう。火を止めて、蓋を開けます」

「油! 油が跳ねるよ! やめてえええ!」

「パカッと。まだジュウジュウいってますが、これで完成です。余熱で焼きすぎないように、お皿に移してできあがりです」

「わ、わたし……死んでない?」

「…………」


 パニックを起こしたらしい妹が首を絞めてきて、苦しいです。


「できたんだから早く食えよ」

「食べても死なない?」

「保障はしない」

「じゃあ食べない!」

「そうか。なら俺がいただこう……ふむ、白身への火加減は絶妙、黄身も半熟で言うことなし。ああ、これを食べられないやつがいるなんてかわいそうに。どれ、味に変化を与えるために塩でも振ってみる……か?」


 俺が味見をしていると、妹が近寄ってきた。

 そして――かぷ。指を噛まれた。


「おにいちゃん」

「なんだ?」

「わたしも食べる」

「おう」


 俺の妹は意地汚い。

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目玉焼きを作るお話 水嶋 穂太郎 @MizushimaHotaro

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