第二章 邪馬台国 2
発掘の翌日、建設現場は朝から大騒ぎだった。試掘坑の周りには黒山の人だかりが出来ていて、木之下は友永軍曹を案内するのに、人の海をかき分けながら進まなければならなかった。
「貴様らは持ち場に戻れ」
友永軍曹は怒鳴りながら後ろに続いていたが、誰が言っているのか分からないのをいいことに、「お前が帰れ」と返す声が聞こえた途端、激高して「いま言ったのはどいつだ!」と誰彼構わず掴みかかって殴り始めた。
騒然となって人垣が割れ、ようやく祠が見えた。
「木之下くん、こっちだ」
試掘坑を挟んだ反対側の群衆から、上半身を突き出させた刀根記者が写真機を振っている。自転車屋の倅に肩車をさせていた。
「班長と一緒に中に下りて、祠の前に並んでくれないかね。写真を撮りたいのだよ」
友永軍曹はまだ周りの人夫たちを殴り付けていた。
「班長殿!」木之下は大声で呼び掛けた。
友永軍曹がようやく手を止めてこちらを見る。祠に気付いたようで、「おお」と驚きの声を上げて試掘坑の脇までやって来た。
「刀根記者が写真を撮りたいそうです」試掘坑の中に下りるように促す。
友永軍曹は「分かった」と跳び下り、傾斜に足を取られて天板に手をついた。続いて下りると、友永軍曹は祠の中にあった空の石箱を見詰めていた。
「お宝を見付けたのだな」
「はい。それも途轍もないお宝です」
「おお、それはいい。だがな、此処はそう遠くないうちに戦場になる。そんなお宝を置いておくのは危険だ。どうする?」
「村の人に預けてあります」
「懸命だ。そうか、……それにしても」
友永軍曹が何か続けようとしたのだが、上から刀根記者が声を掛けてきた。
「お二人さん、こっちを向いて」
揃って顔を上げる。写真機を構えていた刀根記者がふらふらとよろめいた。慌てて自転車屋の倅の顔を掴んで体勢を立て直す。
「もう少し踏ん張ってくれよ。君も日本男児だろ」
汗だくの自転車屋の倅が顔を真っ赤にして腰を伸ばし、刀根記者が頭一つ分高くなった。
「はい。撮りますよ。笑って」
うまく笑顔を作れなかった。友永軍曹もわざわざ声を出して豪快に笑っている。
写真を撮り終えた刀根記者は「私はこれで失礼しますよ。急いで記事をまとめないといけないので」と、そそくさと人の海に消えた。残された自転車屋の倅が仰向けになって肩で息をしている。
「大丈夫ですか」木之下は心配になって声を掛けた。
自転車屋の倅が白目を剝きながら笑顔を作る。
……大丈夫そうだ、そっとしておこう。
「班長殿、先ほど何か仰有ろうとしていませんでしたか」
「それは……、儂もな、その途轍もないお宝を見てみたいと思っただけだ」
友永軍曹は石箱の前に屈んで、小声で「冥途の土産にな」と石箱に触れた。
「そんな、まるで死ぬみたいなこと仰らなくても、持ってきますよ」
友永軍曹は顔を上げて、いつになく悲しげな表情を見せた。
「貴様も本当は気付いているのだろ。マリアナ沖の海戦で、あの大本営が〈決定的打撃を与うるに至らず〉と発表したほどだ。もうグアムもサイパンももたない。連合軍は沖縄にも上陸してくるだろう。そうなれば遺跡どころか村の者たちも守ってやれるかどうか分からん」
返す言葉がなかった。昨夜もセツ子を半ば騙すように出土物を預かってもらったのだ。
「さてと、作業に戻るか」友永軍曹が立ち上がった。その言葉には、この飛行場建設に虚しさを感じているかのような響きがあった。
木之下は背筋を伸ばして姿勢を正す。
「班長殿、本日、お宝を取りに行ってもよろしいでしょうか」
友永軍曹が微かに笑みを浮かべて、「許可する」と答えた。
午後の作業を終えて、セツ子の家に向かう頃には陽が傾き始めていた。昨夜は気付かなかったが、その集落はまるで迷路のようだった。
