第14話 魔石と術式
「 にゃろー、あのくそジジイ! 」
所々、焼け焦げてボロボロになってしまった服を床に脱ぎ捨てる。
金色の髪をなびかせ、柔らかな頬っぺたを膨らまして怒る―― アウレ・マキシウス である。
執事長 ゲイリー・バトラー の蛮行に心底、腹を立てていた。
いきなり、あんなヤバそうな魔術を撃ってくるなんて正気の沙汰ではない。
たまに平気でやってくるところがマジで怖い……。
「 ほんと、心臓が止まるかと思いました 」
隣にいる イザベル が、脱いだ服を拾いながら呟く。
次の魔術授業はイザベルの担当である。
しかし、だいぶ時間が押していた。
そこでイザベルの研究室で、着替えをしてもらうことにしたのであった。
「 げえ!……下着まで焦げてやがる! 」
アウレは下着も履き替え、新しい服を受け取ると袖を通した。
イザベル の研究室は少し薄暗く、様々な本や薬、剥製、魔石があり、怪しい雰囲気が漂う。
アウレ は机の上、資料の山を見て、口を開いた。
「 イザベル は……いつもここで魔術の研究しているのか? 」
「 はい、そうですよ 」
栗色の髪をかき上げ、眼鏡をかけ直し、返事をする。
「 どんな研究しているんだ? 」
「 そうですね……最近は 『 魔具製作 』 が主ですかね…… 」
それを聞いて、アウレ の碧い瞳は輝く。
そろそろ、懐がさみしい。
それはホームシックならぬ、ソードシックであった。
「 刀とかは?刀的なものあるか? 」
身振り手振りで逸る気持ちを表現する。
イザベルは少し困惑していたがすぐにアウレが言う物に気づいた。
「 カタナ……?ああ、剣のことですか。残念ながら今はないですね。良かったら見繕いましょうか? 」
「 ……用意できるのか? 」
金色の髪をなびかせ、とびきりの笑顔で喜ぶ。
その様子を見て、何かを閃いた様子の イザベル は少し意地悪な条件を突き付けた。
「 ええ!その代わり、私の座学をちゃんと受けて貰います! 」
「 えー! 」と渋い顔をする
しかし、ちゃんと椅子に座る姿を見て、「 やはり子供ね! 」と微笑んだ。
「 ……ゴホン!それではまず、魔石から説明させて頂きます! 」
そう言って、イザベルは小袋から2つの魔石を取り出す。
「 この2種類の魔石の違いを、お嬢様は知っていらっしゃいますか? 」
アウレは首を振る。
パッと見ると、2つの魔石は同じものように見える。
「 それではこちら2つの魔石に魔力を通してみますね、よく見て下さい! 」
――そう言うとイザベルは魔力を流し始める。
一方の魔石は……何も起こらない。
そして、もう一方の魔石は……
「 これは?……何が違う? 」
「 まあ、簡単に言えば、
「 ……⁉ん……ということは、
「 いえ、術式を通せば使えます。ただ、術式を付与は出来ず、効果も魔力の増幅強化に特化した魔石です。 」
結構、難しい話だな……とアウレは思う。
……つまりはこうだ。
術式の付与できる魔石→ <
術式の付与できない魔石→ <
「 <
ああ、あれか!とアウレは思い出す。
「 また、 <
赤→火魔法、青→水魔法、黄→雷魔法、茶→土魔法、緑→木魔法、透明→風魔法。
ふむふむ!と、アウレは納得し、質問する。
「 この2つの魔石って組み合わせて使えるの? 」
「 出来ますが…… <
と、イザベルは、鞄からもう一つの魔石を取り出し、アウレに見せる。
薄紫色の宝石。
それは、覗き込む碧い眼に、怪しくも鮮やかに映っていた。
「 これは <
「 あれ?……魔石って魔獣からとれるの? 」
「 そうですよ、教わってませんか? 」
「……」
あ、ヤベェ!とアウレは思う。
座学の大半は寝ていて、頭に入ってない。
なんてことが……。
もし、ゲイリーに知られたら……。
後でどんな
考えただけでも、ぞっとする。
