偽名・早口大会・龍帝ヤマト

 なんか凱旋みたいだな……と思いながら歩いてると、玉虫色の翼持ちが背に乗せて飛んでくれた。楽ちんである。


 で、中央。

 迸る魔力が緋炎を伴って渦巻いている。

『――――』

 その真ん中、灼熱をまとった……いや、灼熱以外一糸纏わぬポニテレディが佇んでいた。


「待っていたよ」

 烈火を深紅のレザーに変え、なんかギリギリ隠れてるような乙女が言葉を発する。


「すげェ……」

「映えというにはキワドすぎるが……なるほど」

「こ、ここまで出てると、逆にカッコいいッですね……!」

 メンバー大絶賛。

 娼館でもこんな服用意してないだろう。しかしその非現実感と、彼女の超然とした佇まいが、なんの間違いか『品格』として成立している。なんの裏技だよ。


「……そうジロジロ見るな……っ」

「恥ずかしいんだ……」

「仕方ないだろう。ヤマトは生まれたばかりなのだ」

「生まれたばかりでそのカッコは才能だぜ? ヘンタイのだがなァ」

(言った……)

(こういうヤツである)

「ヘッ、エヘヘッ……」

 リオンちゃんとイヴちゃんは完全に面白くなってしまっている。そのおかげでボクとベルさんが持ち直せたんだけど。


「そこまで言うなら……どのようなものが適切か述べてみよ」

「では、僭越ながら吾輩が……ごにょごにょ……」


 …………。

「ど、どうだろうか……?」

「ベルさん、あんた天才だぁ……」

「であろう? であろう?」

 ベルさんの助言でヤマトちゃんが生成したのは、なんと酒場で働くウェイトレス用のディアンドルだった。所々にオリジナルにはない深いスリットが刻まれ、赤髪が綺麗な頭にはバカみたいにデカいカチューシャまで。


「あまり皮膚を隠すと熱がこもると思ってな。頭飾りも放熱板の役割を担っているのである」

「なるほど。では、そなたが『デザイア』リセ・ヴァーミリオンであるな? なるほどなるほど」

「吾輩はベル=グラッドグルームである」

「?」

 ボクらを見比べるように視線を移ろわすヤマトちゃん。


「ではそちらの、屈強な少女。そなただな?」

「リオンちゃんでェーす」

 リオンちゃんがちょっと飽きてきてる……。ヤンキー座りで手のひらを振り、ぶっきらぼうに名乗った。


「……?? では、…………そちらの、聡明そうな長髪の幼子だな? そなたがリセ・ヴァーミリオンに違いない。ヤマトは慧眼であるからな、全てお見通しだったぞ」

「あッ、えっ? え? あ、イヴ……イヴ・アガペー、です。すみません、へへ……」

 そういえばイヴちゃん、アサナちゃんにもマノムの方の名前教えてないな。イヴ=マノム・アガペー、素敵な名前なのに。事情とかあるのかな。


「…………え、っと………………」

 認めたくない、という目線の動きだ。

 失礼な……。

「そこの……ピンクの小さいの、念の為に名前を聞いてもよいか?」

「ライズ・マゼンタスカイ=シン=スカーレットだよ」

「????」

「いや、誰だよ」

「ややこしくするなバカ」

「リセ・ヴァーミリオンは来ていないのか……?」

 唖然とした顔で、ヤマトちゃんは何やらブツブツ唱え始めた。デザイア曰く、龍語で構築した術式の確認だそうだ。……リセを含まないパーティの拒絶、の見直しか。


「リセ・ヴァーミリオンはキサマであろう、ピンク頭。なぜウソをついた?」

「あー、えっと、王位継承の都合で改名したんだよ」

「なんでウソつくんだよリセ」

「吾輩もライズ=ベル・グラッドグルーム=マゼンタスカイ=シン=スカーレットだった気がしてきたな」

「やめろよ。なんでややこしくするんだよ」

「エヘヘ……ライズ=イヴ・アガペー= マゼンタスカイ=シン=スカーレット……です……」

「なに……ヤマトはイジメられてるの?」

「すまねェな。ちょっと言って聞かせっから、待っててくれ」


 ……。

「はい、すみません。リセ・ヴァーミリオンはボクです……」

 たんこぶガール一号。

「すまんな。気が緩んでいて、つい……」

 たんこぶガールニ号。

「すみません……」

 たんこぶガール三号。

「すまねェな、ヤマト。バカばっかで」

 たんこぶガールの母。

「いや、いい。王家の術式持ちだ、一筋縄で行くとは思っていないからな。しかし……」

 座り込むヤマトちゃん。

「ウソをつかれると、"寂しい"な……」

「「「すみませんでした」」」

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