人がすれ違うのがやっとの細い路地の両側に、頭の高さまで琉球石灰岩で作られた石塀が続いていて、視界に入るのは似たような赤瓦の平屋ばかりなものだから、昨夜と同じ道を歩いてきたつもりが何処にいるのか分からなくなってしまった。
仕方なく通行人に訊くと、大通りから入って三軒目の家だった。
石塀の切れ間が門の役割をしているのだが、前庭にもうひとつ石の壁が建てられていて家の中が覗かれないようになっている。その石の壁を回り込んでようやく広い庭が見えた。
木造の大きな母屋と、庭の東側に物置小屋のような小さな離れがある。母屋の雨戸や襖は全て開け放たれていて中が丸見えだった。
昨夜の発掘現場にいた入れ墨の男が母屋の板間で縄を結っている。その隣の十畳ほどの居間でセツ子が勉強をしていた。
「ノロ」と呼び掛けた。
入れ墨の男が咄嗟に身構えたが、木之下だと分かると安心したように作業に戻った。
「木之下さん、どうしたの?」セツ子が手を止めて縁側まで出てきた。
「これ、セツ子さんに」
隣に腰を下ろして、
「わあ! キャラメルだ」
セツ子は敵性語もお構いなしに大層喜んで受け取り、行き成りそのひとつを頬張った。この年の二月に砂糖の配給が止まり民間人は甘いものに飢えていた。軍人だけが特別に加給品として
さらに大和煮の缶詰を二つ取り出して、「こっちは御両親に」と差し出した。するとセツ子は、「いませんよ」とさらりと答える。
「あの人がお父さんでは?」
入れ墨の男を見て訊いたが、セツ子は首を横に振った。
「では、お出掛けされているのかな」
「亡くなりました。父も母も八重山熱です」
八重山熱は蚊を媒介とする寄生虫が引き起こす熱病だ。かつては本土でも恐れられていた時代があり、平家物語や源氏物語にもその記述がある。本土では殆ど見られなくなったのだが、沖縄では依然として都市部から離れている島民たちの脅威になっていた。
「それは、お悔やみ申し上げます」木之下は社交辞令を言って、続く言葉を探した。
先に口を開いたのはセツ子だった。
「母がノロだったものですから、私がこの齢で継ぐことになったのです。最初は嫌でしたけど、今はみんなが助けてくれるので良かったと思っています」
セツ子はちらりと入れ墨の男を見た。男は聞こえてはいるのだろうが、反応もせずに黙々と縄を編み続けている。
セツ子は「
話を切り替えるいい機会だと思い、要件に入ろうとすると、板間の奥からひときわ大きな入れ墨の男が脇取盆に沢山の料理を乗せて出てきた。あまりにも不釣り合いな光景に呆気にとられてしまった。
男はその巨躯に似合わず、セツ子が居間の座卓に放ったらかしにしていた学習帳や鉛筆など、細細したものを丁寧に仕舞って料理を並べ始めた。
「
セツ子が声を掛けると、その大きな男――史達が手を止めて近付いてきた。
「頂きました」セツ子が縁側に置いていた大和煮の缶詰を史達に渡す。
「肉ですね。ありがたい」
史達は深々と頭を下げて缶詰を受け取り、料理を並べに戻った。
「木之下さんも食べていきませんか」。
「ありがとうございます。しかし、私は要件を済ませてすぐに戻らなければなりません」
「要件? 何でしょう」
「昨夜発掘したものを見たいという上官がいるのです。幾つか貸して頂けませんか」
「木之下さんが見付けたものです。貸すも何もありません。ご自由になさってください」
「セツ子さん、いえノロ、あれは古代日本を知るための貴重な手掛かりです。貴方が持ち、戦争が終わったら、ちゃんと調査してもらってください」
「木之下さんが調べられるのでしょ?」
生きていればと言いかけて、その言葉を飲み込んだ。
「はい。そうでした」
「おかしな方」セツ子は微笑んで、「こちらです」と縁側から跳び下りた。
庭の東側にあった小さな離れに向かう。円匙や十字鍬が立て掛けられていて物置小屋のようだが、セツ子によると〈ノロ
