第6話 退屈な座学


 「……ですから、第二代魔法皇王アルベス・セルタニアが広めた魔法を元に……って……聞いてますか?お嬢様?」

 

 リセレポーセの城の一室。

 執事長ゲイリー・バトラーが、お嬢様アウレ・マキシウスにマンツーマンの講義をしていた。

 

 アウレは机の上、頬杖をつき、うたた寝していた。

 

 気持ちの良い爽やかな風が頬を撫で、綺麗な金色の髪を揺れる。

 窓辺に暖かな光が差し込み。

 窓外では小鳥達が、たわいもない会話を囀っていた。

 

 そんな様子に老紳士は、教本を閉じ……。


 小さくため息をつく。

 

 よっぽど幸せな夢を見ているのか。

 可愛い寝顔から涎が垂れている。

 机の下、大きく足を広げて、白のパンツが丸見え。

 それは、はたから見たら貴族の娘とは、到底思えない。

 はしたない恰好で爆睡していた。

 

「またですか……」

 

 そう呟くと、短い詠唱――。

 

 ――その瞬間。


 室内の風向きが急に変わり、風の塊がアウレの頭に直撃――。

 

「――うげえ‼」

 

 椅子からひっくり返り、飛び起きる。

 

 何が起きた?


 ……と辺りを見渡すと……。


 威圧感のある笑顔のゲイリーが、そこにいた。

 

「おはようございます。お嬢様」

 

「……おはよう……。」

 

 まだ寝ぼけ顔をしているアウレに対して、再度、詠唱を行う。


 ……すると、今度は、大きな水の塊がアウレの頭上に落ちくる。

 

 そのことに気付かないアウレは、全身がずぶ濡れ。

 服が透けた状態になって、やっと、目が覚めたのだった。

 

「お嬢様、もうすぐ新緑節(10歳のお披露目パーティー)が近いのでそろそろ一般教義の授業も真面目に受けて下さい。」

 

「へいへい~」

 

 金色の髪からポタポタと水が落ちる。

 これは罰なのか。

 その状態で、講義は続いていた。

 

 どうも勉学はつまらない。

 そんなふうに感じて、窓の外を眺めた。

 

 魔法。


 これはとても厄介だ。

 

 この世界はどういう原理かは知らないが、何もないところから火を出したり、水を出したりする。

 まさに奇妙奇天烈の妖術である。

 しかも、厄介なことに、その攻撃を事前に、察知することができないのだ。

 

 前世では、襲撃や闇討ちは当たり前だった。

 もし、この世界もそのようなことがあれば、この少女の身体では対応しきれないだろう。


 これは早急に対応する必要があるな……と、感じ始めていた。

 

(……せめて、その辺だけで聞いておくか……)

 

 と、講義が続く中、唐突に口を開く。

 

「――で、魔法についてはいつ教えてくれるんだ。」

 

 ゲイリーは驚く。質問してくるアウレがとても珍しかったからである。

 そして、本を閉じ、講義を中断して、答えた。

 

「やっと、興味を持っていただけましたか……しかし、魔法についての講義は新緑節(10歳のお披露目会)が終わってからと思ってましたが……いいでしょう」

 

 そう言うと、ゲイリーは左手を見せ、呪文を唱える。


 ――すると、手のひらから火柱が上がった。

 

「おお!これはどうやって?」

 

 アウレは眠気も吹き飛び、碧い瞳を爛々とさせた。

 ……が、それを制するようにゲイリーが答える。

 

「これは厳密には魔法ではありません」

 

「……はぁ?」

 

「これは魔具によって発動する魔術なのです」

 

「……魔法ではなく魔術?」

 

 アウレはさらに、訳がわからなくなる。

 

 それを横目に、ゲイリーは構わず、講義を続けた。

 

「魔法というのは魔術の一種でセルタニア王国の固有魔術なのです。……ここまで大丈夫ですか?」

 

 アウレの頭は疑問符だらけで、アフロ頭みたいになっていた。

 

「さらに魔術は基本3つの段階で発動します。まず、第一に魔力。これは地上の生き物であれば、多かれ少なかれ持っており、この魔力を動力として魔術、魔法を行使します。第二に術式です。これは魔力の変換や具現化させる方式のことです。この術式は人や魔石に付与させないと行使することができません。この、人が継承し、行使する術式を<因子魔術>と言い、この国では魔法と言っています。セルタニア王家では代々、独自の術式を血に刻みこむことで、子から子へと受け継がれていった魔術なのです。また、大抵の魔術は魔石に術式を付与して行使が一般的です。その場合は魔石を加工し、<魔具>として使います。付与できる魔石には強度や耐久性があり、強い魔力を通せません。なので、消耗品として魔術を行使するのが大半です。まあ、例外はありますが……。次に第三の詠唱です。これは魔術や魔法を行使する際の命令と……⁉」

 

 ……教義の途中で、再び、可愛い寝息が聞こえてくる。


 三度、ため息をついたゲイリーはこの以上の講義は続行不可能だと悟った。


 ……そして、詠唱する。


 ――その瞬間、部屋に電撃が走る。マキシウス家の城内にアウレの悲鳴だけが、大きくこだまするのであった。

 

 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る