第六章 繰り返す歴史 4
延々と続く一直線のトンネルだった。所々にLEDライトが灯っていて、かなり先まで延びているのは確認できる。どこまで続いているのかは見当も付かない。
トンネルの中の殆どを占めるパイプの中は真空になっていて、レーザー光線が飛び交っている。その歪みで重力波を検出するのだ。微弱な重力波を検出するにはレーザー光線の飛ぶ距離を長くしなければならない。恐らくパイプの総延長は三キロ以上あるのだろう。
さらにその検出精度を上げるために冷却されている。冷やせば原子の熱振動がなくなり精度が上がるからだ。パルス管冷凍機でマイナス二百五十〇度くらいの極低温になっている筈だ。
歩みが中々進まない。地下道の狭さと、この寒さで体が思うように動かないのだ。吐いた息がLEDライトに照らされて、いつまでも白く漂っている。
無心で歩いた。どれ程の時間が経ったのか。腕時計を見ると止まっていた。内部のオイルが劣化していたのだろう。寒さで粘度が高まり歯車が動かなくなったのだ。
歩いたのは一時間か、二時間か、時間の感覚がない。太陽や星々の動き、車窓に流れる風景、何でもいい、客観的な何かがないと時間の感覚は麻痺していく。
人間の脳は視覚や聴覚、嗅覚など五感を総動員して、そのネットワークから時間を知覚すると何かの本で読んだことがある。五感には脳内にその感覚を司る皮質があるけれど、時間だけは知覚する皮質が見付かっていないそうだ。
時間の中で生きているのに、それを知覚する器官がないというのは不思議だ。もしも時間を動かしている物質があったとしても、人類には感じることが出来ないということなのだろうか。僕たちはその能力を元々持っていなかったのか、それとも体毛のように進化の過程で失ってしまったのか。
パイプが巨大なタンクに接続されている、少し広い空間に出た。
大型の冷凍機が唸りを上げている。此処がトンネルの先端なのだろう。タンクの中にはレーザー光線を反射させる鏡が入っている筈だ。空間の隅に、天井のハッチまで延びている鉄梯子がある。
覆面の連中にエリザが諭すように言った。
「此処を上がれば、フェンスがあります。あなたたちなら難なく乗り越えられます」
「お前、先に出ろ」ナイフを持っていた覆面男が凄む。
「私たちには、きょう大事な実験があると言ったじゃありませんか」
覆面男は聞く耳を持たず、「行け」と顎をしゃくる。
エリザは仕方がなさそうに鉄梯子を登り、ハッチを開けて外に出た。筋肉質の男がそれに続き、次に増渕に上ってくるように指示をした。言われた通りに鉄梯子を登ると、フェンスの手前に設置されたコンクリート造りの小さな資材置き場の脇に出た。
波の音が聞こえている。稲妻が走る空と漆黒の海との境目が、フェンスの向こうにぼんやりと確認できるくらいの明るさになっていた。
覆面の女に続いて、最後に出てきた男がズボンの裾を捲った。アンクルホルダーに大きなナイフが収められている。男はナイフを抜いて増渕の喉元に突き付けた。
「約束が違います」エリザが抗議する。
「最初に言った。逃げ切るまで付き合ってもらう」
男が薄ら笑いを浮かべてこちらを覗き込んでくる。何も答えずに視線を逸らした。筋肉質の男に後ろ手に締め上げられる。抵抗する度胸も気力もなかった。必ず戻って来られる、その確信が揺らいでいた。
ナイフを突き付けていた男が、そのナイフの背のギザギザ部分で、支柱に沿ってフェンスを切り始める。ものの五、六分で、人がひとり腹這いになって抜けられる隙間を作った。その隙間から鉄梯子を登ってきた順番でフェンスの外に出る。
立つのがやっとのスペースがあり、その先は高さ二メートルほどの断崖だった。下は海だ。潮が引いているのか、砂浜が僅かに姿を見せている。