扉を開けた正面は天井から床までの大きな神棚になっていた。七福神を描いた古い掛け軸の下に、白磁の瓶子や
他の出土物は
あの奇妙な四角い鏡のようなものも手に取ってはみたが、友永軍曹に説明が出来ないと思い直して弾薬箱に戻した。
神棚の金印を手巾に包み直して上着の衣嚢に入れ、最後に鉄剣を持った。
「明日、また持ってきます」
「今夜は発掘されないのですか」
セツ子の言葉にどきりとした。金印が見付かったことに浮かれて、まだ何も調べていないのだ。それなのに悲観的なことばかり考えて、あの遺跡に真剣に向き合えていないことに気付かされた。
「協力して頂けるなら、十時に」襟を正すつもりで言った。
「藤六さんに伝えておきます」
ノロ殿内を出ると母屋から史達が手招きした。居間には史達と藤六の他にも四人の入れ墨の男たちがいる。皆、此処で
丁重に辞退して帰途に就いた。すでに陽は落ち、大通りから見える飛行場の建設現場は闇に沈んでいる。
兵舎に戻ってそのまま友永軍曹の部屋に入り、お宝――出土物を見せた。
「実に見事なものだ」
その言葉が出るのはもう五度目だった。友永軍曹が掌に金印を乗せて眺め始めてから、かれこれ十分は経っているだろうか。
「これを卑弥呼に授けたと、支那の書物に書いてあるのだな」
「三国志の東夷伝倭人の条です。二三八年のことですから、今から千七百年あまり前に、魏の皇帝が邪馬台国の女王卑弥呼に、〈親魏倭王〉としての
木之下は背嚢から銅鏡や腕輪を出して寝台に並べた。
友永軍曹は寝台に立て掛けた鉄剣の蛇の彫り物を指でなぞり、暫く考えて言った。
「
友永軍曹は事の重大さを分かっていると安堵した。だが続く言葉にそれは打ち砕かれた。
「これらはこの部屋に置いておけ、いずれ処分することになる」
上官の命令は絶対だ。反論は許されない。黙り込んでいると、友永軍曹は金印を手巾に包み直して返してきた。
「何を怖い顔をしておる。その金印は、ノロ……だったか、少女の元に返してこい」
友永軍曹の言動に戸惑ってしまい、「どういうことですか」と訊いた。
「発掘は新聞記事になる。そうなれば、近いうちに上から処分しろとの命令が下るだろう。儂はその命令に従わねばならん。お前は見付けたものは全てこの部屋に置いておるのだ。そうだろう? だから儂はこの部屋にあるものは処分する。残念なのは分かるが、本当に大事なものを守るためだ。理解しろ」
幾つかの出土物を失うことになるが、この時局なら致し方ないということか。処分とはいっても元あった場所に埋め戻すという方法もあるだろう。
「儂はな、どんな学問も真実を追究するという根本は同じだと思っておる。それが政治的な意図や、ましてや戦争などで捻じ曲げられてはいかん。しかしながら軍部にはそう考えていない輩も多いということだ」
木之下は上着の衣嚢に金印を押し込んで敬礼した。
「ご配慮感謝いたします」
野太い雷鳴が轟いて、板葺き屋根を叩く猛烈な雨音が跳ね始めた。
「こんな雨でも発掘は出来るものなのか」友永軍曹が天井を見上げる。
「いいえ」そう答えると、友永軍曹は深い溜息をついた。
「そうか、天も味方ではないということだな」
友永軍曹の言葉は、しかし杞憂に終わった。
約束の夜十時には雨も小降りになり、水たまりすら出来ていなかったのだ。島尻マージと呼ばれる石灰質の赤土は水捌けが良く、降り続く雨を貪欲に吸収していた。歴史の改竄は許さない、そう沖縄が訴えているようだった。
藤六を筆頭に集まった入れ墨の男たちも、「雨など構わん。日本の歴史がひっくり返るなら何でもする」と試掘坑に飛び込んだ。
本土に対する沖縄の恨みは、根深いものがあることは知っていた。
