ミラ・チェルニー旅行記〜夢の世界に閉じ込められた魔法のお伽話〜

名雲 ちとせ

工業街の時計屋の娘

ここは国の中で一番、工業が栄える街。

湖や山は平原、さらには海まで見えるというまさしく、自然と一体化した場所である。

この街は工業で働く人のために作られ、

店の多くは工業関連になっている。

昼となれば機械の音がひしめき合い、

夜になれば仕事人達が踊り狂う街だ。

そんな街の中、人気を集める店があった。

その店の名は、『チェルニー時計店』。

代々受け継がれてきた巧みな修理技、

この街一番の職人のリジュームおじさんと

その家族や友人らが営む人気店だ。

その店には小さな頃から店の手伝いをする娘がいた。ミラ・チェルニーという女の子だ。

「いらっしゃいませ、

今日はいかがなさいましたか?」

長女と接客を任されている看板娘でもある。


チェルニー家の次女で、学校に行った後は

部屋に篭っているが、なかなか部屋から

出てこない。一体何をしているのかと友人のアンが部屋を訪ねてみたところ、

一人で黙々と掛け時計の修理をしていた。


「ミラ、部屋から出ないでどうしたの?」

「アン!ちょっと来て!」

アンが恐る恐る部屋に入る。見えたのは、

ミラの机の上の、修理された時計だった。

アンはびっくり箱の中身の様に飛び跳ねた。

「何よこれ!ミラが直したの?」

「ええ、おじさんの技をこっそり

家の隠し窓から見てたもの。」

「見ただけで?天才よ!後継ぎはあなたに

任せられると思うわ!」


そうしてミラは、修理室で一服している

リジュームおじさんの元へ来たのだ。

「おじさま、この時計を見てください。」

「…どれ、見せてごらんなさい。」

おじさんは時計を見ただけですぐに仕事へ

取り掛かる体質の人だ。失礼かと思い、

私は落ち着いた薄暗い部屋に言葉を放った。

「おじさまの休憩の時間が終わったらで

いいので、ごゆっくりなさってください。」

「いや、時計を見る余裕はある。」

そう言って、修理した歯車などを

念入りに眼鏡からじっと覗く。

すると、おじさんは溜息をついた。

「君にしてはよくやった方ではないか。

褒めてあげよう。…だが、話しておくよ。」

「はい。」

私は息をゴクリと呑んだ。

真剣な眼差しで私の眼球を見るその姿は

時計を修理する姿と重なって見えたのだ。

「君に任せる事は出来ない。」

辛い言葉だった。ここの店で一番の腕に

言われると、やはり底辺の私では駄目だと

確信させられてしまう。私は言われた事を

無かった事にして、地下の修理部屋で

捨てられた時計や材料を深夜にかき集めては

作業にのめり込んでいった。


それからも、毎日おじさんの弟子に

してもらおうと許可を取るものの

「お前は看板娘が一番似合う。

こんな狭い世界では背筋が曲がる。」と

言われ、短く終わってしまった。

最近では部屋すら入らせてもらえない。

しかし、希望はまだある。十個直せば

流石に認めてくれるだろうと思い、

また修理にのめり込む日々が続いた。


また、修理室へ向かおうとすると

肩を強く引かれた。その手はおじさんの

力強い手だった。数々の時計を直した、

その手はとても心がこもっていた。

「お前の気持ちは分かる。

しかし、私はお前の将来を考えて

この結論を出しているのだ。ありがたく

思わないのかい。」

「…ごめんなさい。」

突然の苦しみに耐えきれなかった。

おじさんの厳しい言葉は胸に突き刺さった。

それでも、私は引き継ぐ事を諦められない。

家族だからこそできるものがある。

家族で時計を直せるのはおじさんと私だけ。

友人ではいるけれど、なぜ家族に任せられ

ないのだろうと思い、渋々と部屋で

時計の修理を続けた。




















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ミラ・チェルニー旅行記〜夢の世界に閉じ込められた魔法のお伽話〜 名雲 ちとせ @chitose2314

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