ナイフを持った男に突き落とされた。四つん這いになって着地する。ポケットからスマートフォンが飛び出しそうになって反射的にそれを手で押さえると、バランスを崩して肩から砂地に突っ込んだ。頭が少し海水に浸かった。
ようやく立ち上がったところに覆面の女が降ってきて激突した。背中から砂浜に叩き付けられる。何とかスマートフォンは守ったのだけど、覆面女が海に落ちた。ずぶ濡れの女が日本語ではない短い言葉を発して立ち上がり、こちらの太腿に蹴りを食らわせてきた。相当なキック力だった。痛みに耐え切れずに
皆が砂浜に下りると、ナイフを持った男が同志二人と相談を始めた。それを聞いていたエリザが「こっちです」と歩きだす。彼らの言葉が分かっているようだ。
筋肉質の男に腕を掴まれて引き起こされた。連行されるようにエリザに続く。ナイフを持った男と覆面女はその後ろを悠然と付いて来ている。
波打ち際を暫く進むと、小さなビーチの先に街路灯に照らされている建物が見えた。初めて嘉手納基地に来た時に、刀根と待ち合わせをしたレストハウスだった。
エリザは駐車場を横切って陸揚げされたプレジャーボートの間から桟橋へ出た。台風の影響で荒立ち始めた波が打ち付けられて、所々で水柱を吹き上げている。その桟橋に一隻の中型クルーザーが舫われていた。増渕はその甲板に放り込まれた。エリザや覆面の連中も乗り込んでくる。
ナイフを持った男はエンジンルームの蓋を開け、手動ポンプのようなものを確認すると、操舵席のキーシリンダーをナイフでこじ開けた。中から引き摺り出したイグニッションスイッチに、ナイフの切っ先を突っ込んで二度捻るとエンジンが始動した。
男がGPSの画面を確認して覆面女に手を差し出す。覆面女はズボンのバックポケットから何か取り出そうとしたのだけれど、目当ての物が入ってなかったのか、急に取り乱して増渕の胸座を掴むと何やら喚き散らした。罵られていることだけは分かった。エリザが日本語に変換してくれた。
「さっきぶつかった時に携帯を落としたようですよ」
覆面女は増渕の胸ポケットに入れていたスマートフォンに気付くと、素早く抜き取ってナイフを持っている男へ投げて渡した。
「それは大事なスマホです。返して下さい」
男はこちらを一瞥して電話を掛けると、やりとりを短く済ませてGPSの操作を始めた。緯度と経度を打ち込んでいる。目的地なのだろう。海上で仲間と合流するつもりなのだ。
「返しなさい!」エリザが声を荒げる。
「此処はまだアメリカ軍の基地の中ですよ。逃げ切りたいのですよね」
男は舌打ちしてスマートフォンをこちらに投げ返した。
画面には時刻が表示されていた。
五時十七分――タイムスリップ前の最後の通話記録はこれだったのか。
筋肉質の男が舫いを解き、クルーザーは荒れた海へと進み始めた。覆面三人が操舵室に入り、増渕とエリザは甲板に座らされた。
最悪の乗り心地だった。水面を滑走した第十八天徳丸と違い、推進力や船体の挙動全てが波の影響を受けた。垂直の壁を登ように波を乗り越え、滑り落ちながら左右に揺さぶられる。
一時間もしないうちに気分が悪くなってきた。考えてみれば昨夜から殆ど寝ていないのだ。船酔い対策のひとつは十分な睡眠だと聞いたことがある。それを思い出しただけで食道を熱いものが迫り上がってくる気がした。
船縁に凭れてへばっていると、操舵室から筋肉質の男が飛び出してきた。覆面を鼻の頭まで捲り、上半身を海に出して盛大にもどした。すでに明るくなっていたので、その光景を真面に見てしまい、堪え切れなくなって船縁の外に向かって吐いた。
エリザが「大丈夫です。私がついています」と、優しく声を掛けてくれた。でも頭が腫れぼったくなっていて、何も応えられなかった。
それから三時間あまりして、クルーザーは大海原のど真ん中でスピードを緩めた。