江戸時代の薩摩藩による侵攻に始まり、明治維新後の強制的な琉球王国の廃止と、それに伴う民族衣装や琉球語の禁止は沖縄の人々の尊厳を踏み躙った。古代沖縄に女王卑弥呼がいたとなれば、それは彼らにとって痛快なことなのだろう。
藤六たちに試掘坑の範囲を東方向に広げるように指示をした。祠の開口部が東側を向いていたからだ。そこに祭祀が行われる広場があると推測した。此処がどの位の規模の祭祀施設か知りたかった。
入れ墨の男たちは相変わらず物凄い勢いで掘り進んだ。一辺が五米突の正四角形だった試掘坑は、一時間も掛からずに東に十米突ほど延びて長方形の溝になった。
その東の端から、「おい、おい」と藤六が呼ぶ声が聞こえる。藤六の足元だけが規則正しく並んでいた石畳が丸く刳り抜かれたようになっていた。直径が二米突はあるだろうか。掘ると焦げた木片が出てきた。掘っ立て柱建物の跡のようだ。
この穴に木を立てて柱にしていたのだ。木片が焦げているのは穴に入る部分を焼いて腐らないようにするためだ。柱の直径が二米突もあるから相当大きな建物だったと思われる。
さらに試掘坑を広げると六つの同じような穴が見付かった。南北の直線上に三・五米突間隔で三つ。それと対になるように八米突離れた東側に3つ、規則正しく並んでいる。此処に六本の柱で支えられた巨大な建物があったのは間違いない。しかし住居にしては大き過ぎる。
これはいったい何だ?
並んだ柱穴の中央に立って考え込んでいると、すぐ横に藤六が来て呟いた。
「神アシャギのようだ」
藤六が言うには、神アシャギとはウタキに作られる建物で、神女が歌や舞いを披露して神酒の振る舞いを受ける場所なのだという。女王卑弥呼も神女だった可能性が高いと考えられている。神託を得るために此処に卑弥呼が立っていたのかも知れない。
振り返って崩れた石祠を見る。いつの間にか雨が上がり、祠の向こうに無数の星が瞬いていた。太古から変わらない星の煌めきが、木之下を卑弥呼の時代へと誘っていく。木之下は目前に星を仰ぎ見る卑弥呼の姿を幻視した――。
「何か出ているぞ」藤六が男たちの群がっている一角を指差した。
沢山の土器の欠片が見付かっていた。中には原型を保っている壺もある。開口部の狭い壺は外気に触れる面が少ないので、大抵は長期保存させるものが入れられた。恐らくは酒だ。この建物で儀式を行う時に使われたものだろう。褐色に近い素焼きの表面には弥生時代特有の幾何学模様が描かれていた。状態の良い出土物を藤六に預けて、残った欠片を友永軍曹に渡すために背嚢に入れる。
翌日、木之下は土器の欠片を友永軍曹の部屋に置き、午前の作業を熟したあと、酒保で帳面を買った。いずれ埋め戻される遺跡を書き留めておこうと考えたのだ。
昼の休憩を使って試掘坑の全体像を描き写していると、刀根記者が思い詰めたような顔をしてやって来た。
「木之下くん、僕は本当に悔しいよ」
「何かあったのですか」
「この遺跡の記事が没になった」
それは……そうだろう。出土物まで処分されるかも知れないのに、記事が出るわけがない。
「情報局の検閲官が厳しいのなんの。
刀根記者は思いの丈をぶちまけると、ようやく試掘坑の拡張に気付いたようだった。
「おや、随分と発掘が進んだね」
木之下の顔と持っている帳面を交互に見て、「ときに君は何をしているのだい」と訊く。
「此処を書き残しておこうと思いましてね」
刀根記者は察したのか、少し悲しそうな表情を浮かべた。
「では写真に撮っておこう。あとで進呈するよ」
刀根記者は帳面の描画を見て画角を確認すると、ばしゃばしゃと写真を撮り始めた。
「感光材は統制品じゃないですか。よろしいのですか」
「構わないさ。失くしたことにする。現像しなければ気付かれないよ」
ありがたくて黙って頭を下げた。
「そうだ刀根さん。きょうセツ子さんの所へ行くのですが、ご一緒にいかがですか」
