第2話 とある宰相の最後
俺は記憶を頼りにある建物を目指している。
幸いにも鮮明に覚えているので迷う事なく慣れた足取りで進む事が出来ていた。
急いではないのでゆったりした歩幅で歩きながら通り過ぎる街並みに目を輝かせた。
見慣れた店もあれば、見た事のない店も見かけた。
―あー、あんな場所に本屋出来たんだ……
―おぉ、路地裏の古本屋はまだやっている。
―あの露店の料理は見たことないな、用事を済ませたら食べにこようかな?
いやー久しぶり楽しいって感じるなぁ。
ここ最近仕事が激務続きでろくに食事取れてなかったからな。
睡眠はまぁ……前世では職業柄野宿とか当たり前にしてたせいかどんな場所でも寝れるからソファーやら床で熟睡出来て何とかなってたけど……
まぁ、流石に寝息もたてず静かに床で寝てた時は、知り合いにこんな場所で寝るな紛らわしいって怒られたっけ。
そんな前の話しじゃないのに懐かしいなぁ。
喧騒な人混みの中、ぼんやりとした頭に浮かんだ疑問。
―俺はあの時“死んだ”筈。
自分の最後を思い出し、服の上から腹をさする。
服に切れた跡は残っているが先程まであった傷はなく、血で汚れた箇所も嘘のように本来の色を取り戻している。
多分あの時死んだ事が“転移”のトリガーだとは思うんだが……
今世アチラの世界に転生した時の事も含めれば、トリガーなのは《死》で間違いないだろう。
だが今回は転生ではなく転移。
同じ《死》でありながらこの違いは何かあるのだろうか……?
生前世話になったとある神を思い浮かべて頭を左右に振った。
いや、まぁ………うん。
なにかしら関わっている可能性が高いような気がしないでもない。
うっかりミスったよ、ごめーん的な軽いノリな口調が今にも聞こえてきそうなくらいありえる。
駄目だ今すぐにでも殴りたくなってきた……
はー駄目だ……
落ち着く為にゆっくりとため息をつく。
足元の石畳を見つめたところで何の解決にもならない。
さっさと目的地に行ってその後考えよう。
視線を上げるとひっそりと佇む路地裏の入り口に視線が行く。
青く澄んだ空、賑やかな雑踏とは真逆なすべてを吸い込みそうな暗闇が支配する。
まるでそこだけ穏やかな世界とは切り離された別世界に感じる。
そう、俺も数時間前までは異世界にいたんだ。
あんな事が起こらなければ……
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