陸地と呼べるものは見渡す限り一切ない。その代わりに進行方向には舳先に三桁の数字が書かれた戦艦が二隻浮かんで横腹を見せていた。国旗は降ろされているようでどこの国の船なのかは確認できない。
間近で戦艦を見て、その巨大さに圧倒された。まるで荒波の山脈を従える主峰のようだ。鉛色の船体が、空を覆いつくした分厚い雲と溶け合って、その攻撃的な輪郭だけが奇妙に浮き立っている。
手前の船は情報収集艦だろうか、三つの巨大なレーダードームを搭載していた。その向こう側で窓ひとつない、のっぺりとした壁面を見せているのはフリゲート艦だ。船首には一門の大砲が装備されている。すでに領海の外なのだろう。でも、こんな近くに外国の戦艦がいることが意外だった。
情報収集艦の中腹から簡素なタラップが降りてくる。その先端には青い迷彩服を着た兵士がひとり立っていて、こちらの覆面たちに向かって手を振っていた。
クルーザーがゆっくりとタラップに近付いていく。操舵室からナイフを持った覆面男が出てきて声を張った。
「お前たち、乗り移ってもらう」
「馬鹿言わないで! アメリカ兵と日本の民間人を拉致するなんて大問題になりますよ」
詰め寄ったエリザの顔を覆面男が平手で打った。
「いちいち
男はエリザの綺麗な金髪を鷲掴みにして船縁に押し付けた。
「いま此処で、海に突き落としてもいいのだぞ」
「彼女から手を放せ!」
咄嗟に臍の下の拳銃を抜いて構えた。初めて手にした拳銃は思った以上に重たく温かかった。震えが止まらない。うねりで真面に照準を合わせることも出来ない。男は少し驚いた顔をしたけれど、その表情が嘲るような不敵な笑みに変わっていく。見透かされている。男はエリザを放し、ゆっくりと両手を挙げてこちらに正対した。
「銃持つの初めてか。それ構えたら、殺るか殺られるかしかない。さあ撃ってみろ」
「僕たちを解放しろ!」
「俺、初めて銃構えたのは十二の時、お前より、腰据わっていた」
銃口を向ければ怯んでくれると思っていたけれど、そうはならなかった。確か安全装置を外せと船長は言っていた。それはどれだ?
視界のピントを拳銃に合わせる。その銃口の先で男がナイフを構えた。
「お前、殺されると思ってないだろ。思っていたら、もう撃っている」
タラップの先端にいた兵士がこちらの様子に気付いて、何かを叫びながら駆け上がっていった。操舵を代わっていた筋肉質の男が振り返り、じりじりとこちらに向かってくる。それに一瞬気を取られた。ナイフを持った男が大きく一歩を踏み出す。
その刹那、エリザが男に体当たりを食らわせて駆け寄ってきた。僕の手から拳銃を奪い取ると、グリップと銃身の間にあるレバーを下げ、上半身を翻して男の足元に向かって躊躇なく一撃を放つ。あっという間の早業だった。
ナイフを持った男はバランスを崩して船縁に手を掛ける。続いて、エリザは近付いてくる筋肉質の男の鼻面に銃口を向けた。筋肉質の男は両手を挙げて動きを止めた。
一瞬の沈黙のあと、突き上げるような衝撃にクルーザーが大きく揺らいだ。情報収集艦に激突したのだ。船縁のナイフを持った男が海に投げ出された。クルーザーは波に翻弄されて、何度も巨大な戦艦の船腹に叩き付けられる。
覆面の女が舵を切ってスロットルレバーを押し込んだ。エンジンが唸りを上げてクルーザーが急発進する。全員がバランスを崩して、銃を構えていたエリザに僅かな隙が出来た。筋肉質の男が飛び掛かり、二人が甲板に倒れ込んだ。
タラップを十数人の小銃を持った兵士が下りてきて、揃って銃口を向けてくる。
クルーザーは大きく弧を描いて、再びタラップに向かって減速を始めた。エリザに覆い被さった筋肉質の男が拳銃を奪い取ろうと、細い腕を締め上げている。空に向かって虚しく銃声が轟いた。
