第3話 2
「え?陛下と側妃様が喧嘩ですか?」
今月3回目なのによくやるなー。
と、思ったものの口にださず、手元の書類に視線を移しため息をついた。
もう少しで区切りがつくんだが、今すぐに仲裁しないと後始末が大変なのでさっさと面倒事の方を終わらせるか。
「報告ご苦労様です。後は私がなんとか宥めてきますから、君は政務に戻って下さい」
ニコリと微笑み俺がそう言うと、気弱そうな青年はすまなそうにしながらも、そそくさと部屋から出て行った。
俺に報告するのを押し付けられたのだろう。
なんか申し訳ない。
心の中で彼に謝りつつ机の上を軽く片付け、部屋の戸締まりをする。
元々そんな物を置いたりしないので、ペン、インク等を机の引き出しにしまうぐらいだけど。
今やっていた書類が終わり次第各部署に新規の書類を配りに行けるはずだったんだが、これは残りの予定が大分遅れるだろう。
今日は久しぶりに定時で帰れるなとか思っていたのが駄目だったのだろうか。
2人の喧嘩を宥めても、執務が終わった後に陛下の愚痴を夜通し聞く羽目になるだろうから、今日も徹夜確定だな。
グッバイふかふかのお布団。
ため息をつきそうになるのを我慢して部屋を出る。
先の見えないほど長い石造りの廊下。
無駄に長すぎる廊下にげんなりする。
着いたら終わってたりしないかなと叶わない願望を
抱く。
……まあ、急いだ所で2人の喧嘩は収まらないし、誰かが物理的に止めない限り止まらない。
誰も関わりたくないよなー下手したら首飛びかねないし。
でも、ぶっちゃけると俺でなくとも良くないか?
喧嘩の仲裁だし護衛の兵士が止めてくれてもいいじゃん。
そういえば、この時間なら陛下は執務室にいるはずなのに、なぜ側妃様が来ているのだろう……
・側妃様付きのメイドの誰かに手を出した
・側妃と正妃の喧嘩勃発
・陛下が約束を忘れてすっぽかした。
なんかどれもありそうだなぁ。
あぁ、今から気が重くなる。
陛下の執務室に近付くにつれ、オロオロしている人だかりが見えて来た。
そんな野次馬よろしく見物してるなら誰か1人でもとめられるだろうに…
野次馬の後ろに着いたけど、ここからじゃ人だかりの中心にいるであろう2人は見えないし、声も聞こえない。
やっぱり人混みを掻き分けて行くしかないようで、俺は小さく息を吐く。
覚悟を決めるしかないか……
「おい、あれって宰相じゃないか……」
「おい、様を付けろよ……聞こえたらどうすんだよ」
「別に構わないだろ“嫌われ宰相”なんだしさ」
野次馬の最後尾付近にいた、政務官と思われる2人組。
俺の顔を見るなりヒソヒソと囁き合っていた。
明らかに卑下する表情を向けらて一瞬眉を寄せたが、直ぐに何時もの表情を取り繕う。
なら、今すぐにでもあの2人の喧嘩を止める権利を差し上げても良いのだけど……
首を縦には振らないだろうな。
俺も仕事じゃなきゃ行かない。
それに、気持ちの籠ってない謝罪を聞くだけ無駄だし、無視、無視。
「すいません。道を空けてくれませんか」
決して大きい声ではないが、有無を言わせない口調は以外と響いたようで、渋々といったように道が空く。
卑下する表情をした2人組の政務官同様、あまり好意的ではない視線に晒されながら、左右にできた人の壁を見て見ぬふりをして歩いて行く。
嫌われ宰相は出戻る 亜依朱 @rokudouarisu
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