絶命・絶望・絶天
「――⁉︎」
手応えはあった。確かに触れて、だから斬れるはずなのに⁉︎
「インテリジェンス。なまじ意思があるからこそ『絶望』する――」
またしてもボクの腕がなくなっている……だから振り抜けなかったのか……!
なにより、
「エクスッ⁉︎」
『アヴァロン』に走るヒビ。同じくして、ボクの体にも亀裂が入る。
「"担い手の喪失"。それがお前か、インテリジェンス」
胸に穴が空いたように、一振りの短剣を残して、エクスとの線が切れた。
「エクスになにをしたッ⁉︎」
『おいリセ、落ち着け!』
――頭に情報が流れ込む。
ラヴァンドラの血統術式にして王の証『ディスペア』。『デザイア』が欲の術式なら、『ディスペア』は絶望の術式だ。対象の心を挫く結果のために、あらゆる過程を発生させる。ボクの腕を奪ったり、エクスから担い手を奪ったり。
崩壊する『アヴァロン』。ボクらはまた、『エントランス』に放り出された。
どうする……手頃なダンジョンに入って環境戦に持ち込むか?
……ダメだ。また握り潰されてしまう。
攻撃を続けて、決定打になるか?
……心臓の辺りに核のようなものがあった。アレを狙えるか?
「"吠え立てろ"」
「『ライオン』‼︎」
目も眩むような稲光。
ボクの指先から放たれたものだけではない。
「リオンちゃん……?」
「おォ」
続いて黒群。ラヴァンドラを包み、拘束する。
「吾輩である」
「ベルさんも!」
心強い。……心強い!
「兄貴が世話になったなァ、ラヴァンドラ」
雷槍が身動きの取れないラヴァンドラを撃つ。
「必殺――」
体を低くして、走り出す。
「ぐ、くッ……」
ラヴァンドラはよろめきながらも魔弾で応えた。その全てをベルさんが叩き落としてくれたので、ボクはただまっすぐ進むだけだ。
「いまだ!」
「そこだ!」
「パーンチッ‼︎」
――――ぱしゃり。と、音がした。
◇◇◇
「どうです。これが貴方たちの『絶望』のカタチでしょう?」
「……リセ?」
「っ……! リオンちゃん、距離を取るぞ!」
「リセ、リセッ!」
「リオンちゃん!」
「リセ・ヴァーミリオンは死んだ。諸君らの心もじき折れる。もう用はない……どこへでも行け」
「し、んだ? 死んだって?」
「虚言であるな。リセが死ぬだと? ありえん。笑えん冗談だ」
「……?」
「フ」
「は」
「"リセが死ぬ"のがアタシらの『絶望』だってェ……?」
「吾輩らが忠誠を誓ったリセが死ぬというのは、リセ自らが冒険をやめたときだけなのだよ」
「そォいう意味じゃ、ギリギリだったらしいけどなァ。でもアイツはここにいる」
――――――。
「……なにを………………」
――――。
「"冒険者ナメんな"って言ってんだよォッ!」
「"リセは期待を裏切らない"と言っている!」
――。
ありがたいことだけどさ。
「いや、重すぎるよ……」
「――リセ・ヴァーミリオン…………!」
「リセェ!」
「リセ!」
「熱い声援、ありがと」
ぱしゃりと肉絨毯になったボクだったが、デザイアが絶命を許さなかった。
しばらく意識はなかったけど、あんまり時間は経ってないみたい。
……三人の連携なら、あのダンジョンにもつれ込めるはずだ。
「正直、アレを倒しきる算段はないよ」
「まァ、だろォな。リセと同じ再生能力……いや、リセが同じなのか」
「『ベルゼブブ』も触れた端から呑まれていく。支配どころか拘束もままならんぞ」
「とりあえず、ボクがアレと一緒にあそこの扉に突っ込む。サポートお願い」
頷き合い、疾駆。
目指すは天井。
「必殺パーンチ!」
偽『ベルゼブブ』をまとった拳で、やけに思いラヴァンドラを打ち上げる。
「な、にを――」
ラヴァンドラの抵抗は魔弾のみ。おそらく、とっさの対応にはそれしか択がないのだろう。弾幕ともいうべき物量と必殺の威力だから、そうなるのも無理はない。――が、それはベルさんが余裕で無力化できる程度だ。
電撃で空気が焼かれる。生まれた真空に向かって大気が充填されようとして、風が吹く。追い風だ。
――届く! 偽『ライオン』を指先から天井に飛ばして、磁力のアンカーに。とてつもない力で引っ張られて引きちぎられそうだけど、デザイアがそれを認めない。
「行けェ!」
「リセぇ!」
「――ごめんね」
『エントランス』で一番高いところにあるダンジョンの扉は、鎖で固く閉ざされている。それを最後に残された
決着だ、ラヴァンドラ。
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