~ 2章 ~ 魔術修行編
第10話 感じる魔力
マキシウス家の中庭。
冬の昼下がりに、アウレ・マキシウスは白い息を吐きながら震えていた。
「むずかしい話は、なしでいくアルよ!」
そう言うと、新しくマキシウス家に加わったメイド |李 蓮花≪リー リェンファ≫は元気よく屈伸を始めた。
しかも、まだ薄雪の残る茶色い芝生の上で、かなりの薄着である。
「この小さな先生は何を考えているんだろうか……」と、アウレは思う。
こんなクソ寒い日に、うすっぺらな服を着させられ、外で魔術の授業を行う……と言う。
まるで正気の沙汰とは思えない。
アウレはその薄着の服を引っ張る。
何の材質かわからないが伸縮性があり、服の上からでもボディラインがクッキリと分かる。
それは李 蓮花も同じであった。
彼女の身体つきは一切無駄のなく、胸に凹凸はない。
(やたら体が柔らかいな……。)
つられて柔軟するアウレの横で、開脚をして、地面に伏せている。
色白の肌が、ほどよく温まってきたのか、じんわりと桃色に火照り出していた。
「――さて、そろそろ始めるネ」
そう言い放つと、開脚の姿勢から逆立ちをし、勢いよく半回転して立ち上がる。
そして……。
二人は向かい合う。
木枯らしの冷たい風が身体を裂くように吹きつける。
その度、アウレは身震いをしていたのだった。
「まずは感じるところから訓練するアルよ!」
「……感じる?」
「そうネ!習うより慣れろアルよ!」
そう、呟くとアウレの胸に触れ、……。
……
「――な!!!?」
思わず、アウレはびっくりし、――胸を抑え、後ずさりする。
その瞬間、一気に体温が上がり、体中が
「ほう、これはなかなかの発育ネ!」
李 蓮花は触れた手の感触を確かめるように、空中を揉む。
(……話に聞いていたが女子の身体がここまで敏感だったとは……)
一生の不覚。だが、悪くない。
アウレは、恥ずかしさと同時に変な扉を開けた感覚だった。
「あははは、ごめんアル。……で……どうだったネ……」
何を言っているんだろうか……この変態は!と思ったが……。
――急に真剣な表情を見せる蓮花。
その顔を観て、――真面目に答えた。
「……どうって?……なんだろ……一瞬……こうっ……熱いものが流れる感じ……」
言葉にならなっていない。
そんな言葉で返す。
蓮花はふんふんと、効果のほどを確かめる様に頷いた。
「そうネ!いま、感じたものが<魔力>というやつアル!」
「え、……。」
「うちの生まれた錬清国(れんせいこく)ではこの力を<気>というアル。この国では<魔力>とよばれているネ!」
胸の熱が冷めない……。
……それどころか、触れられたところが、疼きだす。
……やがて、それは全身へと巡り、暴れ出した。
「……⁉……熱っ……」
「はじまったアルね!」
そう、怪しく笑う、李 蓮花。
アウレはこの寒空の中、全身から汗が吹き出し、地面に零れる。
まるで発熱したかのように息が乱れ始め……。
――そして、その場に倒れこんだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「蓮花さん、お手柔らかにとお願いしたはずですが……。」
ベッドに横たり、もがき苦しむアウレの隣で、執事長ゲイリー・バトラーがため息をつきながら、口を開いた。
「いやー、まいったネ。手加減したはずが、つい、やりすぎてしまったアルよ」
頭をかきながら、李 蓮花は軽い雰囲気で謝罪していた。
まったく懲りていない様子である。
「蓮花ー、貴方はいつも手加減を知らなすぎよ!少しは先生の忠告も聞きなさい!」
隣の眼鏡の少女が、蓮花の額を人差し指で突きながら問い詰める。
彼女の名前はイザベル・フィッツロイ。
李 蓮花と共に新しくこの家のメイドとなった者であった。
栗色の髪を揺らしながら、腕組みをする。
蓮花のその軽い態度に心底、腹を立てていた。
「だいたい、蓮花はいつも加減をしらな過ぎるのよ!魔法師団の時だって……」
と、イザベルは小姑みたいに説教を始めた。
あ、ヤバいネ、これ長いやつアル……と、心の中で思った李 蓮花は全力で腰を折りにいくのだった。
「――ああ、あれネ!さっき、おじょうさまには錬清国秘伝の薬<月命樹茶>を飲ませたから、一晩くらいで、熱も引くアルよ!」
「――そうゆう問題じゃ、――!?……」
――その時、イザベルの口をゲイリーが手で制する。
イザベルは何だろう?と。話をやめ、不思議そうな表情を浮かべていると……。
ゲイリーはお嬢様の様子を見るように促した。
「――!?」
そこには気持ちよさそうに穏やかな寝息を立てるアウレ。
モニョモニョと寝言まで呟いていた。
「……うそ。……発作が……もう、止まってる!!!?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから暫くして……。
アウレが目を開けると蓮花、イザベル、ゲイリーの3人が心配そうに、こちらを覗き込んでいた。
「お嬢様、お加減はいかがですか?」
「へえ!?」
思わず変な声が漏れる。
いつもと見慣れない光景に、アウレは目を強く擦った。
(……なんだこれ?)
三人はアウレの変な様子にきっと疲れが出ているのだろうと察する。
「お嬢様はだいぶお疲れのご様子ですし、詳しい話はまた明日にして、今日はごゆっくりお休み下さい」
ゲイリーはそう呟くと、軽くお辞儀し、二人に退室を促した。
アウレは部屋から出る三人の背中をジッと見つめていた。
――なぜなら、
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