「いいね、行こう」
刀根記者は記事が没になった怒りをぶつけるように、祠や掘立柱跡を次々と写真機に収めていく。そこに自転車屋の倅が慌てた様子で駆けてきた。
「古兵殿、班長殿が探しておられました、であります」
木之下が応えようとすると、刀根記者が先に呼び掛けた。
「いい所に来た。肩車をしてくれないか。この発掘現場をもう少し上から撮りたいのだよ」
「またですか」自転車屋の倅は仕方なさそうにしゃがみ込んだ。
刀根記者が無理矢理その肩に乗ろうとしたので、木之下は黙って兵舎に向かった。
「木之下です」
「入れ」
仮拵えの棚に出土物が綺麗に並べられていた。友永軍曹はそこから土器の欠片を手に取って厳しい眼付きで眺めている。
「先ほど発掘中止の命令が下った。情報局からの要請だそうだ」
「情報局、ですか」
「よっぽど記事が気に食わなかったらしいな。検閲で一も二もなく撥ねられたそうだ」
「聞きました」
「担当官を寄こすから、そいつの目の前で出土物を処分して祠も破壊しろと言っておる」
「まだ遺跡の全貌も分からないのに破壊ですか」
「この国は卑弥呼の存在そのものを消し去りたいのだな。だが命令は命令だ」
「わかりました」
敬礼をして部屋を出ようとすると、「おい」と呼び止められた。
「悪いのは戦争だ。陛下を恨むなよ。陛下もまた被害者なのだ。恨むなら儂を恨め」
木之下は黙って扉を閉めた。
夕刻。木之下は刀根記者と一緒にセツ子の家を訪ねた。家はがらんとしていて、声を掛けると奥から史達が出てきた。セツ子は藤六と一緒に出掛けたという。
要件を話して史達にノロ殿内の扉を開けてもらった。木之下は神棚に金印を戻し、弾薬箱の中にある出土物を一つずつ出して描画を始めた。
「これらは大丈夫じゃないのかね」
「念のためです」
「そうか」刀根記者は残念そうに言って、出土物を種類ごとに写真に収めていった。
作業を終えて外に出ると、ちょうどセツ子と藤六が帰ってきたところだった。藤六が肩に担いでいる銛には一・二米突はある青い巨大な魚が突き刺さっていた。
「なんだい、その魚は!」
刀根記者は挨拶も忘れて魚に駆け寄り写真を撮った。
「この額のでっぱりが、なんとも気持ちが悪い」
セツ子はくすくすと笑って、「ひろさーです。御馳走ですよ」と言った。
「木之下さんが、きょう来られると仰っていたので、藤六さんが獲りに行ってくれました」
藤六が刀根記者に力瘤を見せつけて、にやりと笑みを浮かべる。
「きょうは食べて行ってくださいね」
「それはもう是非に」刀根記者が答えた。
史達がひろさーを刺身や酒蒸し、兜煮に調理して、夕餉は入れ墨の男たち十五人との宴会になった。
木之下は発掘調査が中止になったことを告げて皆に謝罪した。男たちは不満げな表情を浮かべたが、セツ子の「では、続きは戦争が終わってからお願いします」という言葉に渋々納得したようだった。セツ子が続ける。
「それまでは、私たちがお宝を守っておきます」
「ではセツ子さんは君が守らなきゃならないな」
刀根記者が寄り掛ってきた。すでにかなり酒が入っているようだ。
「わかりました」木之下は自分にそう誓った。
藤六が三線を弾いて沖縄民謡を披露すると、皆、忍び寄ってくる破滅への足音を払い除けるように歌い踊って飲んだ。
それから木之下と刀根記者は、加給品を手土産に毎日セツ子の家を訪ねた。
セツ子の勉強の相談にのったり、藤六に三線を教えてもらったり、穏やかな時間を過ごした。
しかしセツ子の家に通い始めて一週間ほど経った日、中飛行場の建設現場にある男が赴任してきたことで、その穏やかな時間は断ち切られた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます