主人公の正体と世界の終わり

 翌日、起きると昨夜の痛みからか、何なのかは分からないが西園寺を救いたいという思いが強く芽生えていた。

 理由はわからない。

 でも、救いたい。

 井上が許せない。

 許したくない。

 殺したい。

 私の西園寺を...そんな憎悪も生まれた。

「呼び出してごめんね」

 思い立ったらすぐ行動に移すのが俺。

 翌日の放課後、俺は体育館裏に井上を呼び出した。

「う、うん。何か困ったことでもあった?」

 井上は何か期待しているのか頬を少し赤らめてる。

「...実は私、井上くんがタイプなの!でも...安心して?いきなり付き合ってなんて言わない。...その、一回してみて相性よかったら考えてくれない」

「......」

 井上は何も言わなかったが、固唾を飲み込む音が聞こえてきた。

「ほら、ここでも胸くらいならいいよ」

 俺は井上の手を取り、自分の胸へと運んでいった。

「さ、流石に」

 井上もその気になったのか、一切抵抗してこない。

 俺はバレないようにスマホのビデオモードを起動させた。

「きゃー--!!!触らないでよ!あなたとは付き合えないの!やめて...いや!本当に無理だから!」

 俺はカメラ目線でスマホのマイクでも拾えるほどの大声で叫んだ。

「ちょ...な、何!?」

 俺は一部始終を取り終えると井上の手を払い、井上の前の前で動画を再生した。

『きゃー--!!!触らないでよ!あなたとは付き合えないの!やめて...いや!本当に無理だから!』

「これ、お巡りさんにみせたら人生終わるね?」

「...な、何してるんだ!?そんなの冤罪だろ!」

「なんのことかな?私、襲われたけど」

 井上は顔を青染め、怒りからか身体を震わせた。

「...どうしてだよ!!!お、おかしいだろ...」

「おかしいのはあなたでしょ?犯罪者さーん」

 井上が歯をぎしぎりとさせながら、俺のスマホを憎らしそうに見つめてきた。

「ちなみにこのスマホを壊してもクラウド上にデータが保存されてるので無駄よ...でも唯一、あなたが助かる方法がある」

意識がハッキリとしなくなっていく。

自分が自分じゃないみたいだ。

「な、なんだ」

 井上は何かに縋る様なそんな表情を浮かべ、問いかけてきた。

「西園寺以外の女の付き合いなさい、さもなくばあなたはこれから悲惨な人生を送ることになるでしょうね」

「そ、そんなんでいいのか!?」

「ええ、だから早くいきなさい?今日中だからね」

 そういうと井上は血相変えて走り去っていった。


「......」

 自室にて俺はただただ頭を抱えていた。

「........どうして」

 意味が分からない。

 なぜ、俺は多少仲が良いとは言え西園寺の為にあんなことをしてしまったのだろう。

 それに西園寺は西園寺できっとあの状況でもよかったのだ。

 誰かに依存しているのは縋っているのは楽だから。

 本当に俺は何をしているのだろう。

 もちろん、昨夜の件でということもあるが、あれはおそらく入れ替わりによるストレスが原因の産物である。

 ......明らかにあれは何かもっと悍ましいものによって突き動かされた。

「あれ...?そもそも俺って誰だっけ」

 よくよく考えるとなぜ俺はれなと同級生である男の姿の俺の肉体がないこの現状に対して疑問も抱かず受け入れていたんだ。

 そもそも、俺は誰だ。

 俺って何なんだ。

 そもそも同級生だっけ。

 全てに対して疑心暗鬼になった俺が毛布にうずくまっているとれなの声が聞こえてきた。

「今までありがとうね。例の紙を読んで、そうすればあなたは救われる」

 優しい優しい声だった。

 俺は例の紙のとやらの隠し場所が何故か机の引き出しの中だと分かったので、すぐに紙を出した。

【結城 れな解離性同一症の疑いがあります】

 ......そうだ。

 俺は俺なんて存在しなかったのだ。

 俺はれなが作る出した概念に過ぎない。

 だんだんと消えていくような感覚がした。

 嫌だ。

 消えたくない。

 死にたくない。

 れなが消えればいい。

 嫌だ嫌だ。

 いくら願っても終わりが近いのは明白だった。

「嫌だあああ!!!!!!!!!」

こうして、俺は消え、本当の美少女の目が覚めたのだった。

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目が覚めたら学年一可愛い女の子になっていた件 はなびえ @hanabie

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