第17話 正体不明<ノーネーム>と星王剣
「――――――――――――――――――――――――――――⁉」
――
――三人は再び同時に気付き、振り返る――。
それは魔獣(ワアルウルフ)とは、比べ物にならない程の魔力量だった。
「……これは……デカいネ……」
ゆっくりと蓮花が
イザベルは、<異空間収納鞄>から魔石を取り出し――
それはアウレ達からだいぶ距離のある位置。
森の奥にいる。
しかし、魔獣討伐の熟練者である二人は早々に臨戦態勢をとった。
アウレはその意味を思い知ることになる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――――――――――――――――――――――――!?」
――突如、魔力が更に膨れ上がる。
それはその場所から破裂、二つに分かれ……。
そして、…………。
――響き渡る、怒号と土子埃。
何かが高速で――来る。
「――イザベル!!!!」
――刹那、蓮花が叫ぶ。
――我、問う魔導の理を万象にて現し溢れよ、障壁なり我を護れ
イザベルの詠唱。
投げた魔石が輝り、目の前に
――瞬間、前方から眩い光が視界を三人を飲み込む。
――強烈な
――透明の壁に直撃し――火花を散らす。
腹の奥、響く轟音が三人を襲い、目の前の巨大な壁に深くひびが入る。
地面に落ちた魔石は衝撃に耐えられずガラス細工のように砕け散っていった。
吹き荒む熱風の中、イザベルは歯を食いしばる。
かざした両手は魔術と呼応するように、小刻みに震えていた。
壁の魔力の出力がその壁の強度と関係しているのだろう。
――熱光線はなお、止まらない。
壁は瓦解する音を立てて、一つ、二つと崩れ落ちる。
――そして、最後となった壁に――。
――迫る。
(ヤバい、ヤバい!)
何もできないアウレはただ焦るしかない。
「――イザベル!ふんばるネ!!!!!」
強い口調で蓮花が叫ぶ。
「……分かっ……る……わよぉぉおおおおお!」
最後の壁にヒビが入り、もうダメかと思った瞬間。
その熱光線は勢いよく、二手に分れ――。
――三人の左右、横を光速で通過したのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
辺りの木々は一瞬にして焼失。焼き焦げ、煙炎と熱風が立ち昇る。
抉れた地面からは、灼熱の赤だけが残った……。
(なんだこれは?四尺玉<花火>が直撃したっていう威力じゃねえぞ……)
アウレは肝冷やす。このレベルの魔術を間近で見たのは初めてだった。
そんな様子のアウレを気にする様子もなく、二人は煙の向こう、大きな影を凝視する。
視界を塞ぐ煙が晴れ、遥か向こう、その魔獣は姿を現す。
それは遠目からでもわかる大きさだった。
「イザベル、あれ、なにか、わかるアルか?」
拳を構えたままの蓮花が問いかける。
「さあ、見たことないわね。……たぶん、正体不明(ノーネーム)魔獣だと思う」
小さく汗をかき、自信なく答えるイザベル。二人に安堵、余裕はない。
そんな中、アウレは大型魔獣の姿に驚愕した。
魔獣の大きさではなく、姿にだ。
――そう、生前に食べたことのある、あの……。
(す、す、す、
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――すっぽん。亀の仲間で、自己防衛力が強く、一度噛みついたら雷が鳴っても離れないと揶揄されるほど凶暴性がある動物。日本古来より食文化の中で栄養豊富、滋養強壮にもいいとされ精力剤にも使われるほどである――。
目を凝らす先、確かにすっぽんである。
だがしかし、……その大きさは全くの規格外だ。
まるで、動く城のような。巨大な岩石を背負ったすっぽんであった。
一歩進む毎に、地響きが轟く。
邪魔する大木を気にも留めず――なぎ倒す。
その様子はまさに暴虐王の前進。
(こんなのと、どうやって戦えって言うんだよ……)
アウレは精一杯の虚勢を吐き捨て、気を引き締め直す。
そして……。
その大型魔獣の眼が紅く煌めく……。
――再び、強烈な魔力を練り始めたのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
大型魔獣が魔力を練ると同時に、蓮花も魔力を練り上げる。
――練功術の『外功』 技を『硬気』――。
しかし、アウレの碧い瞳には、いつもとは違う『魔力』が映っていた。
蒼白い靄は光を増し、完全な白へと変質していく。
蓮花の身体により厚く巻き付く――。
やがて、
その姿はいつもの蓮花ではない。
我を忘れた獣、いや――猛獣だ。
四足歩行のような構えをとり、牙を鳴らすように虚空を睨む。
鋭い爪で地面を掴む。
その結果、放射状にひびが入る。
それは強大な『魔力』の溜めであった。
高速で『白い魔力』が循環していく――。
――そして、一気にそれを爆発させた。
土埃は粉塵と化す。高い高い飛翔。
それは到底、人の動きとは思えないほどの速さであった。
蓮花の身体は、弓なりに一直線、大型魔獣の元へと向う。
その様子を見た、イザベルとアウレも静かに目配せをし……。
蓮花の動きに呼応するかのように『瞬歩』で後を追ったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
駆け抜ける上空、木々の隙間から蓮花の小さな影を追う。
跳躍する蓮花は大型の魔獣との差が、見る見る縮まっていくのが分かる。
――と、同時に、大型魔獣の口が大きく開き……奥に光が灯り始めた。
(また、あれが来る……)
そう、警戒するアウレにイザベルが風に乗せて、そっと呟く――。
「――お嬢様、ご覧下さい。あれが蓮花の――
蓮花は空中を蹴って回転し、勢いそのままの反動を使って――『魔力の爪』を振り被る。
大型魔獣の右目に獰猛な獣の姿が映る――。
――刹那、その鋭い爪で深く抉り取った。
――瞬間、断末魔が響き渡った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!?
――大地を揺れ。咆哮に木々が揺れ……。
大量の血が溢れ出す。
大型魔獣はたまらない様子で、甲羅の中へと首をひっこめる。
猛獣と化した蓮花は、止まらない。
無情にも執拗な追い打ちをかけ……。
甲羅の外側からその鋭い連撃を刻み付けた。
「――!?」
……が、ビクともしない……。
それは……岩以上の強度、硬い甲羅であった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ようやく、大型の魔獣にたどり着いたイザベルとアウレはすぐに行動を開始する。
イザベルは空高く、無数の魔石を投げ……。
――我、問う魔導の理を万象にて現し溢れよ、霊糸なり縛れ
魔石と魔石が透明な糸で結ばれ、巨大な一つの網となり大型魔獣に被さる。
大型魔獣はその網をどうにか解こうと動く。しかし、暴れれば暴れるほど絡まる。
それは動きを抑制する魔術であった。
一方、アウレは魔力を練る。
魔獣の側面に着き、甲羅の上から斬撃を打ち込んだ。
しかし、傷ひとつ付かない。
(駄目だ!こうじゃなくて!もっと……)
アウレは休まず連撃を続けた。
違和感は、『推手』の特訓からあった。
『魔力制御』の感覚。
『外功』と『内功』。
その流れを意識し、一点に凝縮するイメージ。
それは……散らばる点と点が一つずつ繋がり、線になるイメージ。
徐々に魔力、剣速が速くなる……。
そして、少しずつ、甲羅を削りひびが入り始めた。
(――よし、いける!)
そう、思った――次の瞬間、大型魔獣の頭が射出。
(――!!!!!?)
アウレの視界は大きく開かれた魔獣の口が迫り……。
一瞬で、暗闇と飲み込まれた。
食われたか……と思ったアウレはゆっくりと目を開けると……。
――蓮花がアウレを抱きかかえながらその場を離脱していた。
「ふー、危なかったアルよ……」
さっきまでいた場所、後ろの大木は、根元から抉られなぎ倒されていた。
「大丈夫ー!!!!」
たまらず、イザベルが叫んだ。
蓮花は「二人とも無事ネ!」と指でピースサインを作った。
アウレの視界に大型魔獣の顔が映る。
大型の魔獣は相変わらず、逃げる様に甲羅の中へと籠もっていく。
その姿を見て益々、「すっぽんだなぁ」と、思うのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「さーて、どうするネ」
アウレを降ろした蓮花は大型魔獣を見下ろし、呟く。
その横顔は湧き上がる感情が漏れ出るかのように、――冷笑。
そして、蓮花は再び、魔力を練り高く飛翔。
『魔力の爪』で魔獣の甲羅に細かく傷をつけながら登っていく。
……魔獣の甲羅の頂上へとたどり着き……。
――掌を甲羅につけて、深く息を吸う。
……目を見開いた瞬間、掌底放つ。
――練功術の『発勁』――。
一瞬、辺りは静まり……。
……。
やがて、衝撃が波のように伝わり、甲羅に大きなヒビが入る。
「――――――――――――――――――――――――――――――――!?」
――再び、大型魔獣の断末魔が響き渡る。
そして、力なく甲羅から首を出す――。
――その隙をイザベルは逃さない。
――我、問う魔導の理を万象にて現し溢れよ、霊糸なり縛れ
すかさず、投げた複数の魔石は光り出す。
四方の魔石から放出された光る糸は、魔獣の首筋に絡まり巻き付き――。
――大型魔獣は殻に籠ろうとするが、――巻き付く糸が邪魔で戻れない。
(……今、この瞬間……)
アウレはそう、心の中で呟いた――。
大型魔獣の首筋そばで、上段に振り被り、魔力を練る。
――それは不思議と自然にできた。
それは石と石がぶつかり、火花が散るように。
それは草木から露が満ち、雫が落ちるように。
自然に滞ることなく、澄み渡るように。
全身の濃縮した魔力が黒く変質し、一筋の星となり光り……剣の先へと伝い、天へと放つ。
文字どおり、最高の『間』での――
ふっ!と、アウレは口元が綻ぶ。
(何が奥義だ。何が口伝だ。ただの心のあり方じゃねぇか……。)
若き日のあの感情が沸き上がる。
新しくアウレ・マキシウスとして今、この世界で完成する。
――『
――放たれた斬撃は刀身以上に伸び、ただそれを振りを降ろした。
その斬撃は音もなく、大型魔獣の太い首を両断する。
それは一瞬、斬れたか、わからない……くらいの衝撃。
大型魔獣の首は重さで……綺麗にズレて……。
――切り口からは大量の血が一気に流れ、噴き出す。
それは紅い、紅い……血潮の雨だった。
三人はその血の雨を浴び、全身赤く染まっていったのだった。
「いやー、見事な太刀筋だったアルよー!」
大きな甲羅の上から飛び降りた蓮花は、アウレを褒めちぎる。
ちょっと、照れくさいぞ!。そういう反応をしながら、アウレは血の付いた袖で、顔を拭く。
掌に残る感覚……。
それはこの世界で通用する……確信。
開いた手を強く包むように握る。
「ふぅー!……疲れた。蓮花ー!まだ魔力残ってる?」
そう、イザベルが聞くと蓮花は、「とうぜんネ!」といい、大型魔獣の死体をものの見事に<異空間収納鞄>に収める。
なんにせよ、無事終わった……その安堵感に三人は浸っていたのであった。
辺りは血の海。
その中を重い足取りで帰路へ着く。
――アウレ達はまだ気づかなかった。この後、起こる惨劇を――。
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