「 ……あ、あー!そもそも、術式って、なに? 」
「 『 術式 』 は魔術を使う際の方式ですね。術式の特徴は脆く、使う度に消耗していきます。一般的に 『 魔術師 』 は、術式を付与した <
「 なるほど、そう聞くと――魔法のほうが有利だな! 」
「 そのとおりですね。しかし、弱点はあります。第一に使える属性が決まってしまいます。故の魔法適性です。まあ、ほとんどは各家柄の魔術因子、属性に依存してしまうのですが…… 」
イザベルの口調や説明の仕方が何となくゲイリーに似ているな……。
とアウレは思う。
「 第二に魔術出力が大きいので魔力消費が激しいので制御が難しいのです。その分、一般的の魔術より強い魔術が使えます。 」
たぶん、それは、彼女が ゲイリー の弟子であったからだと アウレ は推察した。
時々、 『 先生 』 と言ってるし……。
「 第三に <
「 あれ?術式って一般的には見えないだよな、どうやって付与すんの? 」
「 それは各国の機密分野ですね。私の国では 『 魔導師 』 と呼ばれ者たちが、 <
そう云うと、イザベルは眼鏡をかけ直す。
「 見せろ! 」と懇願する アウレ に「 駄目です! 」と、きっぱり断るのであった。
……どうやら、この
「 ふーん、術式を付与するのも一苦労なのか?……そう聞くと……やはり魔法のほうが、何だか使い勝手がよくないか? 」
よく分かっていない。
そう曖昧な雰囲気で話すアウレ。
その言葉に……イザベルは嬉々とした表情になり……。
「 ――そうなんです!よくぞ聴いてくれました!そこが魔導士、術式を編む者の最大の研究対象なのです! 」
アウレに迫る勢いで顔を近づけ、一気にまくし立て始めるのであった。
「 < セルタニア魔法国 > の 『 因子魔術 』 は 第二代 魔法皇王 アルベス・セルタニア が作り、広めた……特別な術式です。もちろん < 錬清国(れんせいこく) > の 『 練功術 』、 < べィガル祭儀国 > の 『 召喚魔術 』 も興味深いのですが、……やはり、術式の独自性、模倣しにくいという点で、研究者としては興味をそそられると言いますか……そう考えてみると、 < オドミナル聖教国 > 、 < イドロイト皇帝国 > の一般的な魔術、術式はどこか……
アウレの頭は過度な情報でショートし、プスプスと頭の上から煙が上がる。
「 ……あるべす?れんせいこく?おど?らど?いど……? 」
「 ……あれ?これも
「 あ……。」
その反応に、イザベルは不審そうな目を向けた。
「 …… 」
( この空気はまずい……何とか話を逸らさねば……んー…… )
アウレは腕を組み必死にぐるぐると頭を回した。
文字通り、物理的に。
そして、……。
( ――あ、……そういえば…… )
……とあることを思い出し、不気味に微笑む。
――それは悪知恵が働いた時の顔であった。
「 ……そういえばー、昨晩、トイレに行こうとイザベルの部屋を横切ったとき…… 」
その話を聞いて、イザベルはビクッと反応する。
「 部屋の中から変な声が漏れてきて、……ドアの隙間を覗いたら…… 」
イザベル の顔がみるみる赤く染まる……。
「 ……中でイザベルが股に…… <
「 ――す、ストップです!お嬢様ー!ストップー!!!! 」
アウレ の口を無理矢理、手で塞ぐ イザベル。
その反応を見て アウレ は再度、ニヤリと笑った。
「 あー、俺!魔獣狩りしてみたいなー!魔石採りにいきたーい! 」
可愛いらしく。
わざとらしく。
アウレは無理難題を言う。
その仕草、言動に……。
イザベルは冷や汗をかき、うなだれながら小さな声で返事をした。
――「 ……ぜ、善処します……。」と――。
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