増渕はエリザを助けようとして考え直した。筋肉質の男を何とか出来るとは到底思えなかったからだ。短い思案の末に、覆面女を突き飛ばしてスロットルレバーを押し込んだ。再びエンジンが唸り、クルーザーは急加速して舳先を上げた。
覆面女が鋭い気合の声を上げ、蹴りを繰り出してきた。それを操舵席を盾にして
金属が軋む音がして、覆面女がそちらに目をやる。タラップがフルスロットルのクルーザーに引っ掛かって捻じれている。小銃を構えていた何人かが海に落ちた。残った兵士たちも手摺にしがみ付くので必死のようだ。
覆面女が短く罵るような言葉を発してエリザに向かった。筋肉質の男と揉み合っているエリザの脇で、覆面女が拳銃を奪おうと中腰になって手を伸ばす。夢中で覆面女に体当たりを食らわした。同時にクルーザーがタラップから外れて大きく傾いた。体当たりした勢いと船の傾きで、覆面女は跳ねるように船縁を越えて海に消えた。
増渕はよろけて筋肉質の男の上に倒れ込んだ。咄嗟に筋肉質の男を抱える。クルーザーは猛烈な速度で情報収集艦から離れながら再び大きく傾く。増渕と筋肉質の男はエリザから剥がれ、甲板を転がって反対側の船縁に叩き付けられた。エリザが素早く立ち上がり、筋肉質の男に拳銃を向ける。
「もう終わりです。私たちは嘉手納に戻ります。早くこの船から出て行きなさい」
筋肉質の男は舌打ちをすると、エリザを向いたまま器用に船縁に立ち、手で銃の形を作って、「バン」と撃つ真似をして海に消えた。エリザの肩から力が抜けるのが分かった。
「お陰で助かりました」エリザが傍らに来る。
「でも何でこんなものを持っているのですか」と、拳銃を返してきた。
甲板にへたり込んだままでそれを受け取り、「たまたまですよ」と海に捨てた。
エリザの手を借りて立ち上がり操舵室に入る。GPSの画面にはこれまでの航跡が表示されていた。この航跡を辿れば嘉手納まで戻れるだろう。エリザが操舵席で舵を握った。
「エリザさんは船の操縦が出来るのですね」
「いいえ」エリザは微笑んで目の前に広がる海を指差す。
「でも、ぶつかるものは何もありませんから」
エリザの言う通り、それから四時間、航路上には波の他にぶつかるものは何もなかった。その間エリザは、タイムスリップ現象の彼女なりの仮説を披露してくれた。
彼女の仮説は、過去と現在を繋ぐワームホールによってタイムスリップが起こるのではないかというものだった。そのワームホールは〈量子もつれ〉によって作られるのかも知れないという。
〈量子もつれ〉とは、ペアとなる二つの量子の片方を観測した時に、それが上向きのスピンなら、もう片方は必ず反対の下向きスピンになるという現象だ。ペアとなる量子の場所や種類は様々で、例えば宇宙の端にある電子と、反対側の端にある中性子がペアになっていることも考えられる。その場合でも片方が観測された瞬間にこの現象は発生するのだ。
情報が光速を超えて伝わるために、特殊相対性理論とは矛盾し、不気味な遠隔作用だとアインシュタインは否定した。でも一九七〇年代半ばから一九八〇年代の観測実験で証明されているのだ。
弥生時代と現代が繋がるのなら〈量子もつれ〉による現象としか考えられない、とエリザは力説した。弥生時代とは千八百年という時間の隔たりだけでなく、宇宙規模で考えても途轍もなく遠く離れているからだ。
百三十八億年前のビッグバン以来膨張を続ける宇宙の中で、銀河系は時速二百十六万キロで移動している。千八百年前の地球は、単純計算でも現在の位置と三十四兆五百八十八億八千万キロも離れているのだ。光でさえ届くのに三年半も掛かる。その隔たりは〈量子もつれ〉でしか繋がらない。
