第6話 上向いてきた人生の旅路


 

 河合塾を辞めた後、いいこともありました。太宰治賞に応募し、二次通過まで残ったのです。その後も群像新人文学賞に一次通過まで残り、自信が少しはつけました。


 その頃に、とある大学の通信制大学に入学していたのですがスクーリング会場でパニック発作を起こし、大学側から辞めるように言われました。


  提出していたレポートの日付に不備があり、それを指摘すると大学側は逆切れされ、辞めさせられたのです。しかし、その大学を辞めさせられてから、わずか3年後、私は筑摩書房主催の『思考の整理学エッセイ賞』で優秀賞を受賞しました。しかし、大学通信教育部を退学後、またそれから何度目かの入院生活が始まりました。入院中の頃の記憶はあまり覚えていません。しかし、この時の体験が後にラグーナ出版の『シナプスの笑い』の連載小説、『夕暮れ散歩』の発想に繋がります。

 入院中は辛かったけど作品に昇華できました。


 結局、今まで入院を17回もしました。必死になって独学で勉強しても報われない、そんなつらい日々の中で最後の入院のときに母から暇だったら手軽にできる俳句や短歌をやってみたら、と言われ、やってみることにしました。


 結果は思ったよりも早く出ました。オール読物の短歌・俳句の部屋に掲載されたり、角川短歌の読者歌壇や歌壇の読者歌壇に特選になったり、1年後、角川短歌年鑑でBEST20人の3位に選ばれたりしました。なかなか、結果が出なかった小説のほうでも地元の文学賞に佳作で入選し、翌年には九州芸術祭文学賞で奨励賞、次年に二席を受賞できました。

 角川短歌で特選になり、年鑑3位になった短歌を書き記します。


生きることそれは私を許すこと風の中にも光る星がある


・角川短歌特選(共通選)吉川宏志・水原紫苑 2020年8月号


 特選になったときはちょうど病状も安定し、何とか這い上がろうとしていた時期なので、凍ってしまった私の心に春風が吹くような喜びがありました。あの時の喜びはこれ以上の変わりはないほどでした。カクヨムコンを応募するに当たって、拙作を選んでくださったKADOKAWA出版には感謝してもし尽せません。本当にありがとうございます。



 ラグーナ出版との出会いはちょうどそんな頃です。たまたま図書館で借りてきた雑誌、『ソトコト』にラグーナ出版のことが掲載され、大急ぎで連絡するとすぐに川畑社長と会うことになりました。

 ラグーナ出版は精神疾患の当事者による当事者のための唯一無二の出版社で、A型事業所を併設している出版社でもあります。

 川畑社長は今までの私の話を親密に聞いてくださりました。私がどう、つらい目に遭ったのか、川畑さんは懇切に頷きながら何度も聴いて下さりました。普段、見られない出版業界の裏側も知れて、自立訓練のプログラムの中にも文章力講座や読書会、認知行動療法を開いて下さり、充実した3年間を送ることができました。今はラグーナ出版の自立訓練を卒業して、B型作業所が経営するウェブライターをやれるようになりました。ラグーナ出版で培った教養は今の私にとっても滋養となっております。川畑さん、自立訓練の職員の皆さま、この場を借りてお礼を申し上げます。


 

 ラグーナ出版との出会いは一生ものだと思います。今まで大変な目にしか遭わなかったけれども、ようやく春の陽射しが舞い込んだと思います。


 私は治療の一環でトラウマ治療のEMDRを受けているのですが、EMDRを受けてから見違えるように気分が安定しました。EMDRとは眼球運動を駆使しながら行う最先端のトラウマ治療のことでPTSDに有効だと言われています。

 まだまだEMDRは一般的に普及しておらず、支援が必要な方に届いていないのが現実です。

 もう、私のように閉鎖病棟で過ごさざる得ない子供たちがいてほしくない。EMDRを受けてから怒りや衝動性が減り、だいぶ楽になりました。

辛いことは多かったけどEMDRが普及することで少しでも救われる方がいらしたら本望ですね。


 

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