冒険者になった暗黒騎士の赤ちゃん
俺は都内の高校に通う普通の高校生、岩崎魁人だ。成績普通の運動普通、唯一ゲームがうまいことだけが自慢なコミュ障。小学校から現役の高校まで彼女はおろか友達すらできない人間だ。元々一人でいる時間が好きってのもあるが、必ずしも俺が考えていることが肯定されるわけでもない。だが頭の中では人類最強の論破王として名をはせている。(頭の中では)
そんなある日、俺は睡眠不足のおっちゃんの危険なトラック運転でひき殺されて、(多分)暗黒騎士として異世界転生した。
町から約10キロ離れた場所に転移されてしまい、幾度となく魔物に狙われる始末だ。しかも武器も持ち合わせがない。
「これは参った、流石に丸腰で虎やライオンがいる檻の中に放り込まれているようなものだしな。早くあの町に向かわないと」
だが運動不足のゲーマーにとって走ることは御法度。そんなことをしては翌日筋肉痛になって大変なことになってしまう。だがどうしよう、また目の前にスライムだのワンちゃんだのが群がってきた。万事休すの状態で武器は己の拳のみ、ここは…。
「あのマジ勘弁してください」ジャンピング土下座!
旧時代伝説のジャンピング土下座をすれば、魔物の心も打ち解けて…ないね、めちゃめちゃ威嚇されてる。ワンちゃんに至っては今すぐにでもかみ殺してやろうかといわんばかりに歯を見せてきている。こうなることは予想できた、そもそも町中ではなく敢えて町から遠く離れた場所に転移させた女神のせいだ。ここで死んでも女神のせいにしよう。(※よい子は軽々しく他人のせいにしてはいけません)
すると突然魔物たちが血しぶきをあげながらなぎ倒されていく光景が目に映った。煌びやかな白を基調とした軽装備で美しく華やかな剣技がまるで白鳥の鼓舞を見ているかのようだ。
「少年無事か?」
腰まで伸び切った銀髪で色白な女性が話しかけてきた!けど人と話したの久しぶりすぎて何話せばいいのかわからない!
「あ…えっと…その…生きててすみません!」ジャンピング土下座がさく裂した。
最後に会話したのは生前半年前だった。学校でも家でもボッチだった俺に「会話」スキルは皆無。
「なぜ謝る、怪我はないか?」
「あ…大丈夫です」
そんなにかわいらしく笑顔を向けられると溶ける!あと神々しい。
「見かけない顔だが、旅人か?」
また質問してきた、女性というのは何か言葉を発していないと生きていくことができない生き物だからな。あと彼女が彼氏に「どうしてわからないの!察してよ!」だの「ごめん、君の話つまらない」だの「えーっと名前は…いわ…さこさんだっけ…」だの他人どうでもいい自分大好き自己中の塊だ。中学校時代に好きな女の子に告白して以来全女子生徒から無視のフルコースをされ、男子生徒内では告白したことへの噂が広まりいじられる。
「中学時代のフラッシュバックがあああああああああああああああああああ」
「急にどうした!自分の顔を殴るでない」元ゲーマー陰キャオタクに女騎士は強すぎた。
「私は近くの王国の近衛騎士をしているレイチェル・アン・ルイスだ、よろしく」
そうか、今の俺の名前じゃ異国(?)の者にとって不自然かもしれない。ここはいかつくかっこよく中二病感溢れる最高の名前を自分につけよう。ここに過去の俺を知る者はいないのだからな!
「我が名はアイザス・ヘルソール・アレクサンドルス。まあ略してヘルとでも呼ぶがよい」
決まった、何度もドラゴン・ミッションというゲームのキャラクター名をパクってシミュレーションした。かっこいい名前であろうそうだろうそうだろう、諸君も満足しているみたいだね。
「ではヘル、これから我が国に入国するのだな。何かの縁だ、案内するぞ」
「それは結構、十分にもてなすがよい」
「助けるんじゃなかったかしら」
そう言いつつルイスの顔パスであっさり入国することに成功できた。セキュリティが甘い!
道中でルイスがパラディ王国の白薔薇騎士団の近衛団長をやっているという話を聞いた。パラディ王国で最も剣の腕が優れている女性騎士だとか。
この世界のルールについても教えてくれた。ベラというお金で売買は可能、旅人ならギルドでクエストを熟せば報酬としてベラやアイテム、勲章ランクが貰えるそうだ。
勲章ランクは冒険者の地位みたいで、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイア、アダマン、マスターがあって、特別なクエストやあるクエストで実績を出すことができればさらに上のクラウン、ゴッド、オメガのランクを貰えるそうだ。世界中でクラウンは10名、ゴッドが4名、オメガが1名と取得権を得ることができるそうだ。
まあそんなに目立ちたくないし、狭き門であればマスターが限界か。すると考え事をしていた俺にルイスが顔を覗き込んでいた。
「ヘルはこれからどうするのだ、宿に泊まるのか?」
「えっと、そうですね。まずはゆっくり休みたい気分です」
「そうか、わたくしは騎士寮に住んでいるから何かあったら訪ねてきてくれ」
学生寮みたいなやつかな。どうせ男女別だろうし行くのは嫌だな。女性しかいない施設に男一人は無理がある。何をされるかたまったもんじゃない、どうせ殴ったり蹴ったり貶したり…。
「なぜ震えている、大丈夫か?」
「問題ないです、是非もし何かあれば行かせていただきます。多分、絶対ということはないから少なくともお金が無くて生きる道がなくなってホームレスになりかけの状態で…あぁ、そうすればもっと罵声浴びせたり暴力されたりされるか、アハハハハ」
「わたくしを何だと思っているんですの、そんなことはしませんわ」
おお女神よ、この美しい顔立ちから放たれるふくれっ面はまさに国宝!結婚したい…
「とりあえず、宿には送ったから自由に暮らすがよい、またな」
ルイスは帰っていった。もうちょっと「あたしも一緒に暮らしてあげよっか?」的な展開を少なからず期待はしていた。少しはラッキースケベイベントがあるかもと期待するもんではないか、だって男子だもの、み〇を。
目の前に立っている宿屋らしき店があるが、少し困ったことがある。宿に泊まるということはお金が必要だ、ポケットの中には昨日まずい棒を買った時のおつり、"5円"がある。だが、ルイスが教えてくれたこの世界の通貨は"ベラ"だった。しまった、ルイスからお金貰うのを忘れた!お金がない!
渋々宿屋から離れてギルドへ向かった。パラディ王国の中心街に大きく聳え立つ建物がギルドとルイスから教えてもらっていたが、聞いといて正解だった。
中に入ってみると食べ物や酒の匂いが入り混じっている。ギルドは冒険者の酒場にもなっているらしいが、意外と女性もいるんだな。女戦士の鎧から生える生足がやたらエロイ。早く宿に泊まっておかずにしたい。
窓口は3種類あって、クエスト、酒場、交渉と別れている。冒険者登録をするにはクエスト窓口だったか。そこにはエルフっぽい女性が立っている。
「いらっしゃいませ、パラディギルドへようこそ。冒険者登録のお客様でしょうか」
めちゃめちゃ美人だ。そもそもこの世界の女性すべてが美しいのだが、実際にエルフを肉眼で見るとアニメとは違う魅力があるものだ。残念だったな諸君、俺はこの受付嬢と結婚する!
「やあマイハニー、僕に冒険者の在り方を教えてくれないか。お礼は僕の妻として…」
「妻は結構ですので、冒険者登録済ませちゃいますね」あっさりとあしらわれた。
冒険者登録に住民票とか身分証明がないとできないもんだと思っていたが、案外数分で終わった。受付嬢からギルドカードと5000ベラを受け取った。受け取ったベラは武器や防具、回復薬や食料に使ってくれだそうだ。だが当面はクエスト報酬の何割かをギルドが徴収するそうだ。つまりこのベラは悪しきベラ、ギルドへの借金だ。失踪すれば監獄行きだとか、真面目にクエストしよ。
「さっそくクエストしたいんだが、ブロンズ級のクエストは何があるんですか?」
「ブロンズでも階級があるの。いきなり討伐系のクエストをすれば死者を出すことになってギルドの株が下がるの。そうしないためにも各ランクごとに階級を定めて納品系のクエストを用意しているわ」
なるほどな、ギルドカードを見れば茶色いマークの中に…文字が読めない!それはそうだ、言語が違うもん。でも会話での弊害はないんだな。だったら文字も読めるようにしとけよ駄女神。
「文字読めないの?ギルドのことも知らないから変だとは思っていたけれど」
「どっかの国の地下街出身で身分も低くてですね」
我ながら苦しい説明だが、こういう時は身分が低いと言っておけばオーケー!