つまりタイムスリップは、時空を超えてペアとなっている量子を何者かが観測して片方が急速に未来へ、もう片方が急速に過去へと向かい、その二つの量子が出会って過去と未来を繋ぐワームホールが作られて起こるのではないかというのだ。間もなくその現象が目の前で起こる。エリザは酷く興奮していた。
雨が降り出して急に視界が悪くなった。目前に見えていた沖縄本島が霞んでいく。
「少しスピードを落としませんか」
エリザは「そうですね」と答えたけれど、どうしていいか分からない様子だった。
そっと手を伸ばして、スロットルレバーを引いてあげた。
「これが速度調節なのですね」
「そのようです」
少し速度が落ちて余裕が出たのか、エリザはほっとしたような笑みを向けてくる。
「理論物理学が未来を切り拓いて来たのです。今回もそうなると私は信じています」
「人類はいずれ時間の謎を解き明かしますよ。そうなると今よりもずっと倫理観念の進化が求められると思いますけどね」
「増渕さんは、いま何の研究をなさっているのですか」
「僕は研究者ではありません。否、研究者ではなくなりました。今は修理屋です」
「そうなのですか。これを期に、また研究の世界に戻られては如何ですか。人類史上初の観測実験の関係者なのですから」
「いやあ……」
研究者に戻りたいと思っているのか、自分でも分からなくて言葉を濁した。
「それよりも、ずっと不思議に思っていたことをお訊きしてもいいですか」
「なんでしょう」
「エリザさんは、どうしてそんなに日本語がお上手なんですか」
エリザは少しきょとんとして、「祖父の影響です」と微笑んだ。
「祖父はこの沖縄で日本と戦った兵士のひとりでした。艦砲射撃の嵐の中で上陸地点の砂浜を目指していた時に……」
そこで言葉を切ってエリザは辺りを見回した。薄靄の向こうに点々と光がならんでいる。嘉手納基地の誘導灯だろう。
「ちょうどこの辺りかも知れませんね。上陸用舟艇から逃げ惑う人たちが見えたそうです。祖父は実際に日本人を目の当たりにするまで、日本のことを全く知らなかったといいます。そして知らないことが脅威になり恐怖になっていたと気付いた。祖父は子どもたちや孫の私たちに、知ることが大切なのだと教え込んだのです。私は日本語と物理学を学びました。この世界を知るために物理学を、祖父が戦った相手を知るために日本語を」
目前にレストハウスと桟橋が見えてきた。
「今は日本が大好きです」
エリザは付け加えるようにそう言って、大きく舵を切った。
「桟橋に着けないのですか」
「今は自衛隊や基地反対派がいてゲートから入るのは大変ですから、また重力波検出器を伝って戻りましょう」
胸ポケットのスマートフォンを取り出して時刻を確認する。
十月三日午後三時三十六分。
残されていた記録通りだ。昨夜からの騒動が予め決まっていた出来事だったのか、それとも修正されてこうなったのかは分からないけれど、辻褄は合った。
小さな断崖の上にフェンスが見えてきた。覆面男が今朝作った隙間がそのままだ。
エリザがスロットルレバーを引いた。けれどクルーザーは砂浜に向かっていく。
「あれ? 停まりません」
「そりゃそうです。車じゃないんですから! 伏せて!」
増渕はエリザに覆い被さるようにして操舵席の下に屈んだ。クルーザーは跳ね上がるようにして砂浜に乗り上げる。船底を突き上げるような衝撃が走って、船体が大きく傾いた。身体が反転して、エリザが増渕に馬乗りになる形になる。綺麗な青い瞳が間近に迫って息を呑んだ。
「祖父もこうやって上陸したのでしょうか」
鼻先でエリザが微笑む。その冗談にはっとした。
……これは米軍の上陸だ。
すでにそこまで時間が巻き戻っている。ということは、沖縄が米軍の管理下に置かれる前ということだ。
いよいよ邪馬台国がその姿を現す時がきたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます