能力を知るには
「それじゃあ〜、ちょっと待っててね〜」
俺とエティのプレートを持ってカウンターの奥へと入っていく在真さん。その後ろ姿を見送ったと同時に、息を吐く。
「……こんな奇跡ある?」
「わ、私もびっくりしました。まさかレイジさんと同じ世界から来た方だなんて……」
さらに言えば同じ国の出身なわけで。別になにか不都合があるわけではもちろんないんだが、偶然が過ぎるだろこれは。
「でも、先達がいるのはいいことですよ、きっと!」
「まあ、それは確かに」
エティの言う通り、先輩がいるっていうのはいいことだろう。同じ世界から来た人間なら、元の世界とこの世界の常識の違いとかも知ってるだろうし、色々とアドバイスを貰えるのであれば、とても助かるのには違いない。
でも、髪色は薄いピンクだったし、目の色だって紫っぽかったし、本当に日本人なんだろうか……
それとも染めてる? カラーコンタクトとか入れてたり……?
「お待たせ〜」
考えていると、いつの間にやらカウンター越しに在真さんが戻ってきていた。戻ってくるのが思っていたより早くて、思わず変な顔をしてしまった。
「どうかした〜?」
「いや、思ってたより早かったなって……」
「ちょっとって言ったでしょ〜?」
にへらと笑いながら言った彼女は、2枚のカードをカウンターへと置いた。
「冒険者ギルドへの登録、完了しました〜。これからはこのカードで、自動車免許証みたいに身分証明ができま〜す」
「ありがとうございます」
俺に伝わるように説明をしてくれた在真さんに感謝を述べる。俺の横ではエティが「ジドーシャ?」と頭の上にハテナを浮かべていたが、興味がありそうなら後で説明しておこうかな。
「
「は、はい。大丈夫です」
少しだけ頬を染めながら肯定するエティとともに俺も頷く。
それを見た在真さんは、続けて聞いてくる。
「能力鑑定、しておく〜?」
「能力鑑定?」
「うん〜。文字通り、使える能力とか魔力適性とかを確認できるんだよ〜。冒険者として依頼をこなす為には必要なんだけど、施設の使用とか身分の証明とかだけだとする必要はなくてさ〜?」
でも、と俺に目を合わせながら有馬さんは続ける。
「この世界で扱える
「……なるほど」
俺の能力について、か……
森で
それに、あの時に不発になっていたエニティから貰った能力についてもわかるかも。
ちらりとエティに目線を送ると、それに気づいた彼女は力強く頷いた。
多分考えてることは同じ、ってことだよな。
「その能力鑑定ってやつ、お願いします」
「りょうか〜い。エタニティちゃんはどうする?」
「私もお願いしたいです」
「おっけ〜」
気の抜けた了承をして再びカウンターの下を探る在真さん。
今度取り出したのは……円盤と………ナイフ?
「よし。それじゃあ始めよっか〜」
在真さんはそう言って2つのナイフをこちらに差し出してくる。
「血が必要だからさ〜、とりあえずこれで指でも切って〜」
……笑顔でさらっと物騒なことを適当に言ったなこの人。
この差し出しているナイフを使って、指先にでも切り込みを入れろ、ということなんだろう。
「……本当にやらなきゃ駄目です?」
俺、日和る。
「鑑定、したいんでしょ〜?」
「それは……まあ」
変わらず笑顔のままの在真さんに問われて言葉に詰まる。
いや、でもわかって欲しい。突然ナイフ渡されて自分を傷つけてね! なんて言われてはいそうですかってすぐにできる人いるの?
……この世界にはいるのかもしれないな。
「んー、怖いなら私がやってあげよっか〜?」
「え?」
思わぬ申し出に素っ頓狂な声が出た。
「私、偶にドジっちゃって指先どころか手首の方まで、こう、ザクザクってしちゃう時あるけど〜」
「いや痛い痛い、表現がすごく痛い」
「それでも私がいい〜?」
「……それ聞いてお願いしますって言う人いると思うんですかね?」
「え〜」
もう指先切るどころじゃねぇじゃん。何針も縫う羽目になる怪我じゃん。
「それなら頑張って〜?」
クスクスと笑いながら、彼女はナイフを再び俺の方に差し出す。
まあ……そうするしかないよな。そもそも鑑定したいって言ったの俺だし。
ナイフを受け取って刃を上向きにし、右手の人差し指をゆっくりとあてがう。ナイフを持った左手が緊張でやや震えているのを見てか、在真さんが小さく笑った。
「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ〜、失敗したら死ぬわけじゃないんだから〜」
「いや、それでも怖いものは怖いですよ」
というか、誰だって痛いのは嫌だろ?
「それにエタニティちゃんはもう終わらせてるし〜」
「へ?」
思わず横を見ると、そこには指先から溢れる血を円盤に垂らすエティの姿があった。
「……? どうかしました?」
「……いや、なんというか……平然とやってのけるなぁって」
エティ、思ったより度胸あるなぁ……
「えっと――あぁ! レイジさん、大丈夫です! 鑑定に使用する際のナイフには特殊な魔術が掛けられていて、そのナイフで切りつけた傷はすぐに治るようになってますし、そもそも痛みも感じないんです!」
「あ〜、エタニティちゃん駄目だよ〜。ネタバレになっちゃうよ〜」
「あの、殴っていいですか?」
一瞬ほんとにイラつきましたが?
……とにかく、エティもこう言ってるしとりあえずはやらないと話が進まないか。
震える指を在真さんへのイラ立ちに任せてスライドさせて……と。
指先が切れる感触の後、滴り始めた血がポタポタと円盤に垂れていく。
それが円盤に刻まれたくぼみを満たすと、青白く光り輝いて、空中に文字を映し出した。
「ふむふむ……なるほど……」
円盤から浮かび上がる情報を見ながらボソボソと呟く在真さん。
「…………励兒君、面白い感じのステータスしてるね〜」
「面白い感じ?」
「うん〜、魔力の適性が抜群。どんな魔法も魔術も使える素養があるよ〜。持ってるね〜」
「は、はぁ……」
魔力適性か……
後方で戦うような魔法職みたいなことができるってイメージで合ってるだろうか。
「あ〜でも」
と、声のトーンを落とした在真さんは、深刻な表情で続けた。
「――保有魔力はゼロだね」
「ゼロ」
「うん、ゼロ」
「ゼロだと不都合がありますか?」
「そのままだと魔法も魔術も使えないってことだね〜」
「……ですよね」
まあ、うん、そうですよね〜……
いや、宝の持ち腐れじゃねぇか。
「……うん、やっぱり持ってないね〜」
そんな、悪意の全く感じられない笑顔で言わないで欲しい。
本当に悲しくなるから……
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