モフモフ獣落ちと聖女

茶猫

第1話 マリカと獣落ちの兄①

 ここは地方にあるよくある古びた教会です。

 昨日から眠る間も惜しんで忙しく聖女様の来る準備をしています。


 聖女様は神様が一年に数名選定するだけなので存在自体が稀有なんです。

 そのためこんな片田舎に聖女様が訪れることは少ないんです。

 それでも数か月に一度は他の複数の町と交代に聖女様は訪れてくれます。

 彼女たちは村の多くの病人やケガ人を癒しに来てくれるんです。


 そんな聖女様を迎えるため昨日から眠ることも忘れて準備をしているグレンダール神父と教会を手伝う長い髪の少女マリカ。


 流石に眠っていないから相当眠そうなグレンダール神父。

 そんな神父を気使うマリカ。

「グレンダール神父様、そんなところで眠ってはいけませんよ。

 よろしければ休息室で少し横になっては如何ですか?」


 急いで手で目を大きく開こうとする神父。

「いや、そんなことをしている暇はないのじゃ。

 今日は聖女様達が来る日だからな。

 病人や木津付いた村人だってたくさん来るのじゃ」


「でもまだ聖女様が着くまでは時間もあります。

 少しお休みになった方がよろしいですよ」


 大きな目は開けたが、結局眠気には勝てないらしいグレンダール神父。

「そうじゃな、こんな状態で聖女様を迎えるのは失礼じゃな。

 やはり少し眠るかな・・・

 マリカも昨日から今日の準備でほとんど眠れておらんから少し休んでくれ」

 そう言うと神父は休息室へ向かった。


 マリカはグレンダール神父が休息室に向かうと作業を継続した。

「グレンダール神父が居ないと魔法が使えないから全て手作業ね。

 本当に魔法が使えるとやっぱり便利ね。

 魔力は聖女様の聖なる力と正反対の力・・・

 私も魔法が使えるようにならないとね」


 この世界では普通の人は魔力を持って生まれてきます。

 ただしその魔力が明確に存在することが分かるのは四歳ごろでしょうか?

 そして魔力だけでは魔法は使えません。

 魔法として使いこなすためには魔道具が必要であった。


 ただし例外もあります。

 それは「聖女様」


 同時期に聖女様になる少女は四歳ごろから遅くても八歳までに利き腕に聖痕が現れるんです。

 この聖痕の顕現現象を「神に選ばれる」と人々は認識しています。

 だから教会が全ての聖女様達を管理しています。

 そして聖痕が現れた少女は魔力ではなく聖なる力である「聖光」が使えるようになります。


 マリカは小さいときに聖女様に選ばれる可能性がありました。

 そこで四歳になると教会に通い始め聖女の教育を受けていました。

 結果マリカは教育で習った薬草の知識や手当の知識等色々な知識を持っていました。


 でもマリカは八歳の誕生日を迎えても聖痕が顕現しませんでした。

 そうなんです聖女に選ばれませんでした。


 しかしその知識を有効に使いたいと考えてマリカは教会で働くことことにしました。

 現在も教会の中で傷つき入院した人の世話をしていました。


「聖女様が来る」

 教会で働くマリカは、実際の聖女様の癒しの力をまじかに見れるため楽しみにしていた。


「私には持てなかった力、でも補助の作業であれば私にもできる。

 私にはそれで充分、それで良いの」


 ただ、マリカはどうしても聖女に成れなかったことが忘れられなかった。

 自分でもなりたいと思った、そして応援してくれる兄や叔母さんの思いが分かった。

 兄や叔母さんも聖女では無かったことに触れられず、聖女様の話はマリカの前で出来なくなっていました。


 マリカは聖なる力が無いことを言えず、魔法を使うことにためらいがあり魔力の調査を受けていませんでした。


 でもそれは数日前までだった。

 

 二年前に成人した兄はマジック・ドライバーという魔力を魔法に変える魔道具を使い始めました。


 魔力には火・水・土・木・金という五大属性があります。

 この属性に合わせた魔法陣を使うことで魔法が使えるのです。

 でも魔法陣をいちいち書いていては複数の魔法を使う時や、迅速に魔法を使いたいときに扱いにくいため今では専用の魔道具が開発されています。

 それがマジック・ドライバーという魔道具。

 マジック・ドライバーにはディスクと呼ばれる円盤が装着できます。

 このディスクと言う円盤に魔法陣を記載し複数準備することで迅速に複数の魔法を使えるようになったのです。


 なおこのディスクに記載される魔法陣は聖女の聖痕から研究されるています。

 なのでディスクや魔法属性を管理するもの教会の仕事となっています。


 魔道具を使いだした時兄は近衛兵であった父の力を受け継いだのか魔力が強大でした。

 その結果兄は強力な魔法が使えました。


 それを見ていたマリカも「魔法で人を助けることが出来る」ならと考えていました。


 そしてマリカも十五歳、成人になる日が近づいていました。


「人を癒すのに必要ならば躊躇ってばかりもいられない」

 そう決心し、数日前に魔法属性の確認をすることにしました。


 もちろんマリカ自身も「もう聖なる力を使えない」という事実を認識することになのです。

 つまり「自分は聖女では無い」という事実を受け入れることです。

 マリカはそのことを自分に何度も言い聞かせ認めたのです。


 しかし人間と言うのは不思議なもので・・・

 調査をしてからは考え方が、がらりと変わった。


「早く魔法属性を調べて決定しないといけないわ。

 魔法があればもっと多くの人を救うお手伝いが出来るかもしれない。

 だからマジック・ドライバーも直ぐにでも欲しい・・・」


 不思議なことにマリカは魔力属性の調査をしたはずだが、魔力属性の結論が出ていないようでした。

 それでもマリカは魔法を使うためにマジック・ドライバーの購入を考えています?

 不思議なことですが、実は調査の結果は調査をした神父が驚くことが判明したからだった。


「なんと言うことだ・・・・魔法五大属性は検出できんぞ」


 その時調査したグレンダール神父は驚き話を続けた。

「まさか、魔法の五大属性が検出できなかったということは白か黒属性と言うことじゃな。

 教会で手伝いをするというえにしを考えても白属性である可能性は高い。

 『マリカ』そなたは聖教会本部の司教になる運命なのかもしれない」


「白属性ですか?」


「白属性は司教のみが使える魔術じゃぞ。

 儂のような魔法ではなく、神の力にも匹敵する人を罰することも出来る魔法が使えるのじゃ。

 じゃが正確に判定するには聖教会本部に行かなければならないのじゃ。

 そうじゃ本当のことを知るには、少し遠いが休みを取ってでも聖教会本部まで行かねばならぞ。

 直ぐに聖教会本部に連絡を入れておくので早期の内に正教会本部に行けるように準備しておくのじゃ」


 その言葉にマリカは目を潤ませていた。

「諦めていた夢が叶うかもしれない。人を癒す力・・・聖なる力ではないけれど。

 それでも人を癒すことが出来る力が授かれるかもしれない」


 そして期待を膨らませていた。

「魔法を使うならマジック・ドライバーも買わないといけないわ」

 今度の週末に長期の休みを取って中央教会まで行こうと考えていた。

 ただしまだ白魔術属性があると決まったわけではない。

 それでも、マジック・ドライバーをすぐに手に入れたい衝動に駆られていた。


 そして今日はマリカの成人する十五歳の誕生日。


「シャイン兄さんなら私にプレゼントしてくれるかもしれない」

 マリカは兄がマジック・ドライバーをプレゼントしてくれそうな気がしていた。

 なぜなら兄シャインは昨日からなんかマジック・ドライバーの話をしていたからだ、本当に隠し事の下手な兄であった。


 ただしこの時点で兄は妹がそんな気持ちになっているとは知らなかった。

 聖女になれなかった妹マリカはまだ聖なる力を諦めていないだろうと思っていた。


「マリカは聖女になることが出来るんだ」

 小さいときから妹にそう言い続けたことが兄の大きな負い目になっていた。


 そうです彼はマリカが聖女になることを諦められないのは自分の責任だと思い込んでいました。

 そして聖なる力ではない魔力を使うことで魔法を発生させるマジック・ドライバーをプレゼントをする責任があると思い込んでいました。


 そうすることで妹であるマリカに聖女であることを諦めさせる切っ掛けになる。

 そして人として普通に魔法を使うことをするために必要なことだと思いつめるように考えていました。


 そしてその兄の負い目が彼とマリカに不幸をもたらすとは思いもよらなかっただろう。


 少しして教会の作業が落ち着いたころ、マリカは餌を準備していた。

「バズーの所に餌を補充してきますね」


 バズーは捨て犬だった。

 彼はマリカと一緒に教会を手伝っていたサリーに拾われ教会で飼われていた。


 だが数か月前にサリーが自殺した夜にバズーも行方不明になっていた。

 実はサリーが自殺した理由は分かっていなかった。 


「サリーを探しているのバズー?

 早く帰っておいで、貴方の好きなひき肉の料理よ。

 早く帰って来て、私はサリーだけじゃなく、あなたまでいなくなって寂しいよ」


 主の居ない小屋の前に餌をたっぷり入れた皿が置かれた。


 ◆   ◆


 髪の色が違う四人の少女が丘の上で何かを待っているようでした。


 突然緑の髪の少女が望遠鏡を覗きながら叫んだ。

「ミレディア様、聖女を乗せた馬車がこちらに向かってきます」


 ミレディアと呼ばれた赤い髪の少女はその言葉を聞くと緑の髪の少女が見ていた方向に望遠鏡を向けた。

「レディバ隊は審問のための調査を開始する。

 バーレリー今から起こる全てのことを記録するように。

 みんなもどんな細かいことも見逃さず、聞き漏らさず、全てを記憶するんだ」


 その言葉に全員が返事をした。


 そして黄色の髪をしたバーレリーが水晶球に魔法を掛けた先ほどの場所の方向に投げた。


 やがて少女たちの姿は消えた。

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