嫌われ宰相は出戻る

亜依朱

第1話 見慣れた景色


「これは……困ったな」



1人の青年が腕を組みがっくりと肩を落とした。


思案して眉尻が下がっているせいか端から見ると迷子になってぷるぷる震える子犬のように見えた。

馬車が余裕ですれ違える程の道幅がある通りではあるが、露天が立ち並びそれなりの活気がある。

いくら、他の歩行者の邪魔にならない道の端とはいえ先程から立ち止まり動かない青年は軽く……いやかなり浮いていた。

 

買い物帰りであろうご婦人やら元気一杯な子供までもが通り過ぎる度にチラッと盗み見てくる始末。

まぁ、ジロジロ見られるくらいまだマシな方だろう、無言で視線を向けて行動を伺うのも分かる。


ただ…

殺気を飛ばしてくるのはやめて欲しい。


しかし、当の本人は困ったなと言うわりには慌てふためくような様子はない。

ただ静かに手を顎に当て目の前に広がる景色を眺める。



眼前に拡がるのは異国情緒溢れるレンガ造りの街並み。

キレイに舗装された道路を行き交う人々の服装は様々で、剣や槍や弓等武器を持った者から肩から足首までの長いローブを纏う者、見ただけでも高いんだろうなと分かるきらびやかなドレスを着飾るご婦人。

露店からは活気ある掛け声があちらこちらから聞こえてきて、店先には新鮮な瑞々しい果物、朝採ったばかりであろう野菜、紐に吊るされた数種類の肉。


ちょうど飯時なのだろう、露店で買った焼き串やパンを頬張っている者。


穏やかな日常を過ごしている。


非日常があるとしたら〝俺〟ただ1人だけだろう。

 

 

いまだにこの状況を整理する情報を掴めてないが、1つ分かっている事がある。




「……う~ん、これって所謂“異世界転移”ってやつだよなぁ。……まさか転生に続いて転移するとは思わないじゃん。……それに……」



首を傾げて深いため息をつく。


 

「…………これは、出戻って来た……ってことだよな?」


俺自信は見たことがない景色だが、前世と言えばいいのだろうか……過去の自分の思い出?

今世では初めて見るが色褪せることない見慣れた街並みに少しの安堵を感じる。



いつまでもこうしてられないので場所を移そう。


あれから何年過ぎてるのか分からないが……街並みが記憶とあまり差異がないのなら建物もだいたいの位置は変わらない筈。


まずは、情報収集と身分証確保のために彼処に行くとしますか。



青年は軽い足取りで石畳の道を進んでいく。


ここ最近激務続きだったし、軽く体動かしてゆっくり読書が出来れば最高なんだけどな……

 

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