「えっとそこには数字の4って書いてあるの。各ランクには4段階の階級があって、1を目指すの。1になったその次はシルバー4にランクアップする。つまり今のヘルさんは簡単な納品系のクエストしか受注できないわ」
なるほどな、クエスト制限があることも学んだ。とりあえず今日はもう昼過ぎということもあるし、今日で完結するクエストでもやるか。
野菜を配達する、落とし物を探す、愛猫の面倒を見る、薬草を採取する、中心街の石像の清掃…。雑用ではないか、報酬もどれも15ベラ以下。だが、あいにく俺は効率厨だ。
「なら清掃と配達のクエストを両方受注しよう」
あっさり了承された。まあ複数受注は禁止されていないし、報酬は合計8ベラを予想。この報酬で道中に見かけたリンガでも買おう。(リンガとは現実世界の林檎のような果物だ)
早速受け取ったクエスト金(クエスト内で使用するお金のこと)で八百屋に並んでいる野菜を購入。依頼主は高齢で歩くことが困難だそうだ。息子は仕事で買い物ができないからギルドに週1で依頼が来るそうだ。
俺は受付のエルフから教えられた場所に野菜が入った袋を届けて中心街へと戻る。途中に古武器屋があって気になる剣があった。男店主は販売に最初は渋い顔だったが、倍の値段である1000ベラを渡せば機嫌がよくなった。
腰に買った剣を吊るして中心街の石像を掃除し始める。定期的に清掃されているから雨跡の汚れをふき取るだけでよさそうだ。熱心に布を擦っているときに何やらにぎやかになっていた。
「おい、ヘルド様にぶつかっておいて無視は許せねえな~」
いるよねー弱い者いじめして自分の立場の土俵を少しでも高くしている勘違い野郎が。助けようにも騎士団が町の治安をよくするために出動してくるでしょう。俺はそのまま清掃に励むぞ。それに町で不祥事を起こした時の刑罰を聞くのを忘れた。
そうこうしているうちにヘルドの下っ端らしきものが刃物を出した。いよいよまずいことになるか、他の町の人は完全に俺と同じ傍観者になってしまった。アニメでは助けたときはちょび英雄みたいに扱われるようになるが、ここが必ずしもそうとは限らない。だが、命の危機に面しているし町のギルドに入った以上は冒険者らしく助けるか。緊急クエストっぽくなってきた!
俺は清掃する手を止めて買ったばかりの剣に手をかけた。
「おいその辺にしておけ大男」
町の人はすでに青ざめている顔がさらに青くなった。何かまずいことでもやったのだろうか。
「私はゴールドランクの最頂点に君臨するヘルドだが、冒険者になりたての小僧に何ができる。大人しく掃除に戻れば許してやる」
こいつギルドメンバーか、治安悪…。誰だよこいつを冒険者登録した輩は、ってあの美人エルフか。
「でも町に危害を加える者は許せないな、俺も短気な方でね」
「成り上がり風情が調子に乗るなよ!」
そう言ってヘルドと下っ端は剣を俺に向けて切りかかる。相手は大型が2体、いくら冒険者になりたてとはいえ何も策がないわけではない。薄々この世界に来てから己の身体からあふれる力に気付いていた。
「そちらがそのつもりなら遠慮なく」
刹那俺の体から闇深く青く煌々とした光が包む。襲い掛かってきた二人は足を止めている、いや動けないのだ。この瞬間だけは"俺だけの時間"だからだ。秒単位の時間を制止し、攻撃を行うことができる暗黒騎士らしいスキルだ。
俺は瞬く間に足を素早く動かし、彼らの間を走り抜ける。
「ダークスペル・インフィニットソード」
切り付けられた二人は膝を崩し腹から極小の血液が滴り落ちる。まあ真っ二つにできたけどそこまでしたら何言われるか分かったもんじゃないし、あくまで正当防衛だから軽傷に済ませただけだし。
二人はしばらく動きがなかったが、気づいたときには大慌てで逃げて行った。その瞬間完全に傍観者を決め込んでいた町の人が拍手大喝采で盛り上がった。襲われた人はペコペコと礼を言ってくる。べ、別に冒険者としてやったことだし、冒険者になっていなかったら今盛り上がっているお前ら町の人間と同じ傍観者になっていたからな。
ところであれがゴールド帯の頂点だったらゴールドランクの実力が不安になってくる。俺でもゴールドになれるんじゃね!これからの生活が楽しみだなあ。
世界を救済するダークナイトに転生したが、思っていた異世界生活と違う 黒鐵桜雅 @koritukun
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