ステータスの確認

 少しだけ、期待していた。

 だって、せっかくファンタジーの世界に転移したんだ。

 ポジティブに考えたら、俺にも魔法とかが使える可能性があるかも〜、なんて。心の片隅では思ってた――んだけど。


「……本当に、俺、魔法とか使えないんです?」

「まあ、多分無理だね〜」



 なんか、ダメみたいです。



 内心沈んでいる俺をよそに、在真さんはステータスの確認を続けていく。


「エティちゃんは……魔力面ではだいぶハイスペックだね〜。ただ……魔術は使えない感じかな〜?」

「は、はい。魔法の心得は少しあるのですが……」

「んー、なるほどぉ〜。でも使用魔法の確認はこの鑑定法じゃ無理だから、また後でね〜」


 頷くエティを見て、在真さんは再びカウンターの奥へと向かった。

 そして、今度は数十秒と立たずに戻ってきた。


「よし、そしたらね〜。はい、お二人共これを。あ、緑色のがエタニティちゃんで、灰色のが励兒君のね〜」


 そう言って、在真さんはカウンターに2つの宝石を置いた。

 俺は言われた通りに灰色のものを取って、これが何かを聞いてみた。


「えっと、これは?」

「レイジさん、これはですね」


 言葉を切ってエティは緑の宝石を手に取る。

 それと同時にエティの手から薄っすらと緑の光が宝石に流れていき……

 

 さっき円盤に血を垂らしたときと同様にヴォン、といった音がして、宝石から空中に向かって何かが投影されていた。


「魔力を流し込んであげると、先程行った能力鑑定の確認を行えるんです」

「……なるほど?」


 つまり、今そこに表示されているのはエティのステータスである、ということか。


 ……どんな感じなんだろ、エティの能力値。

 興味本位で確認してみるか。


 どうやら左と右で大まかに項目が別れているらしく、左が身体的なもので、右が魔力とかそのあたりの能力値が表示されているみたいだった。

 鬼人型オークとの戦闘の後でエティは魔法を使って戦うって話をしてたし、とりあえず右の方を確認してみることにしよう。


「えっと……魔術適性なし……魔法適性あり……魔力保有量……測定不能……?」

「つまりね〜。エタニティちゃんは魔術は使えないけど、持ってる魔力が尋常じゃないくらい多いから、大量の魔力を使う魔法とか、魔具とかを扱えるってイメージだねぇ」

「この、測定不能ってのは?」

「身体に貯めておける総量が多すぎて、しっかり確認できないってことだね〜」


 その他にも、エティの魔力の性質が攻撃、防御、身体回復の3つに特化しているとか、身体能力は並以下だとか、在真さんに教えられながらエティの能力について理解を深めていく。


「えっと、そういえばなんですけど」

「ん〜?」

「魔術と、魔法って違うんですか?」

「あ〜それ、わかるよ〜。何が違うの〜って感じだよね〜」


 クスクスと笑った後、在真さんは説明してくれた。


「両方とも魔力を使うのは同じなんだけどね〜? すごい簡単に言うと、魔術は決められた詠唱とかで、決められた現象を呼び出すもので、魔法は世界の法則を無視した現象を起こしてしまうもの、みたいな感じだよ〜」

「あんまり、よくわかんないですね……」

「んー、一般的には魔術は大体の人が使えて、逆に魔法はあんまり使えない、みたいな……?」


 え、疑問形なの?


「ごめんね〜、こればっかりはちょっと、自分で感じてもらえればなぁって……あ」


 え、なんですかそのしまった、みたいな顔は。

 あ、まさか。


「ごめん……励兒君には魔力がないから……」


 あぁ、やっぱりそういうことかぁ……

 でも、励兒君には魔力がないから、魔術も魔法も使えないし、感じられないよね〜てへぇ〜……みたいな……


「……そ、そんな目で見ないでよ〜。一華先輩困っちゃう〜」

「なんでそんないきなりぶりっ子ぶるんですか」

「いや、その……励兒君からの視線が冷たかったから、少しでもほんわかさせられたらなぁって……あはは〜」


 あなたのそのぶりっ子のお陰で、もう1段階冷たい視線になりました。


 思わずため息が出てしまう。

 

「はぁ……逆効果ですよ、先輩」

「……ごめんなさい」


 しょんぼりとした在真さんはしかし、顔を上げてから胸の前でパン、と両手を叩いた。


「そ、それはそうと〜! 励兒君も自分のステータス確認してみて〜……あ」

「あの、わざとなんですか? 流石に泣きますよ?」


 多分、森で魔物と対峙してる時よりも苦しい思いをしています。


「ご、ごめんてば〜……エタニティちゃん、励兒君のステータス出してあげて〜」

「はい! レイジさん、失礼しますね」


 エティはそう言って俺の摘んでいる宝石に魔力を流し込んでくれる。

 そうすると、先程と同じようにステータスが空中に表示された。


 ひとまず、魔力保有量がゼロとか言われてたし、身体的数値左側から見てみよう。


 とはいうものの、俺は今まで部活に入ってスポーツだとか筋トレや運動などをしてきたわけでもなし。正直あんまり期待はしていない。


 左側のステータス欄には力、体力、俊敏、運、特異の6つがあり、その一つ一つにS、A〜Fでランク付けがされているとは在真さんの談だ。 

 それを踏まえて自分のステータスざっと見てみると……まあ、うん。

 上の方にある力と体力がFの時点でなんとなく察せるなぁ……


「……というか、運はまだぎりぎりわかるけど……特異って、なんだ?」

「それはね〜、その他5つには含めることのできない力というか……根源的な力、みたいなのが当てはまりやすいかなぁ〜」

「根……源的?」


 俺の呟きに在真さんがウンウン唸りながら説明してくれているが……正直、わからん。


「神様から授けられた魔力を介さない特殊な能力とか、生まれ付き持っている能力とか……一概には言えないんだよね〜」

「は、はぁ……」


 よくわからない説明を受けたが、まあ俺には関係なさそうだし、とりあえず頭の片隅……に………あれ?



「…………あの、特異の欄に『不明』って書いてあるんですけど」


 残りの3つを順番に確認していくと、一番下に最後の『特異』の欄の横に、『不明』の文字が。

 いや……なんで? アルファベットで表記されるんじゃなかったっけ?


「あはは、気付いちゃった〜?」


 困った表情の在真さんが、控えめに頬をかいた。


「そこが君のステータスで一番面白いとこなんだよね〜。基本的にその欄って『F』だから……『不明』なんて見たことないし」

「じゃあこれは……?」

「わかんないんだよねぇ……現状だと、これはあんまり気にしなくていいかなぁ〜。というか、気にしないほうがいいね」


 苦笑いでそう促す在真さんも、どうやらこのことについては深くわからないようだった。


 ……まあ、それなら俺にもわかる訳はないし、一度頭の片隅に追いやって。

 今度は魔力的数値右側の確認をしてみる。

 結果は……わかりきってるけど。


「魔術適性あり、魔法適性あり、魔力保有量……なし」


 ……うん、きちんと「なし」って書いてあるな!


「え、えっとね〜? 魔法の適性があるのって、実はすごいんだよ〜? それって魔法が既に使えるってことなんだから〜」


 魔法……か。

 もしかしてそれ、エニティから貰った力のことだったりするんだろうか。

 いや、でも仮にそうだったとしても……


「……でも魔力はないから?」

「つ……使えないね〜」


 先輩……それじゃフォローになってないですって……

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